世論に背を向ける安倍首相

1 はじめに

5月2日付「朝日」朝刊によると、安倍首相は、閣議決定をしないで「集団的自衛権」行使容認の憲法解釈変更の見解をまとめて「政府方針」に明記する方針を固めたとのこと、不可解千万というほかはない。同紙は、続けて、まず安倍首相限りで「政府方針」を決め、その後6月22日会期末の今国会会期中に閣議決定を目指すと報じている。これは公明党に踏み絵を踏ませようというものである。
そもそも政府方針とは閣内で協議し、一致して決定するものではないのか。それをしないで首相限りで「政府方針」を決定するとしたら、まさしくそれは独裁政治そのものではないか。公明党に、その決定に従うか、連立解消かを迫ろうとは、今や、安倍首相は、宗門改めの小役人の陰湿な役割までも演じようとしているのである。

2 世論の状況

この1ヶ月ほどの間に報道された「集団的自衛権」行使容認の是非をめぐる世論調査の結果を見てみると以下のとおりである。世論は「集団的自衛権」行使容認に反対、とりわけ憲法9条の解釈を変更して「集団的自衛権」行使できるようにすることには、圧倒的に反対していると言ってよい。

さらに注目すべきことは、朝日新聞社が行った中国と韓国での調査結果に示された両国国民の声である。「集団的自衛権」行使容認に踏み切った両国との大きな摩擦が生じることを予感させる。

(4月6日配信「朝日新聞デジタル・ニュース」)

集団的自衛権について「行使できない立場を維持する」が昨年の調査の56%から63%に増え、「行使できるようにする」の29%を大きく上回った。

安倍内閣支持層や自民支持層でも「行使できない立場を維持する」が5割強で多数を占めている。

安倍晋三首相は政府による憲法解釈の変更で行使容認に踏み切ろうとしているが、行使容認層でも「憲法を変えなければならない」の56%が「政府の解釈を変更するだけでよい」の40%より多かった。首相に同意する人は回答者全体で12%しかいないことになる。

また行使容認層に、行使できるようにするためには近隣諸国の理解を得ることが必要かと聞いた質問では、「必要だ」が49%、「必要ではない」が46%と見方が割れた。

朝日新聞社が今回、現地の調査会社を通じて中国と韓国でも面接世論調査を実施すると、日本の集団的自衛権について「行使できない立場を維持する方がよい」と答えた人が中国で95%、韓国でも85%と圧倒的だった。安倍政権が行使容認に踏み切る場合、中韓両政府だけでなく、両国民からも大きな反発を受けることが予想される。

(5月2日「NHK」報道)

NHKは、先月18日から3日間、全国の18歳以上の男女を対象に、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかけるRDDという方法で世論調査を行い、2667人のうち60%に当たる1600人から回答を得た。

政府が憲法解釈では認められないとしている集団的自衛権の行使を認めるべきだと思うか聞いたところ、

「憲法を改正して、行使を認めるべきだ」が13%、「これまでの政府の憲法解釈を変えて、行使を認めるべきだ」が21%、「これまでの政府の憲法解釈と同じく、行使を認めるべきでない」が27%、「集団的自衛権自体を、認めるべきでない」が14%であった。

この結果、2つを合わせた「行使を認めるべきだ」という回答は34%に、2つを合わせた「行使を認めるべきでない」という回答は41%となった。

去年4月の調査と比べると、「憲法を改正して行使を認めるべきだ」は6ポイント減り、「これまでの政府の憲法解釈を変えて行使を認めるべきだ」も8ポイント減り、「これまでの政府の憲法解釈と同じく行使を認めるべきでない」は10ポイント増え、「集団的自衛権自体を認めるべきでない」も5ポイント増えた。

(4月30日配信「北海道新聞」デジタル版)

5月3日の憲法記念日を前に、北海道新聞社は憲法に関する道民世論調査を行った。憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使容認を目指していることについては「集団的自衛権の行使を認めない」が45%で、「行使できるようにする」の40%を上回った。

なお、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が4月26、27両日に実施した合同世論調査の結果として、集団的自衛権の行使容認について「必要最小限度で使えるようにすべきだ」との回答が64・1%、「全面的に使えるようにすべきだ」(7・3%)をあわせて、7割以上が行使容認に賛意を示していると報じられたが、これは世論誤導調査であり、無視する。

3 「集団的自衛権」行使容認のシナリオ再論
 
安倍政権の描く「集団的自衛権」行使容認のシナリオは次の三つである。最近までは(3)が有力となっていたが、5月2日付「朝日」朝刊報道では、安倍首相は(1)もしくは(2)の方向を追及しようとしているようだ。しかし、これまで繰り返し述べてきたように「必要最小限度の自衛権」行使論によって正当化しようとすることは、従来の政府見解の根本をなす「自衛権行使三要件」論を踏みにじり、憲法9条に死をもたらすことになる。

(1)第一の想定―集団的自衛権の概念を用いる場合・その1

①従来の自衛権に関する政府見解によれば、憲法9条の下でも「必要最小限度の自衛権」行使を認めるとしている。
②自衛権には個別的自衛権も集団的自衛権も含まれる。
③従って「必要最小限度の自衛権」の範囲内であれば集団的自衛権行使も認められる。
④従来の政府見解である「自衛権行使三要件」論は、「必要最小限度の自衛権」行使の範囲を示したものである。これは安全保障環境の変化によって変わるものであり、不動のものではないから、現在の安全保障環境にふさわしい内容に変えるべきである。

(2)第二の想定―集団的自衛権の概念を用いる場合・その2

①従来の自衛権に関する政府見解によれば、憲法9条の下でも「必要最小限度の自衛権」行使を認めるとしている。
②自衛権には個別的自衛権も集団的自衛権も含まれる。
③従って「必要最小限度の自衛権」の範囲内であれば集団的自衛権行使も認められる。
④従来の政府見解である「自衛権行使三要件」論は個別的自衛権行使に関する要件であり、集団的自衛権行使についてはこれとは異なる要件が考えられるべきだ。

(3)第三の想定・集団的自衛権の概念を用いない場合

①従来の自衛権に関する政府見解によれば、憲法9条の下でも「必要最小限度の自衛権」行使を認めるとしている。
②従来の政府見解である「自衛権行使三要件」論は「必要最小限度の自衛権」行使の範囲を示したものである。これは安全保障環境の変化によって変わるものであり、不動のものではないから、現在の安全保障環境にふさわしい内容に変えるべきである。

4 軍事力の自己主張

安倍首相にしても、自民党石破幹事長にしても、軍事力至上主義に立ち、その軍事力をバックにしてわが国が国益を追及できる国際秩序と国際環境を作り上げようとしているのである。それが積極的平和主義のエッセンスである。
しかし、軍事力は、量的拡大が進むと質的転化を遂げ、自己主張を始めることになる。そのことを、わが国は、戦前昭和期に経験をしている。軍事力の虚妄と危険は歴史が証明している。
私たちは、彼らの企図を阻止するために、「必要最小限度の自衛権」論などというトリックにたじろがない確固不抜の世論を打ち立てるほかにない。
                                  (了)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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