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「必要最小限度の自衛権」論は危険な陥穽

1 はじめに

4月26日付公明新聞に北側副代表のインタビュー記事が載っている。北側氏の発言の中に次のような箇所がある。

「集団的自衛権とは、自国と密接な関係がある外国に対する武力攻撃を、自国が攻撃されていないにもかかわらず、実力で阻止する権利です。いわば「他国防衛の権利」です。これに対し、自国に対する武力攻撃を自力で排除する権利が個別的自衛権で「自国防衛の権利」です。
集団的、個別的自衛権を初めて明文で認めたのは国連憲章第51条です。日本も国連加盟国ですから、国際法上、集団的、個別的自衛権を保有しています。
しかし、日本国憲法は『戦争の放棄』『戦力の不保持』『交戦権の否認』を定めた第9条があるため、自衛権行使は自国防衛のための必要最小限度の範囲でしかできないと政府は解釈してきました。そのため、憲法上、集団的自衛権は必要最小限度を超えるため行使できないとの憲法解釈を固め、すでに40年以上も変えていません。」

以上の北側発言には、重大な問題点が孕まれている。

2 自衛権にかかわる政府見解は二本柱

わが国政府は、米国の指示もしくは強い要求のもとに再軍備に踏み切り、軍備増強を図ってきた。しかし、憲法9条は厳然として存在するわけであるから、歴代政府は、憲法9条の下で合憲と判断され得るための論理を政府見解として打ち立て、それに従うことで合憲性を確保できているとしてきたのであった。それは以下の二本柱から成る。

(1)「自衛権行使三要件」論

1954年4月、政府は、憲法9条の下も自衛権は認められるが、それは以下の厳格なる要件に適合しなければならないとの見解を示した(衆院内閣委佐藤達夫法制局長官答弁)。これは、わが国が憲法9条の下で保有する自衛権を定義したものと見てよい。

①わが国に対する急迫不正の侵害があること
②この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

①は、わが国に対する攻撃が急迫もしくは現在していなければならないということであって、単に攻撃のおそれがあるというだけでは駄目だということ、他国や他国部隊への攻撃は含まれないこと、および海外邦人が危険にさらされている場合は含まれないことを意味している。
②は、たとえば外交交渉、第三国の仲介、国際機関への提訴など相手国からの攻撃回避のために考慮できる非軍事的措置を尽くしても攻撃を避けられず、軍事的措置をとる以外に方法がないという場合にはじめて認められることを示している。
③は、軍事的措置は必要最小限度でなければならず、過剰反撃は認められないこと、端的にいえば侵入部隊を領土、領海、領空から撃退することがその限度であるということを示している。

(2)「自衛のために必要最小限度の実力」論

1954年12月、政府は、自衛隊創設の合憲性に関して次の見解を示した。

「憲法9条は独立国としてわが国が自衛権を持つことを認めている。従って自衛隊のような自衛のための任務を有し、かつその目的のための必要相当な実力部隊を設けることは、何ら憲法に違反するものではない。」(1954年12月22日衆議院予算委員会における鳩山内閣統一見解)

この見解において前提となる自衛権とは、言うまでもなく、「自衛権行使三要件」論で定義されたものである。

3 わが国の防衛政策の問題点

再軍備後におけるわが国における防衛政策は、これら二本柱の政府見解に基づいて展開されてきた。防衛政策にかかわる憲法論議で示されたその余の政府の解釈・見解は、全てこれら二本柱の系であり、具体的展開であった。

もっとも、わが国は、現在、事実上、「自衛権行使三要件」で定義される自衛権、即ち専守防衛の範囲を逸脱する世界有数の巨大な軍備を保持するに至っているが、それは歴代自民党政府が、「自衛のための最小限度の実力」論を「自衛権行使三要件」論から意識的に分離して、防衛力整備計画を立て、遂行してきた結果である。
そのことは、たとえば以下の説明に端的に表明されている。

「憲法第9条は、我が国が主権国家として有する固有の自衛権を否定しておらず、この自衛権の行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、同条第2項によって禁じられてはいないというのがかねてからの政府の見解であり、この自衛のための必要最小限度の実力、すなわち自衛力の具体的な限度については、その時々の国際情勢、軍事技術の水準等により変わり得る相対的な面を有することは否定し得ないものであるということも、従来から一貫して政府が申し述べてきたところである。」(1981年5月衆議院内閣委員会における塩田防衛局長答弁)

