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日韓関係――朝日新聞世論調査の結果から見たその危うさ

日韓関係――朝日新聞世論調査の結果から見たその危うさ

 朝日新聞は、3月16日、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が訪日して行われた日韓首脳会談に関連して、18、19日に世論調査を行い、その結果を20日付朝刊で以下のように報じています。

 ①16日に開かれた岸田文雄首相との首脳会談について「評価する」と答えた人は63%で、「評価しない」21%を上回った。内閣支持層では78%が「評価する」と答え、内閣不支持層でも「評価する」は56%と半数を超えた。
 ②徴用工問題で韓国政府が発表した「被告の日本企業に代わり韓国政府傘下の財団が原告に賠償金相当額を支払う解決策」については「評価する」55%が「評価しない」28%を上回った。「評価する」は内閣支持層で65%、不支持層では49%となった。
 ③これから先の日韓関係については、「よい方向に進む」が37%、「悪い方向に進む」は3%、「今と変わらない」57%だった。
 ④内閣支持率は40%(前回2月調査は35%)。不支持率は50%(同53%)だった。

 この世論調査の結果は、わが国国民が、日韓関係の正常化が図らようとしていることそのものを素直に好感したものとは、私には思えません。

 尹大統領は、「徴用工」に関する損害賠償問題について、韓国政府が設立する財団が裁判所によって支払いを命じられた日本企業の賠償金債務を肩代わりする案を発表、これに呼応して日本政府は植民地支配に対する反省とお詫びを盛り込んだ「日韓共同宣言」(1998年10月)を含む歴代内閣の歴史認識の継承を確認することを表明したことを受けて来日し、首脳会談においても、侵略・植民地支配の責任を一切問うことなく、日本側に何らの注文もつけることなく、日韓関係の正常化、首脳間の相互訪問、「シャトル外交」の再開を確認しました。
 客観的に見れば、これは、わが国国民の目には安倍政権以来のわが国の対韓強硬姿勢が功を奏し、韓国側はこれに服した、すなわち日本外交の勝利と映ったことを示している言えるのでしょう。首脳会談を評価する人、「徴用工問題解決策」を支持する人は多数、とりわけ内閣支持層では圧倒的多数であるが、他方で日韓関係は「今と変わらない」と見る人も多数だという結果がそのことを物語っています。そしてその功ありとして岸田首相は株を上げました。

 なんのことはない、これはわが国国民の間に安倍政権が培養した嫌韓・反韓感情が未だ根強いことを示しているのです。

 一方、韓国ではどうでしょうか。

 韓国の世論調査会社「リアルメーター」が13~17日に実施し、20日発表した世論調査では、尹大統領の支持率が前週比で2・1ポイント減の36・8%、「不支持」は同1・5ポイント増の60・4%でした。これは、訪日発表から訪日後の経過を反映した世論調査ですから、韓国国民は今回の首脳会談を決して歓迎していないことを示しています。この結果に、6日に韓国政府が「徴用工問題解決策」を公表した後「リアルメーター」の調査で尹大統領の支持率が4・0%下落したこと、韓国の別の世論調査会社「ギャラップ」の調査では「徴用工問題解決策」に賛成する人は35%、「日本の謝罪と賠償がなく反対」という人が59%であったこと、尹大統領の支持率は34%(前週比2ポイント減)、不支持率は58%(同3ポイント増)、不支持の理由として「徴用工問題解決策」をあげる人が16%と最多でした。

 日韓の世論のねじれは明白です。そのねじれの根底に、日本が韓国に侵略し、植民地支配をした近現代史の難問に対するわが国政府の不誠実な対応、わが国国民の無反省が横たわっているように思えてなりません。これに向き合うことなく、日韓関係の真の正常化はあり得ないと思います。(了)
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袴田事件、検察は特別抗告をするな!

袴田事件、検察は特別抗告をするな!

