核燃料サイクルからの撤退を! (最終回)

私が社会人としてスタート切ったのは1969年7月1日。この年の夏、勤務先の同僚たちと福井県小浜市の浜に海水浴に出かけた。太平洋岸の工業地帯近傍の浜しか知らなかった私には、あの時の浜は美しく、脳裏に焼き付いている。数年後、再訪したときには跡形もなくコンクリートに打ち固められていた。恐るべき勢いで建設されて行った原子力発電所、そろそろお引き取り願う時期が来た。

連載してきた「核燃料サイクルからの撤退を!」も終わりに近づいた。今日は、全体のまとめをすることとする。

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まとめ
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核燃料サイクルは、①天然ウランの確保、転換、ウラン濃縮、再転換、核燃料の加工からなる原子炉に装荷する核燃料を供給する活動と、②使用済燃料再処理、MOX燃料の加工、使用済燃料の中間貯蔵、放射性廃棄物の処理・処分からなる使用済燃料から不要物を廃棄物として分離・処分する一方、有用資源を回収し、再び燃料として利用する活動である。
上記①の活動はフロントエンド、②の活動はバックエンドと概括される。わが国では、核燃料サイクルを、バックエンドに限定して論じられることが多いようである。

本稿では、バックエンドのうち、使用済燃料の再処理、高速増殖炉及びプルサーマルについて論じてきた。これらは相互に密接な関連性を有しており、一つが破綻をすれば、全てが破綻をするという結果をもたらすことになるのである。しかし、以上で明らかになったことは、いずれもが破綻をしてしまったということである。従って、もはやこれまでどおりにこれらを推し進めることは不可能と結論せざるを得ない。

とりわけ世界のウラン確認埋蔵量は有限(資源エネルギー庁「原子力2010」によると、2007年1月現在で、547万トン、可採年数100年とされる。)である隘路を打開し、エネルギーの安定供給のために、天然ウラン中99.3%もの割合を占めるウラン238を100%使い切るとの「野望」が、高速増殖炉の破綻により、露と消えたことは、決定的である。

今後、わが国は、既に発生してしまった使用済燃料、プルトニウムの廃棄に向けた研究、施設の確保に、早急に、動き出さなければならない。その際、2012年9月11日、日本学術会議が原子力委員会宛てに提出した「高レベル放射性廃棄物について(回答)」において示唆されている、使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の総量抑制・管理と各電力会社の電力供給圏内で暫定保管施設を確保し、暫定保管しつつ数十年から数百年をかけて抜本的処分策を研究するとの提案も参考とすべきである。

福島原発事故後、ドイツ、イタリア、スイスは原子力発電からの撤退を明確にした。スエーデンは、既にTMI事故のあと原子力発電からの撤退を表明しつつも、その実行が遷延していたが、2011年4月12日、企業・エネルギー大臣が、議会で、「我々は、原子力の利用を延長するようなことはしていない。我々は、原子力への依存を削減すると言っており、これこそまさに我々がやっていることだ。」と述べた。フィンランド政府は、進行中のオルキルオト原子力発電所3号機のあとは新たな原子炉の建設を承認しないと宣言した。アメリカでは、2011年4月、大手電力会社NRGエナジーが、原子炉の新規建設を経済的に正当化できないと判断をして新規プロジェクトから撤退をすることを発表した。中国においても、インドにおいても、原子力発電について見直し或いは厳しい今後の見通しが語られている。

フランスはどうか。フランスは、電力の75%が、原子力発電に依存している原子力発電大国である。そのフランスにおいても、日曜紙「ジュルナル・デュ・ディマンシュ」が2011年6月に行った世論調査の結果によると、国民の77%が脱原子力発電を支持しているとのことであり、2012年5月の大統領選挙では、「2025年までに原発依存度を50に減らす」と「減原発」を表明し、フランス最古のフッセンハイム原発の「速やかな閉鎖」を公約に掲げた社会党・欧州エコロジー緑の党の推すフランソワ・オランドが当選した。国民議会(下院)も同年6月の選挙で、定数577のうち社会党は314議席を獲得し、過半数を上回り、さらに社会党とパートナーを組む緑の党ははじめて17議席の議席を確保した。フランスの原子力政策も一転する可能性を秘めている。

