情報監視審査会は盲腸、否、国会の機能を蝕むガンである

1 特定秘密保護法に基づき行政機関の長が行う特定秘密の指定又は解除及び適性評価の実施を審査し、並びに各議院からの特定秘密の提供要求に対する行政機関の長による提供もしくは拒絶の判断の適否等を審査することを目的とした常設の「情報監視審査会」を衆・参各院に設置する「情報監視審査会の設置等に係る国会法一部改正案」「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律の一部改正案」「国会職員方の一部改正案」は、6月20日、第186回国会(常会)の最終日に、参議院において、民主、生活、共産、社民等の反対の声を抑え、自民、公明、維新、みんな等の賛成多数で可決され、成立した(以下まとめて「情報監視審査会設置法」という。)。
 情報監視審査会設置法は、昨年12月6日成立した特定秘密保護法の施行と同時に施行されることになる。

2 しかし、情報監視審査会は、以下の理由により、標榜するところの目的を果たせるとは到底考えられず、盲腸のような存在でしかない。

(1)情報審査会設置法と同時に成立した各院情報監視審査会規程によれば、情報監視審査会は、各8名の議員のみで構成され、会派ごとの議席数の割合に応じて委員が割り当てられることとなっている。このため情報監視審査会の決議が多数決によった場合、内閣を構成する与党会派の意向が強く反映される結果となり、そもそも内閣のもとにある行政機関の長に対する審査・監視機能が十分に発揮されるとは考えにくい。
 
(2)情報監視審査会が、特定秘密の提供を求めても、行政機関の長は、特定秘密の提供に応じない理由を疎明し、情報監視審査会がこの理由を受諾すれば提供を拒むことができる。仮に情報監視審査会がこの理由を受諾しなくても、情報監視審査会は、当該特定秘密の提出が我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある旨の内閣の声明を要求できるにすぎず、当該特定秘密の提供をさせることはできない。

 結局、行政機関の長の特定秘密を提出しない理由に合理性がないと情報監視審査会が判断しても、行政機関の長は、特定秘密の提供を拒否できる仕組みとなっているのである。

(3)情報監視審査会は、特定秘密の指定・解除をはじめその他の行政機関の長の運用に対して、単に改善等の勧告ができるにとどまり、行政機関の長に対して、なんらの強制力も持たない。

(4)行政機関の内部者からの通報により特定秘密の指定・解除をはじめその他の問題点を浮かび上がらせる内部通報者制度が存在せず、行政機関の長が、特定秘密の指定、解除をはじめその他の権限を濫用した場合でも、情報監視審査会がこれを認知し、活動を開始することも期待できない。

3 それだけではなく、情報監視審査会制度は、以下述べるように、逆に国会の権限を制約し、その機能を蝕み、弱体化させるガンとなるおそれが大きい。

(1)行政機関の長から情報監視審査会に対し、特定秘密が提供されても、特定秘密の閲覧できる者は情報監視審査会委員、各議院が議決で定める者、その事務を行う職員に限定されている。
 情報監視審査会の事務を行う職員は適性評価を受け、秘密漏えい等の罰則が適用されるなど秘密厳守が何よりも優先され、情報監視審査会委員である議員自身も、当該特定秘密の内容の当否を判断するために他の議員や専門家の意見を確認することもできない。

(2)そもそも両議院の会議は公開であり、秘密会の開催は出席議員の三分の二以上の多数で議決した場合に限られる(憲法57条1項)。これは広く会議を国民に公開することにより国会が国権の最高機関としての権限を果たせるようにした重要な原則である。
 憲法で保障される両議院の国政調査権(憲法62条)は、広く国政全般にわたり証人の出頭及び証言並びに記録の提出等を通じ、行政機関等の保有する情報を開示させ、行政に対する監督・統制機能を確保するとともに、国民の知る権利に奉仕する重要な権限である。従って、会議公開の原則は、国政調査権の発動においても、可能な限り尊重され、保証されなければならない。

 しかるに各院情報監視審査会規程によれば、審査会は、常時、秘密会とされており、審査会の委員ら以外に特定秘密に関する情報が提供されることはない。また、委員以外の議員は、そもそも情報自体に接する機会すらないため、当該特定秘密に関連する政府の政策決定の当否についてすら、国会内で自由かつ闊達に議論することができなくなる。
 これにより国政全般、とりわけ行政権に対する監視・統制を職責とする両議院及び国会議員の権限が大きく抑制される結果をもたらす。

4 特定秘密保護法は、①秘密指定の対象が広範かつ無限定であり「特定秘密」の恣意的な指定がなされる恐れが強いこと、②現行法制度で情報保全はすでに十分になされており、今これを強化するべき理由は見出されず、立法事実が存在しないこと、③処罰範囲があいまいで罪刑法定主義に反すること、④報道機関による取材への萎縮効果を生むなど知る権利を侵害すること、⑤適正評価制度はプライバシーの権利を侵害すること、⑥日米同盟強化・集団的自衛権行使容認と連動する戦争準備法であり、さらに限りなく増殖する治安立法である、などの理由により、治癒不能の悪法であり、速やかに廃止されるべきである。
                             (了)