 袴田事件は事件発生から2年ちょっと、起訴後2年の1968年9月11日、静岡地裁で死刑判決が言い渡されました。私の実務感覚からすると、このような重大事件で、しかも被告人が無罪主張をして強く争っている事件で、このようなスピード判決がなされたことに驚きと違和感を覚えます。

 この判決の判決理由中には、以下のくだりがありました。

―― すでに述べたように、本件の捜査に当って、捜査官は、被告人を逮捕して以来、専ら被告人から自白を得ようと、極めて長時間に亘り被告に人を取調べ、自白の獲得に汲々として、物的証拠に関する捜査を怠ったため、結局は、「犯行時着用していた衣類」という犯罪に関する重要な部分について、被告人から虚偽の自白を得、これを基にした公訴の提起がなされ、その後、公判の途中、犯罪後一年余も経て、「犯行時着用していた衣類」が、捜査当時発布されていた捜索令状に記載されていた「捜索場所」から、しかも、捜査官の捜査活動とは全く無関係に発見されるという事態を招来したのであった。 このような本件捜査のあり方は、「実体真実の発見」という見地からはむろん、「適正手続の保障」という見地からも、厳しく批判され、反省されなければならない。本件のごとき事態が二度とくり返されないことを希念する余り敢えてここに付言する。――

 判決は、このような捜査に対する重大な疑問と批判の持ち、拷問にも匹敵する長時間にわたる過酷な態様の取り調べの結果得られた自白調書のうち44通は任意性に疑いありとして排斥しながら、それらの総まとめともいうべき検察官調書1通については任意性を認めて採用してしまいました(警察は、8月17日逮捕後連日連夜、猛暑の中で取調べを行いました。最後の方では「おまる」を取調室に持ち込んでトイレにも行かせない状態で袴田さんを追い込み、逮捕後一貫して否認を続けた袴田さんも、20日後の9月6日、自白に誘導されたのでした。検察官調書は誘導された警察官の自白調書をなぞり、仕上げたものでした。)。これは裁判官の検察官に対する過度の信頼感と必罰感情のしからしめたものというべきでしょう。

 この検察官調書を支え、静岡地裁死刑判決の最重要証拠となったのが今回の東京高裁決定で次のように捏造の疑いまで指摘された5点の血染めの衣類でした。

――5点の衣類が1年以上みそ漬けにされていたことに合理的な疑いが生じており、5点の衣類については、事件から相当期間経過した後に、袴田さん以外の第三者がタンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できない。この第三者には捜査機関も含まれ、事実上捜査機関の者による可能性が極めて高いと思われる。――(決定要旨)

 本来、袴田事件は、死刑確定判決の第一審、静岡地裁がもっと慎重に審理し、正しく判断しいていれば無罪判決に至っていた筈です。そうすれば袴田さんが人生の大半を死刑執行の恐怖に怯えて過ごすというむごいことを強いることにはならなかったでしょう。

 報道によれば検察は特別抗告する方向で、20日までに結論を出すとのことです。しかし、検察は、そのような愚かなことをして、これ以上権力犯罪を重ねてはなりません。(了)

元「徴用工」の損害賠償問題 ――日韓請求権協定により「解決済み」との論はモラルに反する

元「徴用工」の損害賠償問題
――日韓請求権協定により「解決済み」との論はモラルに反する

 前回3月11日に投稿した「徴用工問題――それでも風車をめがけて突進するのか」において、元「徴用工」らを使役した日本企業に対する損害賠償問題について、わが国政府は日韓請求権協定により全て解決済みであると主張し、当事者企業にもこれを厳守させている中で、韓国政府は、日韓関係の正常化をはかるための苦肉の策として、これら企業の損害賠償債務を自ら創設する財団が肩代わりして支払うという解決策を発表し、これに呼応してわが国経団連が韓国からの留学生に対する奨学金給付をはじめ青少年の交流事業などを行うことが検討することを表明し、近々両国首脳会談をもって手打ちをする話が急進展していること、そのような解決策は韓国司法府の核心的判断を無視するものであること、元「徴用工」らが反対する限り法的には最終決着とはなり得ないこと、及び韓国世論の動向は2015年12月の「慰安婦合意」のときよりずっと厳しい状況であることなどから、もし両国政府がこの解決策をもって手打ちをしたとしても「慰安婦合意」と同様の結果、つまり再び暗礁に乗り上げることになる可能性が高いことを明らかにしました。

