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戦前秘密保全法制 (9)

今日は国防保安法を説明する。少し長くなり、面倒な話が多くてわかりにくいかもしれないが、ご辛抱のほどを。あとは明日まとめをしてようやく完結となる。

国防保安法
 
制定経過

政府が、国防保安法案を帝国議会に提出したのは、1941年1月29日、第76帝国議会であった。衆議院で先議され、本会議で可決されたのが翌2月8日、貴族院に送付されて同本会議で可決成立となったのは同月27日、軍用資源秘密保護法と同様に、審議に要した期間はわずか1ヶ月であった。

実は、同年3月、本法より10日余り後に、改正治安維持法も成立し、同年5月、本法の5日後に施行されている。治安維持法は、1928年、帝国議会に最高刑死刑とする改正案が上程されたが、審議未了・廃案となり、緊急勅令の立法形式で同じ内容の改正されていた。1941年の改正治安維持法では、全般的にさらなる重罰化、禁錮刑をなくし懲役刑への一本化(政治犯を強盗、殺人などの一般犯罪と同一視することになる)、「国体の変革」を目的とする結社を支援する結社禁止及び「組織を準備することを目的」とする結社(準備結社)禁止し、これを罰する新たな犯罪類型のもうけたこと、これらとあわせて、刑事手続について、刑事訴訟法の特例を設けたこと、とりわけ同法違反事件の審理を二審制としたこと、刑の執行を終えても予防拘禁制度をもうけて予防拘禁所にその者を拘禁できる(期間2年、ただし更新可能)とし、永遠に社会復帰を阻むことができるようにしたことなど、重大な改正が行われた。

本法案は、国家秘密を包括的に対象とし、死刑を含む重罰規定まで定め、かつ改正治安維持法と同様、刑事手続の重大な特例を定めるという特大の重要法案であったにもかかわらず、このようなるのに、さしたる議論もなく通過してしまうほどに審議が形骸化してしまった帝国議会は、もはや議会の名に値せず、軍部独裁にお墨付きを与えるだけのお飾り機関に転落していたと言わざるを得ない。それもそのはず前年3月には斉藤隆夫議員の反軍演説・除名事件があり、10月には、大政翼賛会発足、もはや自由な議論は存在しなくなっていた。
なお本法が施行されたのは同年5月であった。

本法の制定理由は、貴族院本会議で政府を代表して行われた柳河平助司法相の以下の説明に尽きるであろう。
・近代戦は国家総力戦。諜報・宣伝・謀略等の秘密戦が、各地各方面に亘って行われている。
・敵性国家は、軍事のみならず、外交、財政、経済等各方面に亘る国家の重要機密など、広範囲に国力を探知収集している。
・軍機保護法その他軍事上の秘密を保護すべき法規は存在しているが、広範囲に亘る国家の重要機密を保護すべき法規、並びに外国の行う宣伝、謀略を防止すべき法規が不備であり、対抗策が必要である。

内容

第一に保護される秘密について

本法で保護されるべき「国家機密」を第1条で「国防上外国に対し秘匿することを要する外交、財政、経済其の他に関する重要なる国務に係る事項にして」、以下のいずれかに「該当するもの及び之を表示する図書物件」と定めている。

① 御前会議、枢密院会議、閣議又は之に準ずべき会議に付せられたる事項及其の会議の議事
② 帝国議会の秘密会議に付せられたる事項及其の会議の議事
③ ①、②の会議に付する為準備したる事項其の他行政各部の重要なる機密事項

本法では、軍機保護法のように三段構造で「軍事上の秘密」を指定することも、軍用資源秘密保護法のように二段構造で「軍用資源秘密」を指定することもなく、ただこれだけの規定がなされているである。議会では、その理由として、政府委員は、法令に「国家機密」の種類・範囲を記載するだけでも、外国に対し「国家機密」を察知されることになるという妄想に近い説明をしている。しかし、これではまるで巨大な投網を投げ放った如く、広範多岐に亘る事項及び図書物件が「国家機密」とされてしまうことになる。

さすがに軍部独裁にお墨付きを与えるだけのお飾り機関と堕した帝国議会でも、衆議院で「国家機密」とは何か不明確であるとの質問が出され、少しは応酬があったようだ。
政府委員は、「国家機密」は指定されてはじめて秘密となるのではなく、指定されようがされまいが秘密なのであるとして、「指定秘」に対して「自然秘」なる概念を持ち出して説明したものの、取り扱いの過誤をなくすために国防保安法施行令で主務大臣又は会議の長もしくは主宰者が秘密を保持するべき措置を指示し、図書・物件には標記をすることが定められるに至った。
もっとも立法担当者の解説書によると、実際の適用場面では、やはり「自然秘」の考え方が採用されるとされている。

