特定秘密保護法は廃止しかない―歴史に学びつつ― (2)

2 戦前秘密保全法制とスパイ防止法案から学ぶべきこと

戦前秘密保全法制の双璧は、盧溝橋事件から日中戦争に突入した直後の1937年8月成立、同年10月施行され改正軍機保護法(以下単に「軍機保護法」という。)と、中国戦線の泥沼化と日米開戦に向かう1941年2月成立、同年5月施行された国防保安法である。

(1)軍機保護法の概要

(保護される秘密)
第1条第1項「軍事上の秘密と称するは作戦、用兵、動員、出師其の他軍事上秘密を要する事項又は図書物件」
同条第2項で「前項の事項又は図書物件の種類範囲は陸軍大臣又は海軍大臣命令を以て之を定む」
これを受けて陸軍軍機保護法施行規則及び海軍軍機保護法施行規則で以下のように広範かつ抽象的に「軍事上秘密の事項又図書物件の種類範囲」が定められ、さらに陸軍大臣、海軍大臣が具体的な指定をすることとされた。このような法律構造のもとで「軍事上秘密の事項又図書物件」が無制限に拡大されてしまった。

陸軍軍機保護法施行規則
①宮闕守衛に関する事項、②国防、作戦又は用兵に関する事項、③編制、装備又は動員に関する事項、④国土防衛に関する事項、⑤諜報、防諜又は調査に関する事項、⑥運輸、通信に関する事項、⑦演習・教育又は訓練に関する事項、⑧資材に関する事項、⑨軍事施設に関する事項、⑩図書物件に関する事項の10項目

海軍軍機保護法施行規則
①国防、作戦又は用兵に関する事項、②出師準備に関する事項、③軍備に関する事項、④諜報又は防諜に関する事項、⑤艦船部隊、官衙、又は学校に於ける機密(「軍機」又は「軍極秘」に属するものに限る)に属する教育訓練、演習又は研究実験の計画、実施若は其の成果、⑥通信に関する事項、⑦軍事施設に関する事項、⑧艦船、航空機、兵器又は軍需品に関する事項、⑨図書物件に関する事項の9項目

(処罰される行為と罰則)
単純探知収集は6月以上10年以下の懲役、公表目的又は外国若しくは外国のために行動する者に漏えいする目的の探知収集は2年以上の有期懲役、業務上知得領有者の漏えいは無期又は3年以上の懲役、業務上知得領有者の公表又は外国若しくは外国のために行動する者への漏えいは死刑、無期又は4年以上の懲役、探知収集かつ漏えいは無期又は2年以上の懲役、探知収集かつ公表又は外国若しくは外国のために行動する者への漏えいは死刑又は無期若しくは3年以上の懲役、偶然の原因で知得領有した者の漏えいは6月以上10年以下の懲役、業務上知得領有者の過失漏えいは3年以下の禁錮又は3000円以下の罰金等。

行為類型が細分化され、死刑、無期も含む重罰が科された。

(2)国防保安法の概要

(保護される秘密)
第1条「国防上外国に対し秘匿することを要する外交、財政、経済其の他に関する重要なる国務に係る事項にして」、以下のいずれかに「該当するもの及び之を表示する図書物件」
① 御前会議、枢密院会議、閣議又は之に準ずべき会議に付せられたる事項及其の会議の議事
② 帝国議会の秘密会議に付せられたる事項及其の会議の議事
③ ①、②の会議に付する為準備したる事項其の他行政各部の重要なる機密事項

本法では、ただこれだけの規定がなされているである。まるで巨大な投網を投げ放った如く、広範多岐に亘る事項及び図書物件が「国家機密」とされてしまうことになった。

(処罰される行為と罰則)
業務上知得領有者の単純漏えいは5年以下の懲役又は罰金、業務上知得領有者の外国若しくは外国のために行動する者への漏えい又は公表は死刑又は無期若しくは3年以上の懲役、公表目的又は外国若しくは外国のために行動する者に漏えいする目的の探知収集は1年以上の有期懲役、外国若しくは外国の為に行動する者に漏えいし又は公表する目的で探知収集探知しかつ外国若しくは外国のために行動する者への漏えいし又は公表は死刑又は無期若しくは3年以上の懲役、一般の知得領有者が外国又は外国のために行動する者に漏えい又は公表は無期又は1年以上の懲役、国防上の利益を害する目的で「その用途に供される虞あることを知って」外国に通報する目的による外交、財政、経済その他に関する情報を探知収集は10以下の懲役、外国通謀又は外国の利益のため治安を害する事項の流布はハ無期又は1年以上の懲役、外国通謀又は外国の利益のために金融界の撹乱、重要物資の生産又は配給の阻害など国民経済の運行を著しく阻害する虞のある行為は無期又は1年以上の懲役、情状により罰金併科。