 今回は、韓国に侵略し、35年以上にわたる植民地支配の下で、韓国の人たちに精神的・肉体的・経済的に著しい犠牲を強いてきた日本国、日本国民及び関係日本企業が、日韓請求権協定により元「徴用工」らを使役した日本企業に対する損害賠償問題解決済みだと断じることの妥当性・相当性について述べてみたいと思います。
 
 まずアジア・太平洋戦争を仕掛けた侵略者たる日本国は、国土を軍靴で踏みにじられたアジア諸国、生命・自由・財産を奪われたアジア諸国民、無法な侵略を止めるために失われた連合国諸国の兵士の命及び費やされた連合国諸国の富に対して、正当に見積もられた戦争賠償をしなければなりませんでした。
 この点について、当初の連合国側の対日戦争賠償指針は、アメリカの「降伏後ニ於ケル米国ノ初期ノ対日方針」(1945年9月6日、同月22日一部改訂)に示されていますが、以下の如く日本の在外資産の没収、日本国内の侵略戦争を支えた重化学工業と軍需産業の徹底解体及びそれらの資本財と生産物をもって戦争賠償の原資とするという、日本に非常に厳しいものでした。

①日本国ノ保有スベキ領域外ニ在ル日本国財産ヲ関係聨合国当局ノ決定ニ従ヒ引渡スコト
②平和的日本経済又ハ占領軍ニ対スル補給ノ為必要ナラザル物資又ハ現存資本設備及施設ヲ引渡スコト
 
 ところが冷戦の始まると、アメリカの対日賠償方針はガラリと変わりました。一言で言えば、経済復興と産業振興を支援し、日本を「東アジアの工場」として東アジアにおける「自由世界」のセンターとするという目的に資するものへと改められ、それに応えてわが国は、1950年6月に勃発した朝鮮戦争では「国連軍」(実質はアメリカ軍)の出撃基地・兵站基地となったのみならず、日本の産業は朝鮮戦争を支える兵器廠としてフル稼働しました。
 同年11月、アメリカのダレス国務長官特別補佐官が提示した対日講和7原則の第6項は以下のように、日本を特赦し、全ての連合国は、日本に対する戦争賠償請求権を放棄するというものでした。

 「すべての当事国は、1945年9月2日以前の戦争行為から生じた請求権を放棄する。ただし、(a)連合国がそれぞれの領土内において日本人の財産を一般的に取り押えている場合、および(b)日本が連合諸国〔の人々〕の財産を返還する場合、あるいは原状に戻すことができない場合に損害額に関する協定で合意された一定の比率を円で補償する場合は、除くものとする。」

 このようなアメリカの取り仕切りがあり、これに同意した連合国諸国との間でサンフランシスコ平和条約の戦後処理の枠組みが作られ、日本は、戦争賠償の負担を免れることができたのです。

 では、韓国は、連合国による戦後処理の枠組みの中で、どのように位置づけられたのでしょうか。韓国は、日本による侵略戦争・植民地支配により甚大な被害を被ったと主張し(1947年、米軍政下にあった当時、南朝鮮過渡政府がまとめた対日賠償要求調書によると、被害額は、1945年8月15日時点のレートで換算して約25億ドルとされています)、連合国の一員としてサンフランシスコ平和条約締結のための講和会議に参加し、この要求をすることを求めました。韓国がこのような要求をしいていればサンフランシスコ講和交渉は難航したことでしょうが、アメリカが、韓国は対日参戦をしていないから連合国の一員ではないと主張し、サンフランシスコ講和会議に参加することが阻まれてしまいました。
 こういう次第ですから韓国は、サンフランシスコ条約に法的に拘束されることはない筈なのですが、実際には、日本が連合国に約束した同条約4条(a)に事実上拘束されることになってしまいました。

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注:サンフランシスコ平和条約第4条(a)は旧植民地等に関する処理を定めている。

