安保法制懇報告書を読む (6)

1 「安全保障環境の変化」、これは、報告書のもちいるマジックワードである。報告書は、「わが国をとりまく安全保障環境は、一層厳しさを増している」と述べている。

 報告書は、前回報告書の時に比べてもその傾向は一層顕著になっているとして、以下の事象をあげている。

① 技術の進歩と脅威やリスクの変化
② 国家間のパワーバランスの変化
③ 日米関係の深化と拡大
④ 地域における多国間安全保障協力等の枠組みの動き
⑤ 国際社会全体が対応しなければならない深刻な事案の発生が増えていること
⑥ 自衛隊の国際社会における活動実績とその役割の増大

2 報告書は、だから従来の憲法解釈では十分に対応できなくなっていると述べている。
  だが、これはアジテーションに過ぎないのではないか。私たちは冷静に分析し、論理的に考えてみる必要がある。

①に関して言えば、戦後69年間、これらは一貫して激しく変化し続けてきた。その中でも、核兵器の大量保持と運搬手段の飛躍的発達、核拡散、正面衝突を回避しつつ展開された米ソの覇権争いと地域紛争への積極的介入、通常兵器の精度・性能と破壊力の向上させる開発競争、熾烈な諜報・情報戦争、宇宙空間の軍事的利用の研究・開発、ありとあらゆる点において冷戦時代にこそ、これらは際立っていた。

②について、パワーバランスの変化の担い手は、中国、インド、ロシア等だ、と報告書は述べている。ただ具体的な説明がされているのは中国だけであるから、中国こそパワーバランスの変化に主たるアクターだと言うのであろう。確かに、中国の軍事的膨張主義は、わが国にとっては重要な課題である。しかし、米国に一切触れないのは片手落ちだろう。米国の動向こそ、依然として世界の緊張の原動力である。
それにしても米ソの冷戦構造の時代は米ソのパワーバランスの変化に世界が振り回された。それと比べると個別国家のパワーバランスよりも、国連や地域的機構の安全保障、平和維持の役割が格段と重要視されるようになっていることは、④、⑤で取り上げられているとおりである。

③は、わが国歴代自民党政権がとってきた米国一辺倒の外交政策の結果であって、多角的、東アジア重視の外交姿勢に転ずれば、日米軍事同盟体制は相対的に重要性を減ずることになる。

④は、安全保障環境の厳しさを緩和する要因となる。

⑤について。冷戦終結後、地域紛争は、冷戦時代とは異なる形をとり、異なる原因で発生するようになった。そのため冷戦時代には無力であった国連が、その本来の役割を果たせる機会が増えたということである。

⑥について。これは、9条に関する政府見解二本柱によって、海外派兵、海外での武力行使に歯止めがかけられてきたから言えること。その歯止めがあったればこそ、自衛隊は、海外で武力行使をせず、戦闘により一人も殺されず、一人も殺してこなかった。非武装の自衛隊が、海外で平和維持活動、災害救助活動、民生活動をすることにより自衛隊は一層高く評価されることになる。

3 以上述べたところから明らかなように、「従来の憲法解釈では十分に対応することができない状況」などどこにも生じていない。しかるに報告書が「従来の憲法解釈では十分に対応することができない状況」に立ち至っているなどと強弁するのは、要するに、憲法9条の下で、集団的自衛権行使は認められないとの従来の政府見解(二本柱の政府見解から論理必然的に導かれる)を変えたいとの願望が強すぎて、真実が見えなくなってしまっているのであろう。

もっとも報告書は隠しているが、本当は、安全保障環境の変化として真っ先に指摘したかったことがあるのではなかろうか。それはかっての冷戦時代の仮想敵国ソ連と比べて、中国(あるいは北朝鮮)はより弱い仮想敵国であること、自衛隊が海外で戦争ができるほどに軍事的能力が著しく向上していること、この二つの事実。これは単なる推測に過ぎないが、当たらずといえども遠からずであろう。
 
                              (続く)





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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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