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「満州事変 政策の形成過程」(岩波現代文庫)を読む

 緒方貞子さんは、国連難民高等弁務官として活躍されたので、ご存知の方も多いであろう。ご本業は、日本政治外交史を専攻する学者である。あるいは、満州事変勃発後の1931年12月、首相となり、翌年5.15事件で暗殺された犬養毅氏の曾孫、同じく犬養内閣で外務大臣をつとめた外交官芳澤謙吉氏の孫といえば、昭和戦前史に関心のある方は、ぐっと身近に感じられるのではなかろうか。

 その緒方さんの標記の著書(「緒方本」という。)を読んだ。緒方本は、緒方さんが、主婦業から研究者への転進を目ざして勉学を継続し、1963年、36歳にして、米国カリフォルニア大学(バークレー)大学院政治学部に提出した博士論文がもとになっている。この博士論文は、1964年、カリフォルニア大学からDefiance in Manchuria-The Making of Japanese Foreign Policy 1931-1932のタイトルで出版された。その後、この本は、新たな資料に基づき加筆補正、1966年、邦訳され、「満州事変と政策の形成過程」として原書房より出版された。緒方本はこれを底本として、2011年8月、岩波現代文庫として再刊されたものである。

 日本が15年戦争にのめりこんで行くターニング・ポイントは、1925年、大正デモクラシーの成果である普選法の制定と無産階級の進出をおさえ込むための治安維持法がセットとして制定された時期に見出されるように思う。そこからまるで悪魔に魅入られたように歴史は暗転していく。私は、今、この時代にスポットをあてて、誰が書いたかは問わず読み解いている。たとえば、あの北岡伸一氏の本も。この時代を学ぶことが、戦争をする国に変貌しつつある現代日本を考えるには必要なことのようだ。

緒方本は、満州事変に焦点をあてた政治外交史の専門書である。だから、単純に歴史叙述をしたものではなく、かなり読みづらくもあり、読み応えもある本である。

 緒方本は、主として関東軍に結集した対外膨張と国家社会主義的国家改造を唱える板垣征四郎、石原莞爾ら急進主義的陸軍中堅将校らが、独自に対満州政策を練り上げ、謀略と、武力の行使と脅しにより、これを実行に移していく過程、陸軍中央が政府内で孤立し、幣原外交に押さえ込まれて関東軍の暴走を抑制しようとする段階から政党政治家と外務省を屈服させて陸軍中央主導の権力構造へと転換していく過程、その権力構造の転換が政府の対満州政策と国際約束を転換させ、それが国際連盟をはじめわが国の国際社会における地位と国際社会のわが国に対する姿勢がどのように変化していくことになったのか、資料自らに語らせる方法形で描き出していく。

 こうした権力構造の転換によって、陸軍中央のみならず政府自体に関東軍流の対満州政策が貫徹していく。それには民間右翼を巻き込んだ陸軍内の中堅、若手将校の相次ぐクーデタ計画も大きな影響を及ぼした。誰も軍部を抑えられない。天皇さえも夜な夜な遅くまでマージャンに興じているとデマを流された。マスコミも、いつしか軍部礼賛一色に塗り固められていった。

 緒方さんの曽祖父犬養毅氏の暗殺、祖父芳澤謙吉氏が直面した国連での困難と軍部への屈従。緒方さんは、おそらく関東軍や陸軍中央の横暴、暴力、横車、居直り強盗のような論法に、本当は腹が煮えくり返る思いをもたれたであろうが、あくまでクールに記述し続ける。しかし、それは、たとえていえばベトナム戦争で、米軍兵士が民衆を虐殺した場面を、声もなく単にシャッターを切り続けることによりクリアに写し取った写真が人びとに怒りを呼び起こしたように、実は、読み手に、煮えくり返るような怒りを沸き立たせてくれる。

 緒方本が扱った満州事変は、1920年代後半の矛盾が飽和状態となって爆発した地点である。この地点で起きた爆発は、日本社会を破壊しつくし、焼き尽くすまで止むことがなかった。1920年代後半の矛盾、それは現代日本を覆っている矛盾と、はたしてどれほどの違いがあるだろうか。
                                    (了)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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