戦後憲法9条解釈論争・米国に尻尾をふった最高裁長官(その1)

 れっきとした独立国であるわが国の裁判史上に、米国から、極めて重大かつ悪質な裁判干渉が行われ、時の政府はおろか、最高裁長官までもがこれに追随したというありうべからざる汚点が印されている。その事実経過と顛末は、一部の好事家の関心事にとどめてはならず、現代を生きる私たち一般国民が、「日米同盟」を考える上で、是非とも必要な基礎的資料として共有しなければならない。
 しかし、この歴史的事実は、限られたごく一部の人にはよく知られていることではあっても、未だ国民に広く、また詳しく知られてはいない。まず知ることが肝要である。
 そこで、吉田敏浩外『検証 法治国家崩壊 砂川裁判と日米密約交渉』(創元社)に基づき、私見を交えながら、この経過と顛末を、整理してみようと思う。

 1959年3月30日に下された伊達判決は、わが国政府が安保条約を締結し、わが国に米国軍隊を駐留させていることは憲法9条2項に違反すると断じた。折あたかも旧安保条約改定にむけての交渉を進めていた日米両国政府首脳は、この判決に驚愕し、かつ困惑した。
 旧安保条約は米国の望むとおりにわが国土を米軍基地に提供し、かつ極東有事の際、米軍がこれらの基地を自由使用することを認めるというだけの条約で、あからさまな一方的・不平等・従属条約であった。このため1952年4月、旧安保条約が発効した後、全国各地で反基地闘争が闘われ、国民の反米感情は著しく悪化して行った。
 そこで1957年6月、首相に就任した岸信介は、国民の反米感情をおさえ、独立国の対面を保つために、米軍にわが国を防衛する責任を負わせるかのごとき条項を入れ、かつ条約正文とは別に、米軍の日本への配備における重要な変更、核兵器の持ち込みなどを事前協議の対象とする事前協議の交換公文を取り交わすという方向での詰めを急いでいた。しかし、実際には米軍のわが国防衛の責任も、合衆国憲法による議会の承認を条件とするもので実効性に疑問符のつくものであったことはまだ許されるとしても、日米政府は、上記交換公文に、艦船や航空機が核を搭載したままわが国に入ることや朝鮮半島有事の際の米軍出撃については事前協議を不要とする尻抜け密約をして国民をたばかろうとのはかりごとが進められていた。

 このようなときに下された伊達判決は、日米両国政府にとってはまさに青天の霹靂、これを速やかに葬り去らなければ、安保改訂交渉の行く手に大きな障害をもたらすことになる。日米両国政府は、きっとそのように考えたのであろう、すばやく動き始める。

 判決翌日の3月31日午前8時、マッカーサー駐日大使(あのマッカーサーの甥である)と藤山外務大臣が、某所で密談。マッカーサー大使が本国国務省に送った同日午後2時発の「極秘」電文で、彼は次のように報告している。

「私は、日本政府が迅速な行動をとり、東京地裁判決を正すことの重要性を強調した。
(さらに安保改訂交渉への影響や目前に迫っていた統一地方選挙への影響に触れた後)
 私は、もし自分の理解が正しいなら、日本政府が直接最高裁に上告することが非常に重要だと個人的には感じている。(中略)藤山は全面的に同意すると述べた。完全に確実とは言えないが、藤山は、日本政府当局が最高裁に跳躍上告することはできるはずだ、との考えであった。藤山は、今朝9時に開かれる閣議でこの上告を承認するように促したいと語った。」

 藤山外務大臣は、同日午前9時からの閣議に出席、飛躍上告の必要性を提起したが、即決はできなかった。同日午後10時29分米国大使館発本国国務省宛の「秘」電文にそのことが書かれている。

「今夕、外務省当局者は、日本政府が東京地裁判決を最高裁に跳躍上告するか、それともまず東京高裁に控訴するかをめぐって、いまだ結論に到達していないと知らせてきた。(以下略)」

 わが国外務省は、米国の手となり足となり動いている。

 翌4月1日、マッカーサー大使は、再び藤山外務大臣と密談をこらした。なんと密なことだろう。マッカーサー大使は本国国務省に、同日午後8時発の「秘」電文で、次のように報告している。

「藤山が、本日内密に会いたいと言ってきた。藤山は、これまで数多くの判決によって支持されてきた(政府の)憲法解釈が、砂川事件の上訴審でも維持されるであろうことに、日本政府は完全な確信をもっていることを、アメリカ政府に知ってもらいたいと述べた。
 法務省は目下、高裁を飛びこして最高裁に跳躍上告すること方法を検討中である。最高裁は300件をこえる係争中の案件がかかっているが、最高裁は本事件に優先権をあたえるであろうことを政府は信じている。
とはいえ、藤山が述べたところによると、現在の推測では、最高裁が優先的考慮を払ったとしても、最終判決を下すまでにはやはい3ヶ月ないし4ヶ月を要するであろうということである。」

 なにやらうさんくさい話になってきた。米国側の日本政府への単純な要望ではなく、執拗な工作と、それに嬉々として応じている日本政府、さらにはどうも最高裁側の情報までも流されているではないか。

 これでは、わが国外務省は、さしずめ米国国務省日本局といってもよさそうだ。

                                       (続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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