「・・・日本国及びその国民の財産、これらの地域を統治する当局及びその住民に対する請求権、並びにこれらの地域を統治する当局及びその住民の日本国及びその国民に対する請求権の処理は、日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とする。」
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 この条項でいう「特別取極」は、植民地適法論の上に立って、植民地が分離・独立する際の債権債務その他の財産関係の清算をするための取り決めであって、侵略戦争や植民地支配を原因とする損害賠償請求権はその対象になりません。植民地朝鮮は、適法に成立し、日本の植民地支配は合法だという前提に立った取り決めです。この点では、主要な連合国諸国は植民地を有する帝国主義国家で、戦前の日本と同じ穴のムジナですから、利害を共通にしていました。
 日韓請求権協定は、そのような偏頗なサンフランシスコ平和条約の条項に事実上拘束され、締結されたものでしたから、韓国側が、侵略戦争と植民地支配による国家あるいは個々人の損害賠償を求めることはハナから封殺されていたのです。

 日韓請求権協定は日本の植民支配賠償を請求するためのものではなく、サンフランシスコ条約第4条に基づき韓日両国間の財政的・民事的債権債務関係を政治的合意により解決するためのものであり、日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や植民地支配と直結した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含まれていないという韓国司法府の核心的判断、韓国行政府の見解(2005年8月「韓日会談文書公開の善後策に関する民官共同委員会」見解)は、この歴史的経緯を正しく反映したものと言えるでしょう。

 元「徴用工」に対する損害賠償問題は日韓請求権協定で解決済みだと主張する日本政府、これに盲従し、ズブズブの反韓・嫌韓感情からこれに溜飲を下げている人たちは、賠償逃れの抜け道を突進し続けようとするものであり、モラルに反すると言わざるを得ません。
(了)

徴用工問題――それでも風車をめがけて突進するのか

徴用工問題――それでも風車をめがけて突進するのか

 2015年12月28日、日本国岸田文雄外務大臣、大韓民国尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官が、ソウルの共同記者会見で公表したいわゆる日韓「慰安婦合意」とは以下のとおりでした。

――日本側は内閣総理大臣としてのお詫びと反省を表明した上で韓国政府が元慰安婦支援のため設立する財団に日本政府が10億円を拠出し、両国が協力していくこと。これにより慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されたことを確認し、互いに非難・批判することは控えること。――

 この日韓「慰安婦合意」は、合意公表直後の12月30日に韓国の世論調査機関リアルメーターが行った調査では、①「とてもよくない」31.5%、②「どちらかといえばよくない」19.2%、③「よくやった」13.5%、④「どちらかといえばよくやった」29.7%で、否定的評価がやや多いとはいえ、③、④を合計すると肯定的に評価する声も43.2%もあり、一概に韓国国民から拒絶されたものとは言えませんでした。
 しかし、1年後の2016年12月28日に同じくリアルメーターが行った世論調査では、「慰安婦合意」を「破棄しなければならない」との回答が59.0%にのぼり、「維持しなければならない」との回答25.5%を大きく上回るに至りました。

 このような国民世論こそ、「慰安婦合意」の事実上の破綻、徴用工問題をめぐる日韓関係カタストロフへと進む導きの糸だったのですが、その背景要因は、日本による韓国に対する侵略と植民地支配の清算をあいまにし、韓国の司法府における核心的判断さえも無視して、韓国保守政権、アメリカ政府及び日本政府が米日韓の政治・経済・軍事の連携を無理矢理回復させようとしたことにあったと言えるでしょう。

 では韓国司法府の核心的判断とはいかなるものでしょうか。それは以下の二つです。

1 元「慰安婦」に関する韓国憲法裁判所2011年8月30日決定
 ①日韓請求権協定第2条第1項は、「両締約国は、両締約国およびその国民(法人を含む)の財産、権利および利益並びに両締約国およびその国民の間の請求権に関する問題が、1951 年 9 月 8 日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定している。
 ②協定第2条第1項の解釈と関連し、日本政府及び司法府の立場は、日本軍慰安婦被害者を含む韓国国民の日本国に対する賠償請求権は、 すべて包括的にこの協定に含まれ、この協定の締結及びその履行により放棄されたか、消滅したというものだが、韓国政府は 2005 年 8 月 26 日、「民官共同委員会」の決定を通じて、日本軍慰安婦問題等のように日本政府等国家権力が関与した「反人道的不法行為」による損害賠償は、この協定によって解決したとは見られないので、日本政府はその法的責任を果たさなければならないいう立場を表明した。
 ③この事件の審判過程でも、日本はこの協定により日本軍慰安婦被害者の日本国に関する賠償請求権が消滅したという立場であるのに対し、韓国政府の立場は日本軍慰安婦被害者の賠償請求権はこの協定に含まれていないというもので、これに対しては両国の立場に差異がありこと、両国間に協定第3条の「紛争」が存在することを、繰り返し確認した。
 ④よって、協定第2条第1項の対日請求権に日本軍慰安婦被害者の賠償請求権が含まれるか否かに関する韓・日両国間の解釈の差異が存在し、それが協定第3条の「紛争」に該当するのは明白である。