第二に行為態様・罰則について

本法にあっても、第三者の探知収集罪には、軍機保護法、軍用資源秘密保護法及び我が特定秘密保護法と同様に、犯罪構成要件には「国家機密であることを知って」なる要件は書かれていない。但し、第三者の外国に通報する目的による外交、財政、経済その他に関する情報の探知収集罪について、「国防の用途に供される虞あることを知って」行為することが要件とされている。しかし、このような漠然として記述がどれだけ適用抑制に働くか疑問である。

具体的に見て行くと、単純探知収集を罰する規定はないが過失漏えい処罰する規定は置かれている。罰則は死刑、無期懲役を含む重罰が科されることになっている。概略、書き出してみよう。
業務上知得領有者の単純漏えいは5年以下の懲役又は罰金、業務上知得領有者の外国若しくは外国のために行動する者への漏えい又は公表は死刑又は無期若しくは3年以上の懲役、公表目的又は外国若しくは外国のために行動する者に漏えいする目的の探知収集は1年以上の有期懲役、外国若しくは外国の為に行動する者に漏えいし又は公表する目的で探知収集探知しかつ外国若しくは外国のために行動する者への漏えいし又は公表は死刑又は無期若しくは3年以上の懲役、一般の知得領有者が外国又は外国のために行動する者に漏えい又は公表は無期又は1年以上の懲役、国防上の利益を害する目的で「その用途に供される虞あることを知って」外国に通報する目的による外交、財政、経済その他に関する情報を探知収集は10以下の懲役、外国通謀又は外国の利益のため治安を害する事項の流布はハ無期又は1年以上の懲役、外国通謀又は外国の利益のために金融界の撹乱、重要物資の生産又は配給の阻害など国民経済の運行を著しく阻害する虞のある行為は無期又は1年以上の懲役、情状により罰金併科。このようにおよそ想定される行為がこれでもかこれでもかと処罰対象とされ、しかも極めて重罰が科されることになっている。

第三に刑事手続の特例規定について
 
本法においては刑事手続について重大な特例をもうけられている。一つは弁護人を司法大臣の指定した弁護士の中から選任しなければならないこと、二つには検察官に広範囲の強制捜査権を与えたこと、三つ目は、これが一番重要なのだが、本法違反事件については改正治安維持法違反事件と同様、三審制をとらず二審制としたことである。
上記の特例は軍機保護法違反事件、軍用資源秘密保護法違反事件その他の秘密保護法制違反事件にまで適用されることがされている。
既に述べた軍機保護法違反とされた宮沢・レーン事件においても、控訴審はなく、一審・札幌地裁判決に対しては大審院への上告がなされ、上告棄却で確定している。

適用状況

本法は、濫用の危険性極めて大なるものであったことは以上述べたところから容易に理解できるであろう。実際、やはりこの点も帝国議会衆議院の審議において質問がなされ、近衛文麿首相が「これが運用につきましては極めて慎重な考慮を必要とする」と答弁し、柳河司法相も本法立案の精神たる間諜防止、国家機密の漏えいを予防する以外に他の目的に利用することは一切致さぬ」と述べている。また刑法学者の団藤重光東京帝大教授も「本法の立法の趣旨がもっぱら国防にあるという当然の事柄を没却して、本法が国内政治目的に利用されるようなことが万一発生すれば、事態は重大かつ深刻であるといわなければならない」と指摘していた。

しかし、いざ施行されると、本法を梃として防諜体制づくりと報道機関と国民の防諜、そして戦争への思想動員が大々的に展開されたのであった。

本法の具体的な適用状況については資料不足で、説明することはあまりないが、施行された1941年5月以後同年度には59件が検挙されていることは判明している。これだけを見ると意外に少ないと思われるかもしれないが、統計に上がる件数は実際の検挙、あるいは検挙まではいかないが連行される件数のごく一部とみるべきであろう。

本法の適用事案の著名事件としては、尾崎・ゾルゲ事件がある(ほかに尾崎秀美についてはほかに治安維持法違反と軍機保護法違反、リヒャルト・ゾルゲに対して治安維持法違反が併合されている。)。尾崎とゾルゲは、1943年9月29日、東京地裁でそれぞれ死刑判決を受け、尾崎は、1944年4月5日、ゾルゲは、1944年1月20日、それぞれ大審院において上告棄却となり、1944年11月7日、両名揃って絞首刑を執行された。時にロシア革命記念日であった。尾崎は享年43歳、ゾルゲは享年49歳。
(続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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