このようにおよそ想定される行為がこれでもかこれでもかと処罰対象とされ、罰則は死刑、無期懲役を含む重罰が科された。

(3)GHQ指令による廃止とスパイ防止法制定の企み

国民の権利・自由を不当に抑圧した戦前の治安・立法弾圧諸法令は、1945年10月13日、GHQ指令によってすべて廃止された。秘密保全法制もその中に含まれ、軍機保護法及び国防保安法も廃止されたのは当然であった。

GHQの廃止指令の根拠は、わが国の降伏条件を定めたポツダム宣言の第10条「 日本政府は、日本の人民の間に民主主義的風潮を強化しあるいは復活するにあたって障害となるものはこれを排除するものとする。言論、宗教、思想の自由及び基本的人権の尊重はこれを確立するものとする。」との条項に基づいている。
この内容は、日本国憲法に引き継がれ、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重なる憲法三原則により、一層厳格に規定されるに至っている。従って、日本国憲法の下では、軍機保護法や国防保安法のような法律は認められないことになる筈である。

ところが戦後30年余り経過した1979年2月、自民党は、「スパイ防止法制定促進国民会議」を結成、それ以後スパイ防止法制定の「国民運動」を進めた。この「国民運動」は、「国際勝共連合」を実働部隊とし、神社本庁、成長の家、旧軍関係や自衛隊関係の団体(日本郷友連名、防衛協会、隊友会等)の全面的バックアップのもとに、地方レベルから積み上げていくという草の根運動として、地道に着実に展開された。その集大成として1985年6月、自民党単独の議員立法として「国家機密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(スパイ防止法案)が国会に提出されたのであった。

(4)スパイ防止法案の概要

(保護される秘密)
第1条「この法律において『国家機密』とは、防衛及び外交に関する別表に掲げる事項に係る文書、図画並びに物件で、わが国の防衛上秘匿することを要し、かつ公になっていないものをいう」
 
防衛事項は軍機保護法の「軍事上の秘密」とオーバーラップし、外交事項は国防保安法の「国家機密」の一部と重なる。

(処罰される行為と罰則)
①外国(外国のために行動する者を含む。以下同じ。)通報目的又は不当な方法による探知、収集した者が外国に通報し、わが国の安全に著しい危険を生させたとき死刑又は無期懲役、②国家機密取り扱い業務者等が業務上知得・領有して外国に通報し、わが国の安全に著しい危険を生させたときも同罪、③外国通報目的又は不当な方法による探知、収集した者が外国に通報したとき無期又は3年以上の懲役、④国家機密取り扱い業務者等が業務上知得・領有して外国に通報したとき同罪、①、②以外の者が外国に通報し、わが国の安全に著しい危険を生させたとき同罪、⑤外国通報目的で探知、収集した者2年以上の有期懲役、単純外交通報者同罪、⑥不当な方法で探知、収集した者10年以下の懲役、国家機密取り扱い業務者が漏えいしたとき同罪、⑦国家機密取り扱い業務者以外の者が漏えいしたとき5年以下の懲役

行為類型と罰則は、軍機保護法及び国防保安法に極めて相似している。

しかしながら、スパイ防止法案は、野党、労働組合、日弁連、その他の団体、学者、知識人、マスコミ関係者を先頭に広範な市民の運動で廃案に追い込んだのであった。

(5)本法は、自民党の積年の野望の第一歩

本法は、「保護される秘密」は、スパイ防止法案よりは広く軍機保護法と国防保安法を足した範囲に近づいている。しかし、「処罰される行為と罰則」は、スパイ防止法案と対比するとよくわかるが、上記の⑥、⑦だけである。

そうすると本法は、自民党やスパイ防止法制定に狂奔した草の根右翼からはゴールではなく、ほんの第一歩に過ぎない。
だから、私たちは、目を本法のみに留めていてはならない。その先どうなるかを見通さなければならない。
今、本法の廃止のために必死になって声をあげ、政府の描く本法施行のスケジュールを阻止しないと、たちまちのうちに次のステージに進められてしまうことになる。
(続く)

※戦前秘密保全法制については、私の論文「戦前秘密保全法制に学ぶ」を参照して頂きたい。

http://t.co/yszR7VH81S

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特定秘密保護法は廃止しかない―歴史に学びつつ― (1)

1 特定秘密保護法の現況

(1)特定秘密保護法(以下単に「法」という。)は、昨年12月13日公布され、公布後1年以内に施行ということで、着々と準備が進められている。準備作業を担っているのは内閣官房・特定秘密保護法施行準備室(以下「準備室」という。)、その室長は同・内閣情報調査室次長が兼務している。

法18条②、③に規定する有識者7名が選任され、その7名からなる情報保全諮問会議(以下「諮問会議」という。)の第1回会議が、本年1月17日に開催された。

第1回諮問会議では、出席した安倍首相から、「特定秘密の指定、解除や適性評価の実施に関する運用基準」や「特定秘密保護法の政令案」について議論をお願いしたい、委員から頂いた意見をしっかり受けとめると挨拶があったあと、各委員から意見がだされた。