2 元「徴用工」に関する2012年5月24日韓国大法院判決
 日韓請求権協定は日本の植民支配賠償を請求するためのものではなく、サンフランシスコ条約第4条に基づき韓日両国間の財政的・民事的債権債務関係を政治的合意により解決するためのものであり、協定第 1条により日本政府が大韓民国政府に支給した経済協力資金は第2条による権利問題の解決と法的対価関係があるとはみられない点、協定の交渉過程で日本政府は植民支配の不法性を認めないまま、強制動員被害の法的賠償を根本的に否定し、韓日両国政府は日帝の韓半島支配の性格について合意に至ることができないという状況で日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や植民地支配と直結した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含まれていたと解することは困難である点などに照らしてみると、元徴用工らの損害賠償請求権については、協定で消滅しなかったのはもちろん、大韓民国の外交的保護権も放棄されなかったと解するのが相当である。

 「慰安婦合意」は、これら韓国司法府の核心的判断を完全に無視してしまったものでした。韓国司法府は、その後、大法院レベルで、2018年10月30日大法院判決(元徴用工ら対新日鉄住金事件)、同年11月29日大法院判決(同三菱重工事件)で、2と同趣旨の判断を繰り返しています。

 さて今回の韓国政府解決策は、①韓国政府が設立する財団が裁判所によって支払いを命じられた元「徴用工」に対する日本企業の賠償金債務を肩代わりするので、日本政府はこれに呼応して日本政府は植民地支配に対する反省とお詫びを盛り込んだ「日韓共同宣言」(1998年10月)を含む歴代内閣の歴史認識の継承を確認することを表明し、支払いを命じられた日本企業はとは別にわが国の経団連が韓国からの留学生に対する奨学金給付をはじめ青少年の交流事業などを行う、というきわめてルーズなもので、韓国司法の核心的判断を再び完全に無視するものです。

 裁判所が支払いを命じた債務を韓国政府が設立した財団が肩代わりして支払うということの法的エッセンスは第三者弁済です。この第三者弁済については、わが国民法474条第3項では第三者は債権者の意思に反して弁済することはできない」と定めており、また元「徴用工」や「慰安婦」に対する慰謝料を含む損害賠償債務は「その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき」にあたると判断される可能性もあります。ですからわが国民法に関する限り、少なくとも元「徴用工」や「慰安婦」が反対の意思を表明する限り、かの財団が肩代わりして支払うことはできません。
 私は韓国民法に通暁しているわけではないので、自信はありませんが、ネット上に公開されている韓国民法第469条によると「①債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質又は当事者の意思表示が第三者の弁済を許さないときは、この限りでない。②利害関係のない第三者は、債務者の意思に反して弁済することができない。」とあり、これはわが国民法と同様に考えてよいようです。

 従って、一人でも元「徴用工」(遺族)が反対する限り、最終解決には至りません(報道によると供託云々ということが取り沙汰されていますが、弁済できないときに供託などできません)。それのみならず韓国ギャラップが10日発表した世論調査の結果によると、韓国政府が発表した元「徴用工」に関する解決策について、賛成は35%、59%が「日本の謝罪と賠償がなく反対」であったこと、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の支持率は34%(前週比2ポイント減)、不支持率は58%(同3ポイント増)、不支持の理由では、元徴用工問題への対応が16%と最多であったということであり、前回の「慰安婦合意」のときより厳しい状況です。

 それにもかかわらず16日には尹大統領が来日、日韓首脳会談が行われる由、もしそこで手打ちをしようということなら風車をめがけて突進するドン・キホーテそのものではないでしょうか。(了)

