戦前秘密保全法制 (8)

(4)軍用資源秘密保護法及び国防保安法

旧軍機保護法軍機保護法が成立した後、警察当局と相協力しあって防諜活動を進め、かつ国防観念を高める目的で、民間の防諜組織が全国各地に続々とつくられていく。旧内務省警保局はこれらを1939年4月、全国一斉に発足した警防団の下に一元化させ、警防団の手で、防諜活動、防諜教育・訓練が実施されることとなった。そうした流れの中で、1939年3月、軍用資源秘密保護法が、1941年3月、国防保安法が制定された。早速、それらの説明に入って行こう。

(軍用資源秘密保護法)

制定経過

軍用資源秘密保護法は、1939年2月、第74帝国議会の衆議院に提出、3月に成立、公布さ、同年6月から実施された。政府による法案提出から成立までわずか1ヶ月、さすがに帝国議会ももはや戦争遂行のための法律製造機関に変貌を遂げてしまったと断ぜざるを得ない。かの有名な反軍演説で斉藤隆夫議員が圧倒的多数で除名されるのは、これから1年もたたない1940年3月7日のことであった。

同法は、1年前に制定された国家総動員法と密接な関連があり、時の陸相板垣征四郎は、法案提出理由を以下のように説明している。

今日の戦争が国家総力戦であるにもかかわらず、軍機以外に広く国防力の判定に資する資料を秘匿する法令の整備が日本では不十分。総力戦時代の要求に即応していない。速やかな法整備が必要。本法案は「スパイ行為の取り締まりを主なる目標」とするものであって、主として「外国ももしくは外国の為に行動する者に秘密を漏泄し、又は其の目的を以て之を探知収集、或いは之を公にする者」を処罰するものである。

内容

第一に保護される秘密について

軍機保護法では、第1条第1項で「軍事上の秘密と称するは作戦、用兵、動員、出師其の他軍事上秘密を要する事項又は図書物件」とし、同条第2項で軍事上秘密を要する事項又は図書物件の種類範囲」を陸軍大臣又は海軍大臣の命令、実際には陸軍軍機保護法施行規則及び海軍軍機保護法施行規則で広範かつ抽象的に定め、さらにこれに基づき陸軍大臣、海軍大臣が具体的な指定をするとの三段構造で指定された。

これに対し軍用資源秘密保護法では、第1条で「本法は国防目的達成の為軍用に供する(軍用に供すべき場合を含む以下之に同じ)人的及物的資源に関し外国に秘匿することを要する事項の漏泄を防止する以て目的とす」とし、第2条で抽象的、概括的に15項目の事項を定め、陸軍大臣又は海軍大臣(官庁の管理に属するものについては主務大臣)が指定するという二段構造になっている。国家総動員法の対象となる総動員物資及び総動員業務に係る人的資源は全て指定対象となるのである。

この秘密指定の形式は、我が特定秘密保護法における特定秘密指定の構造と同じである。

第二に行為態様・罰則について

軍機保護法と同様に、犯罪構成要件には「秘密であることを知って」なすことは明示されていない。我が特定秘密保護法も同じであることは前述のとおりである。

単純探知収集を罰する規定はない。また過失犯を罰する規定もない。ではどういう行為に対しどのような刑が科されるか。煩雑だが書き出してみよう。

公表目的又は外国若しくは外国のために行動する者に漏えいする目的の探知収集は10年以下の懲役、業務上知得領有者の単純漏えいは対象事項を限定して6月以下の懲役又は罰金、業務上知得領有者の外国若しくは外国のために行動する者への漏えい又は公表は1年以上有期懲役、外国若しくは外国の為に行動する者に漏えいし又は公表する目的で探知収集探知しかつ外国若しくは外国のために行動する者への漏えいし又は公表も1年以上の有期懲役、一般の知得領有者の単純漏えいは対象事項を限定して6月以下の懲役または罰金、一般の知得領有者の外国若しくは外国のために行動する者への漏えい又は公表は10年以下の懲役、業務上知得領有者の外国人への漏えい2年以下の懲役又は罰金。

秘密対象事項が極めて広範で、かつ行為態様も非常に細かく規定され、大変分りづらい法律になっている。ただ対象秘密事項が軍事機密ではないだけに単純な探知収集や一部の単純な漏えいはずされ、法定刑が軽くなっている。一方、軍用資源秘密を外国又は外国のために行動する者に漏えいするため探知収集・漏えいを目的した団体(要するにスパイ団)を組織した者又はその団体の指導者は5年以上に懲役、情を知って加入した者は2年以下の懲役とされるなど処罰対象行為は広げられている。

適用状況

軍機保護法の適用の概況のところで述べたように、同法の濫用は甚だしきものがあった。さすがにそのことは問題となっていたようである。軍用資源秘密保護法の審議過程で、貴族院において「予め国民一般に本法の精神及び内容を十分よく知らしめ、また指導取締の任にある者に対しましても、同様できるだけ之を周知せしめて、適性なる措置をとる」との政府委員の説明がなされたほどで、それが多少適用を慎重にさせたのか、1939年度の検挙人数は16人、軍機保護法が1937年10月適用で同年度の検挙人数が38人であったのに比べ、軍用資源秘密保護法は1939年6月施行であるから、相当少ないと言える。もっとも1940年以後の検挙件数もしくは人数は不明である。後に述べる国防保安法の適用状況からするとおおいに濫用された可能性がある。
(続く)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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