原子力発電そのものは本稿の対象外であるが、福島原発事故を起こしてしまったわが国は、事故そのものからも上述の世界の趨勢からも、原子力発電自体をやめる決断を迫られている。核燃料サイクルの破たんは、こうした決断を促す要因である。

最後にひとこと。2004年に、「19兆円の請求書-止まらない核燃料サイクル」なる怪文書が、何人かの国会議員や原子力委員会関係者などに配布され、ネット上を駆けめぐった。この怪文書、一部に、経産省の改革派官僚の手になるものだと取り沙汰されているが、なかなかいいことが書かれている。核燃料サイクルを「やめられない 止まらない」のは「国と電力業界の原子力利権を巡る政界、官界、業界、自治体のたかりの構図→既得権への固執」であると。

しかし、論ずるだけでは足りない。今こそ、勇気をもって一歩を踏み出さなければならない。まだ遅過ぎるわけではない。


(参考文献)

・原子力委員会「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(第1回~第8回)
       「原子力政策大綱」
・経産省・資源エネルギー庁「エネルギー基本計画 2010年」
・同庁・総合資源エネルギー調査会基本政策分科会・「エネルギー基本計画に対する意見」(2013年12月)
・エネルギー環境会議「革新的エネルギー・環境戦略」(2012年9月)
・日本原燃株式会社「六ヶ所再処理工場の現状と今後の見通しについて」(2011年2月)
・原子力委員会「当面の核燃料サイクルの具体的な実施について」(1997年1月)
・1997年2月4日閣議了解「当面の核燃料サイクルの推進について」
・2008年3月14日閣議決定「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」
・2003年1月27日名古屋高裁金沢支部判決(判例時報1818号)
・石川迪夫「原子炉の暴走第2版」(日刊工業新聞社)
・吉岡斉「新版原子力の社会史 その日本的展開」(朝日新聞社)
・大島堅一「再生可能エネルギーの政治経済学」(東洋経済新報社)
・高木仁三郎「プルトニウムの恐怖」(岩波新書)
・七沢潔「原発事故を問うーチェルノブイリから、もんじゅへー」(岩波新書)
・広瀬隆・藤田裕幸「原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識」(東京書籍)
・小出裕章「隠される原子力 核の真実 原子力の専門家が原発に反対するわけ」(創史社)
・小林圭二・西尾漠「プルトニウム発電の恐怖」(創史社)
・マイケル・シュナイダー「フクシマ・クライシス 日本は本物のパラダイム・シフトの最先端に立てるのか」(「世界」2011年9月号)
・別冊宝島編集部編「世界で広がる脱原発 フクシマは世界にどう影響を与えたか」(宝島社)
・日本弁護士連合会「原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求める意見書」(2011年7月) 
・山口聡「核燃料サイクルをめぐる議論」(国立国会図書館調査及び立法考査局「調査と情報」第473号)
・山口聡「高レベル放射性廃棄物最終処分施設の立地選定をめぐる問題」(国立国会図書館調査及び立法考査局レファランス2010・2)
・片原栄一「日本のプルトニウム政策と核不拡散問題」(「日本の外交・安全保障オプション」日本国際交流センター刊 1998年6月より抜粋」
・羽倉尚人・吉田正「軽水炉における使用済みMOX燃料からのアクチニド崩壊熱の核データ由来の誤差評価」(日本原子力学界平和論文誌Vol.9(2010))
・エドゥイン・S・ライマン「日本の原子力発電所で重大事故が起きる可能性にMOX燃料の使用が与える影響」(核情報ホームページより) 
・筆者不詳「19兆円の請求書―止まらない核燃料サイクル」(2004年)
・核不拡散研究会「我が国の原子力発電・核燃料サイクル政策への提言~「一国主義」を脱却し、責任あるグローバル・プレイヤーへ~」(最終報告書2013年2月)
・舩橋晴俊「高レベル放射性廃棄物という難問への応答 科学の自立性と公平性の確保」(「世界」2013年2月号)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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