4 集団的自衛権

(1)1972年10月14日に示された集団的自衛権に関する政府見解

「憲法は…自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない」が、それは無制限に認められるものではなく、一定の要件を満たす必要がある。すなわち、「国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置として、はじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。」
それゆえ、「わが憲法の下で、武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されない。」(田中角栄内閣が社会党・水口宏三議員の質問に応じて参議院決算委員会に提出した資料)

これは単純明快である。「自衛権行使三要件」論に従い、集団的自衛権は認められないと述べているのである。

(2)1981年5月29日に示された集団的自衛権に関する政府見解

「国際法上、国家は集団的自衛権すなわち自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃をされていないのにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているものとされている。わが国が、国際法上このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、憲法第9条の下において、許容される自衛権の行使はわが国を防衛するための必要最低限度の範囲にとどめるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている。」(鈴木善幸内閣の社会党・稲葉誠一議員の質問対する答弁書)

この政府見解は、「自衛権行使三要件」論との関係が不明瞭であり、「必要最小限度の範囲」にとどまる限り、集団的自衛権行使も認められると解する余地がある。はたせるかな、集団的自衛権否定の立場に立つ公明党二見伸明衆議院議員が、1986年3月5日衆議院予算委員会において、「必要最小限度であれば集団的自衛権の行使も可能というようなひっくり返した解釈は将来できるのか」と質問したのであった。
これに対する茂串俊内閣法制局長官の答弁は、「自衛権行使三要件」論を再確認し、「従ってその論理的な帰結といたしまして、他国へ加えられた武力攻撃を実力で阻止するということを内容とする集団的自衛権の行使は、憲法上許されない。」と答え、二見議員が問いただした「ひっくり返した解釈」はできないことを明らかにしたのである。

5 北側議員の発言は一つのアイロニー

そこで冒頭の北側発言を検討してみよう。これは、折角大先輩の二見議員が、「必要最小限度であれば集団的自衛権の行使も可能というようなひっくり返した解釈は将来できるのか」とまさにポイントを押さえた質問をし、集団的自衛権は「必要最小限度の自衛権」の範囲に含まれるかどうかという抽象論を排し、「自衛権行使三要件」論の当然の帰結として認められないことを明らかにした経過を踏まえないもの、一つのアイロニーと言ってよい。

今、政府・自民党は以下の三つのうちいずれかの回路を通って「集団的自衛事態」に自衛隊を出動、参加させることを可能とするシナリオを描いているように思われる。

(1)第一の想定―集団的自衛権の概念を用いる場合・その1

①従来の自衛権に関する政府見解によれば、憲法9条の下でも「必要最小限度の自衛権」行使を認めるとしている。
②自衛権には個別的自衛権も集団的自衛権も含まれる。
③従って「必要最小限度の自衛権」の範囲内であれば集団的自衛権行使も認められる。
④従来の政府見解である「自衛権行使三要件」論は、「必要最小限度の自衛権」行使の範囲を示したものである。これは安全保障環境の変化によって変わるものであり、不動のものではないから、現在の安全保障環境にふさわしい内容に変えるべきである。

(2)第二の想定―集団的自衛権の概念を用いる場合・その2

①従来の自衛権に関する政府見解によれば、憲法9条の下でも「必要最小限度の自衛権」行使を認めるとしている。
②自衛権には個別的自衛権も集団的自衛権も含まれる。
③従って「必要最小限度の自衛権」の範囲内であれば集団的自衛権行使も認められる。
④従来の政府見解である「自衛権行使三要件」論は個別的自衛権行使に関する要件であり、集団的自衛権行使についてはこれとは異なる要件が考えられるべきだ。

(3)第三の想定・集団的自衛権の概念を用いない場合

①従来の自衛権に関する政府見解によれば、憲法9条の下でも「必要最小限度の自衛権」行使を認めるとしている。
②従来の政府見解である「自衛権行使三要件」論は「必要最小限度の自衛権」行使の範囲を示したものである。これは安全保障環境の変化によって変わるものであり、不動のものではないから、現在の安全保障環境にふさわしい内容に変えるべきである。

私は、現時点では、このうち(3)のシナリオが有力ではないかと思うのであるが、いずれにしても、肝心なことは、政府・自民党、それに安保法制懇の仕掛けてきた「必要最小限度の自衛権」の行使なる陥穽にはまってはならないということである。それは、「自衛のために必要最小限度の自衛力」論が何らの規範的効力を持たず、際限なく自衛隊の装備、編成が拡大したのと同様、際限なく自衛隊の出動、戦闘参加、武力行使が拡大することにつながる道である。

今、これに対置すべきなのは「自衛権行使三要件」論である。

                                  (了)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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