各委員からは、国際的に遜色のない運用基準にすることが重要、ツワネ原則も参照しつつ議論を進めるべきだ、諮問会議が密室で行われているとの批判を受けることがないよう議事運営してもらいたいなど積極的な意見も出されたが、渡辺恒雄座長が、会議として意見をまとめることはしない、様々な意見があるということで総理大臣に検討していただけばよいと述べ、議論を打ち切った。

会議時間は全体で1時間ほど、森雅子担当大臣の締めの挨拶、事務方の準備室からは配布された「今後のスケジュール(イメージ)」と題するペーパーなど合計9点の資料の説明もあったであろうから、委員らによる議論の時間はそんなになかったのではないかと思われる。

いずれにしても諮問会議は、各委員は一方的に意見を述べるだけで意見のとりまとめをしない、内閣総理大臣はそれを「しっかり受けとめる」だけ、実質的には内閣情報調査室の別働隊である準備室が全て取り仕切るというもので、早くも有名無実の存在であること明らかとなった。

(2)その後の動きであるが、4月16日付準備室発表によると、以下のとおりで、第1回諮問会議で配布された「今後のスケジュール(イメージ)」と題するペーパーどおり進行している。

準備室において、「特定秘密の指定、解除や適性評価の実施に関する運用基準素案」と「法施行のための政令素案」を、委員の意見を聞きながら作成中である。その素案ができあがった段階で、第2回諮問会議を開催してこれら素案についての意見を聞くことになる。そして夏ころにはパブコメを実施し、パブコメの意見を踏まえ、第3回諮問会議を開催、しかる後に閣議決定をする。

(3)18条④は、「特定秘密の指定及び解除並びに適性評価の実施」について内閣総理大臣が行政各部を指揮監督する旨定めている。準備室は、その実施機関として、官房長官をヘッドにインテリジェンス・コミュニティ(内閣官房、外務省、防衛省、警察庁、公安調査庁の各省庁)次官級で構成する仮称「保全監視委員会」を内閣官房に設置するという構想を描いている。このような機関を、法律上何らの独立性保障、権限付与もなしに作ったとしても、特定秘密を多く取り扱う仲間内の談合機関に過ぎず、何らチェック機能を果たせないことは火を見るより明らかである。

法附則9条は、特定秘密の指定及び解除の基準等を検証、監察するための独立した公正な新たな機関の設置、その他、特定秘密の指定及び解除の適正を確保するために必要な方策を検討し、所要の措置を講ずることを定めている。これに基づいて、準備室は、内閣府に審議官級(局長級)の仮称「独立公文書官吏監」を置き、その下に情報保全観察室をおいて、指定・解除の適否等を検証・監察、行政文書の管理・廃棄を検証・監察させるという構想を描いている。しかし、これも法律上何らの独立性保障、権限付与の手当てもなされていないのであるから、有効に機能するとは到底思えない。

さらに特定秘密を取り扱う関係行政機関の在り方及び特定秘密の運用の状況等について審議、監視する委員会を国会に置くとの、昨年12月5日付自民、公明、維新、みんなの4党合意に基づいて、仮称・情報委員会について、自民、公明から案が出され、検討が進められている。報道されているところによると、自民案、公明案及び議論の状況は以下の如くである。

自民党案は、各院それぞれに設置し、法10条1項1号イの規定による各常任委員会、特別委員会等への特定秘密の提供が拒否された場合にのみその当否を審査することとしている。公明党案は、両院合同で設置し、法101項1号イの規定による各常任委員会、特別委員会等への特定秘密の提供が拒否された場合だけではなく、常時、特定秘密の運用状況を監視することとしている。これら両者の案をどう調整するかが課題であるがなかなか容易ではなかろうと。

しかし、そのような矮小化された議論ではどうしようもない。私は、①法10条1項1号の規定を改正し、仮称・情報委員会は全ての情報にアクセスできるようにしなければならないこと、②広く国民から特定秘密の指定、解除、適正評価に関する苦情申し出を受け付けること、③是正に関する強制権限を持つこと、④相当な調査スタッフをもつことなど、実効的監視機能を持つように本法を抜本的に改正する必要があると考える。

(4)ところで本法の廃止、抜本的改正を求める動きは粘り強く進められてはいるが、先の国会で反対した野党、即ち民主、生活、共産、社民の間で共同歩調がとれているように思われないし、昨年12月初めのころの反対運動と比べると、勢いを欠くと言わねばならない。このままでは、政府の思うままに施行されてしまうことが強く危惧される。
 
そこで今一度、本法の危険性を確認しておく必要がある。
                                  (続く)

プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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