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戦前秘密保全法制 (6)

具体例に基づく考察

第一点

これら具体例を見ていて気づくことは、「軍事上の秘密」とは何か一切明確にされていないことで、それはいわば水戸黄門の印籠の如く使われており、人々は何が何だかわからないで警察に引っ張られ、絞り上げられ、甚だしきは拷問にかけられ、そして刑務所に送られているということである。

このことを明瞭に示しているのは、上記②の事件と⑥の事件である。

まず②の事件では、公判審理において罪を問われている対象となる「軍事上の秘密」とは何かが問題になったにもかかわらず、判決は、「舞鶴鎮守府参謀長各名義の軍機保護法違反に関する件判示特定島嶼における軍事施設は軍機保護法第1条軍事上の秘密事項に該当する旨の記載」を適示しただけで、「証明十分なり」として「軍事上の秘密」の具体的表示さえせず、勿論その内容を吟味することもなく、懲役6月の実刑判決を下してしまったのであった。

次に⑥の事件では、宮沢がレーン夫妻に話したという根室の海軍飛行場施設は、1934年、根室の地域新聞「根室日報社」が発行した新聞紙に添付された変わり絵はがき「根室千島鳥瞰図」(縦約15センチ、横約50センチのカラー印刷で、はがき状に折りたたんで添付されてあった)で明示されており、ほかに根室駅や土産物店などで広く売られていた絵はがきや根室町(当時)が1933年に発行した「根室要覧」(自治体の要覧)にも記載されている等、根室第一飛行場と呼ばれて住民に広く知られていたし、1931年、リンドバーグの太平洋横断後の着陸地として世界中に報道されていたもので、到底、「軍事上の秘密」にあたるものとは考えられない。それにもかかわらず、公判審理ではその点の解明が一切なされず、上記の如き重い判決が下されたのであった。

このことは、我が特定秘密保護法においても、漏えいもしくは不正取得したとされる情報が「特定秘密」にあたるのかどうかを客観的かつ公正に認定する手続き的担保がないため、同様に危惧されるところである。

第二点

既に述べたように、旧軍機保護法では、「秘密であることを知って」との主観的要件が犯罪構成要件として記述されていたが、軍機保護法ではこれが削除されてしまった。帝国議会における審議において、この点について濫用を危惧する意見が出された。政府側はごく一部の人間を除き、善良な一般国民には影響ないという趣旨の答弁で押し切ったが、敢えて議会は、「秘密であることを知って」なした者だけに適用すべしとの付帯決議まで付したことは前述のとおりである。

具定例を見てみると、議会側の危惧したことはまさに正当であって、罪に問われた人たちは、いずれも対象となる事項が軍事上の「秘密であること知って」いたとは考えられないような者ばかりである。⑥の事件では、宮沢の弁護側は、この議会付帯決議を引用し、軍事上の「秘密であることを知って」を為した行為とは言えないと強く争ったが、上告棄却をした大審院判決は、「軍事上の秘密知得の為に為さるる一切の行為は其の手段方法の如何を問わず総て軍機保護法の所謂探知に該当するものと解するを相当とするが故に探知をば秘密知得の手段方法不正なるものに限定せんとするは失当なり」とわけのわからない論理で弁護人の主張を排斥したのであった。

政府は、刑法総則で、特に過失犯処罰の規定がない限りは故意犯を処罰することを定めているのであるから、当然、「秘密であることを知って」なしたこと前提となるのだと説明していたのに、一体これはどういうことであろうか。少し、こみいったことになるが説明しておこう。

私は、犯罪構成要件として明確に記述される「秘密であることを知って」という要件と、故意を認定するための「秘密であることを知って」という要件は、次元を異にするものであると考えるのである。犯罪構成要件として明記される「秘密であることを知って」という要件は、ある特定の目的を犯罪構成要件に明記されるのと同様に主観的違法要素、多くの行為のうちある行為を犯罪として処罰するに値するだけの違法性を持つものとして厳格に区分するために記述された要素であるのに対し、故意を認定するための「秘密であることを知って」という要件は、責任論、当該行為主体の有責性を問うための一般的要素である。具体的事件において言えばこうである。

犯罪構成要件に「秘密であることを知って」と明記されていれば、ある事件において、まずそれが客観的かつ厳格に認定できるかどうかを問うてはじめて犯罪構成要件に該当することとなり、次に責任要件としての故意の有無を論じることになる。しかし、犯罪構成要件に「秘密であることを知って」と明記されていなければ、犯罪構成要件該当性の判断ではそれは問題とならず、有責性の有無としての故意の認定において「秘密であることを知って」と言えるかどうかが問題になるに過ぎない。

刑事裁判実務において、故意の認定は、行為の外形を重視し、かつ未必の故意でも認定されるのであって、結果の重大性が大きく左右することになる。たとえば人を包丁で刺した場合、「殺害することまでは考えていませんでした」といくら弁明に努めても、裁判所は、使用凶器が刃体の長さ30㎝の刺身包丁で、受傷部位が胸腹部であったりすれば、凶器の形状、行為態様、受傷部位から殺意が容易に認定されてしまうし、「殺害する」との確定的故意は認めなくても「刺せば死ぬかもしれない」との認識・認容はあったとして、未必の殺意を認定してしまうのである。まして刑事裁判以前の捜査の段階であれば、一層ラフな運用がなされるであろう。

ここに上述のごとく「秘密であることを知って」なしたとは到底考えられない者が、検挙、処罰されるというあやしき現象が生じる原因がある。これは我が特定秘密保護法にもあてはまる極めて重要なポイントである。
(続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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