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加藤周一・樋口陽一「時代を読む『民族』『人権』再考」(岩波現代文庫)から

 標記の本(以下「本書」という。)は、評論家・故加藤周一氏と憲法学の泰斗・樋口陽一氏が、1996年の夏から秋にかけて3回にわけて行った対談の記録である。
 あの15年戦争の終わりをどのように受け止めたかという個人的な回想から始まり、敗戦の受け止め方と日本国憲法受容の姿勢の相関性、押し付け憲法論の不毛性、戦後改革の意義、人権、改憲論と解釈改憲への反駁、国家、民族、核廃絶、国民主権と国家主権の問題、戦争、ナショナリズム、いわゆる「近代の超克」批判と近代合理主義の擁護、9条を持つ国と「普通の国」、「9条は真の近代の超克」など話は縦横無尽、お二人の深い学識と鋭くかつ柔軟な考察に引き込まれ、時間を忘れて一気に読み終えてしまった。

 本書は、是非、多くの人に読んで頂きたい本である。

 本書中で、今の集団的安全保障措置等における武力行使容認の議論に真正面から対抗する考えが示されている。おもしろいやりとりだから、以下に紹介しておくこととする。

加藤 (9条1項の「国際紛争を解決する手段として」と同条2項「前項の目的を達するため」を連結する読みにより自衛のための戦力は保持できるとの見解をあげて)それはこじつけ解釈だと思うけど、とにかく理屈はこじつけられている。ところが最近のように世界の平和を維持するために軍隊を派遣するとか協力するということになると、話はまったく違ってくる。世界の平和を維持するために軍事力が必要だというのは、もちろん国際紛争があるからでしょう。国際紛争がなければ行動しなくてよいわけだから、平和を守るということは紛争があるということだ。その国際紛争を解決するための戦力は、どうこじつけても、第9条に違反するでしょう。(以下略)

樋口 大変法律的で説得力のある議論ですが、それに対しては再び三百代言で押し返す議論が出てくると思う。というのは、こういう議論です。---国際紛争のために軍隊を使っちゃいけない、そもそも持ってはいけないというその国際紛争とは、日本が当事者である国際紛争なのだ。主権国家の憲法というのは自分の国のことを基準にして書いている。だから、第9条は、日本が国際紛争の当事者となった場合に軍隊を使ってはいけないし、またそのための軍隊を持ってはいけない、ということになる。---(以下略)。

加藤 そうすると、第9条第1項にある国際紛争というのは、日本が当事者である国際紛争と解釈するわけですね。

樋口 よそで難癖つけられて困っている人を助けにいくのは、この第9条の問題ではないというわけです。

加藤 しかし、そうすると・・・。

樋口 大変なことになります。

加藤 そういうことになると、たとえば第一次大戦が起こったのは、サラエヴォでオーストリアの皇太子が殺されたからだった。殺したのはセルビア人だ。だからイギリスは当事者ではなかった。フランスもロシアも関係なかった。ドイツさえも関係なかった。しかるに、オーストリアの戦争に英仏独露その他の国が参戦し、大戦が始まってしまう。たいていの宣戦布告は、そういう当事者でない紛争の介入から始まりますね。
 第二次大戦はヒトラーがポーランドに侵攻して英仏が参戦した。英仏はポーランドと同盟があるから宣戦布告したわけだけど、いずれにしてもイギリスやフランスが紛争の当事国ではなかった。
 国際紛争の当事国でない場合には介入するのだということになると大変だ。第一次大戦、第二次大戦をはじめ、だいたい20世紀の戦争は、むしろ国際紛争の当事国でない国が宣戦している。

(以下略)

一方、安保法制懇報告書は、以下のように述べている(要約、下線、太字は私)。

① 9条1項は、わが国が当事国である国際紛争の解決のために武力による威嚇又は武力行使を行うことを禁止したものと解すべきであり、(個別的であれ、集団的であれ)自衛のための武力行使は禁じておらず、また国連PKO等や集団的安全保障措置への参加といった国際法上合法的な活動への制約もしていないと解すべきである。
② 9条2項は、わが国が当事国である国際紛争の解決のための武力による威嚇又は武力の行使に用いる戦力の保持を禁止しているが、それ以外に、個別的又は集団的を問わず自衛のための実力保持や国際貢献のための実力保持は禁止していないと解すべきである。

 自民党が20日、与党協議会で提示したという侵略をした国などを制裁する集団安全保障の際、自衛隊が武力を使えるようにするとの案は、安保法制懇報告書の当該部分に依拠している。

 加藤、樋口対談での上記のやりとりは、安保法制懇報告書の上記部分を直撃する(とくに下線を付した太字部分)。自民党も北岡伸一氏も安倍首相も、これに反論することはできないだろう。なにせ、あなた方は憲法論ではなく、近視眼的な政策論を述べているだけだから。
                             (了)
プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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