戦前秘密保全法制 (2)

戦前秘密保全法制の完成

(1)時代の動き
 
日清・日露の二つの戦争は、主として朝鮮半島に対する権益をめぐるものであった。従って、これらの戦争に勝利した我が国は、大手を振って韓国に進出し、1910年8月、日韓併合条約により、これを我が国の版図に組み入れた。またこれより先に日清戦争の直接の戦果として、1895年4月、下関条約により、清国に遼東半島・台湾・澎湖諸島を割譲させ(三国干渉により遼東半島は返還)、また日露戦争の直接の戦果として、1905年9月、ポーツマス条約により、ロシアが保有するに至っていた遼東半島租借権と長春・旅順間鉄道をもぎ取り、南樺太を割譲させ、我が少国民は日露戦争の合言葉となった臥薪嘗胆の思いを遂げ溜飲を下げたのであった。遼東半島とはいわゆる関東州であり、長春・旅順間鉄道とはいわゆる南満州鉄道である。

同年12月、ポーツマス条約を受けて、我が国は清国との間で「満洲ニ關スル条約」を締結、ロシアから我が国に譲渡された上記の清国に対する権益の移動を了承させた。同時に、南満洲鉄道の吉林までの延伸、同鉄道を守備するための我が国軍の駐屯、沿線鉱山の採掘権保障、同鉄道に併行する鉄道建設の禁止、安奉鉄道の使用権継続と両国による共同事業化、営口・安東・奉天における我が国人居留地の設置の許可、鴨緑江右岸の森林伐採合弁権獲得などが認めさせた。後に、我が国が高唱することになる満州の特殊権益である。

この「満洲ニ關スル条約」により駐屯させることになった鉄道守備隊が関東軍となるのである。南満州鉄道1㎞ につき15名、総延長は1100㎞であるから、単純計算で16500人となる。しかし満州事変勃発時にはわずか約5000人に過ぎず、駐箚師団兵数約5400人とあわせても、合計約10400人に過ぎなかった。これが関東軍で、後に70万人を超える巨大軍団に膨張するのである。

こうして我が国は、植民地を保有し、中国大陸へ干渉する橋頭堡を確保し、帝国主義の時代のニューフェースとして、歴史の檜舞台に登場することとなった。遅れてきた者は、なにごとにつけ粗忽で粗暴なふるまいをするものだ。中国への干渉、侵略は、経過を見ると、図々しい限りである。
芥川龍之介は1921年3月に新聞社特派員として中国大陸を旅行した際のルポを残している(「支那遊記」)。さりげない文章の運びの中に、当時の我が国の横暴に対する中国民衆の排日の声のすさまじさを見て取ることができる。

「不可亡了三七二十一条」、「犬与日奴不得題壁」、「殺尽倭奴方罷休」等々。

あちこちの壁に反日スローガンが書きなぐってあった。「21か条を忘れるべからず」、「犬と日本人だけは壁に文字を書くことは許されない」、「日本人を殺し尽してはじめて休むことができる」等々。1921年当時の中国民衆は、辛亥革命後新しい統一中国の建国に向けて苦難をしいられていた。我が国はそれに対し、援助するどころか、またとないチャンスとばかりに、弱みにつけ込み、中華民国政府に対し21か条に及ぶ無法な要求を突き付け、武力で脅しつけて無理やり認めさせたのだ。

21か条の要求とは、第一次世界大戦において、1914年8月、対ドイツ宣戦に踏み切り、中国の青島、威海衛などドイツ権益の奪取のため軍隊を送り出し、山東鉄道の占拠をした我が国が、抗議する中国に対して1915年1月突き付けたもので、第1「山東省に関する件」、第2「南満州及び東部内蒙古に関する件」、第3「漢冶萍公司(かんやひょうこんす)に関する件」、第4「沿岸島嶼の不割譲に関する件」、第5「懸案解決その他に関する件」からなっていた。同年5月、中国・袁世凱政権は、第5「懸案解決その他に関する件」を除き中国側は受諾・調印をしたのであった。
 
中国民衆が怒るのは当然だった。我が国はその後、中国に対し、何をしたか。中国民衆の怒りをとく努力をしただろうか。否、侵略の拡大である。
1928年6月4日、関東軍の手で張作霖爆殺。1931年9月18日、関東軍が柳条湖事件デッチあげ、「暴戻なる支那軍隊は満鉄線を破壊し、わが守備隊を襲い」とデマを流して満州事変に突入した。1932年1月18日、上海日本公使館付武官田中隆吉中佐の謀略で日蓮宗僧侶殺害事件をデッチあげて第一次上海事変を引き起こす。さらに満州から中国北部へと触手を伸ばし、1937年7月7日盧溝橋事件から日中戦争へと至る。

まさにこうした時代の動きにせかされて、1937年8月、改正軍機保護法(以下に「軍機保護法」という。)が制定された。その制定経過、内容とその適用状況は次回とする。
(続く)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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