真の解決とはほど遠い徴用工問題解決策

真の解決とはほど遠い徴用工問題解決策

 徴用工問題について、日韓両国政府の間で解決策が急進展している。

 昨年7月以後徴用工問題の解決案の検討と関係者との協議、根回し、日本政府との水面下の折衝を進めてきた韓国政府は、3月6日、韓国政府が設立する財団が裁判所によって支払いを命じられた日本企業の賠償金債務を肩代わりする案を発表、これに呼応して日本政府は植民地支配に対する反省とお詫びを盛り込んだ「日韓共同宣言」(1998年10月)を含む歴代内閣の歴史認識の継承を確認することを表明した。その一方で、支払いを命じられた日本企業は何らの対応もしないこととし、これら企業も加入している経団連が韓国からの留学生に対する奨学金給付をはじめ青少年の交流事業などを行うことが検討することが明らかにされている。これらが解決策だとのことである。

 この解決策について、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は「様々な困難の中でも解決策を発表したことは、未来志向的な韓日関係へと進むための決断だ」と述べ、わが国の岸田文雄首相は「今回の韓国政府の措置は、日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価している」と語っている。政治的決着へのエール交換といったところか。

 同時に、両国政府は、2019年7月に日本政府が開始した韓国への半導体材料3品目の輸出規制措置の撤回と韓国政府が同措置に対してなしたWTOへの提訴手続きの取り下げにより対韓輸出業務を正常化するための局長級の政策対話を開始し、その結果を踏まえて、3月中にも手打ちのための両国首脳会談を行うことを確認した。

 しかし、韓国の野党、徴用工裁判原告らからは厳しい批判が相次ぎ、市民団体が抗議の集会を開いたことが報じられている。

 2018年10月30日、韓国大法院が新日鉄住金に対し、元徴用工(本人、遺族)に対し、損害賠償を命ずる判決ソウル高等法院判決を支持する判決を下して以来、安倍政権は韓国司法のこの最終判断を激しく非難し、韓国政府に日韓請求権協定第3条に基づく協議要請、仲裁付託通告を一方的に行い、韓国政府との平場の話し合いで打開する道を閉ざしてしまった。
 安倍政権のこのような強硬策は、①韓国の根本的統治構造である三権分立を無視し、②日韓請求権協定により最終かつ完全に解決済みであるとの硬直した見解を押し付け、③国民の反韓・嫌韓感情におもねり、政治日程をにらんだスケジュール闘争的色彩が濃厚で、④その態様も侮辱的で、外交的・国際的儀礼を書くもので、著しく正義・公正に反するものであった。そしてその仕上げが、いうことを聞かない韓国政府に対する報復措置として上記の輸出規制措置がとられたのであった。

 日韓関係カタストロフはこのようにして引き起こされたものであり、私は、その責任は安倍政権が負うべきだと考えるものである(拙著『戦後最悪の日韓関係 その責任は安倍政権にある』(かもがわ出版))。

 私は、この日韓関係カタストロフを修復するために、第一段階として実利的・実務的対処と民間交流を進めること、第二段階として安倍政権の歴史修正、反韓・嫌韓政策を正し、わが国の植民地支配と侵略を真摯に謝罪し、反省することを表明した河野談話、村山談話、「日韓共同宣言」などの立場に回帰すること、第三段階として朝鮮侵略と植民地支配は国際法違反し違法であったことを明確に認めることにより日韓関係を抜本的に改善し、東アジアに恒久平和と安定、友好と協力の地域集団安全保障体制を構築する土台づくりをすること、そしてこれらの取り組みの中で徴用工問題もおのずから日本政府・日本企業の責任を明らかにした解決策が見いだされると考えるものである。

 このような私の考えからすると、今回の解決策はあまりにも打算的な政治決着であると批判せざるを得ない。これでもし手打ちをしてしまえば、2015年12月の慰安婦合意の二の舞にならざるを得ないのではなかろうか。当時、外相としてこの慰安婦合意とりまとめた岸田氏ならそのことはよくわかっているであろう。真の解決ためには何をなすべきか、岸田氏はよく考えるべきである。(了)



プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2018年1月、弁護士リタイア。41年間の弁護士生活にピリオドを打ちました。深草憲法問題研究室
‶これからも社会正義の話を続けよう”

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