戦後憲法9条論争・第三代最高裁長官・横田喜三郎氏

 当ブログで、9月8日から17日までの間、「戦後憲法9条論争・米国に尻尾をふった最高裁長官」を5回にわけて連載した。

 そこでは第2代最高裁長官田中耕太郎氏が、憲法9条に関し、1946年当時には、あらゆる戦争、武力による威嚇もしくは武力の行使を放棄する絶対的平和主義だと説いたにもかかわらず、砂川事件の審理過程において、司法の独立と裁判官の良心を、米国に、売り渡してしまった顛末を明らかにした。また彼が、最高裁長官を定年退官した後に、国際司法裁判所判事に就任することになったのは、米国の推挙の賜物であり、私は、これを論功行賞人事であったと評したところである。

 ところで田中耕太郎氏はクリスチャンとして知られており、その世界観に基づいて、若いころから世界平和を熱心に説いていたようである。

 田中耕太郎氏は、1932年から1933年にかけて、岩波書店から「世界法の理論」全三巻を出版している。その中で、軍事優先の風潮に対する厳しい批判を展開しつつ、国際協調と世界統一法の進展により、世界平和を展望している。次の一節をご覧頂きたい。

 「今や世界大戦終結より茲に十年、各国民は其の物質的及び精神的の破壊作用を自覚し、反動的なる民族主義、狭隘なる愛国主義より徐々に人類相互依存の事実及び全人類の形成するGemeinshaft(注:共同体)の理想に目醒め、此の基礎の上に存するユートピアにあらざる国際主義的世界主義的精神に赴かんとしつつある。国際連盟の徐々ではるが、しかし確実なる此の精神の具体的実現の為の努力、殊に最近において困難を排して実現せられんと企図せられつつある国際法の法典化事業の如きは、此の事実の最も適当な例証である。」

 田中耕太郎氏は、この著作により、軍部・右翼から激しい攻撃を受けたのであった。

 田中耕太郎氏ほどに、歳をとり、功なり、名を上げるとかくも変わってしまうのは、学者としては、比較的珍しいのではないかと思っていたら、田中耕太郎氏の後をついで、第三代最高裁長官に就任した横田喜三郎氏も同類であった。なんと司法のトップである最高裁長官が、二代続けて、みごとに変節を遂げた人たちだったのだ。

横田喜三郎氏の略歴

 1986年8月6日生まれ
 1922年3月 東京大学法学部法律学科卒業
 1930年3月 東京大学法学部教授(国際法)
 1948年12月 東京大学法学部長に就任
 1960年10月 第3代最高裁判所長官に就任。

 横田喜三郎氏は、国際法の権威であり、戦前、社会主義に関心を寄せ、軍部に睨まれたこともあった。戦後もリベラルな立場を堅持した。専門分野以外でも、たとえば1949年に出版された著作『天皇制』などにおいて、「天皇制は封建的な遺制で、民主化が始まった日本とは相容れない。いずれ廃止すべきである」と天皇制廃止論を提唱している。
 横田喜三郎氏は、日本国憲法に関しても、小説「路傍の石」の作者・山本有三とともに、GHQ草案にもとづく政府草案を、口語体に書き改め、今の格調高い文章のもとを作成したほか、憲法公布後の1946年12月、帝国議会内に組織された「憲法普及会」評議員に就任し、憲法普及活動に従事した。その憲法普及会による東京地区の第1回公務員憲法研修会では、「戦争放棄論」を講義し、憲法9条は自衛のための戦争、武力による威嚇及び武力行使を放棄したことを熱心に説いたのであった。
 横田喜三郎氏は、1950年に出版した著書「日本の講和問題」(勁草書房)において、「形式的に見れば、外国の軍隊や基地をおくことは、憲法に違反しないといえるかもしれない。しかし、実質的に見れば、つまり精神からいえば、すくなくとも適当ではないといわなくてはならない。軍隊も戦力も、いっさい廃止した精神は、あきらかに、戦争の手段となるものをまったく存在させないということにある。たとえ外国の軍隊や戦力であっても、戦争の手段となるようなものを存在させることは右の精神に反するといわなくてはならない。」と主張した。

 ところが、その後、横田喜三郎氏は、微妙に説を変じ始め、砂川事件最高裁判決が出ると、著書や論文で、これを積極的に支持する見解を書きまくった。その甲斐あってか、1960年10月、横田喜三郎氏は第三代最高裁長官に就任することとなった。

 田中耕太郎氏の退官に際し、横田喜三郎氏が「貴殿の勇気と信念は今日の世界が直面する基本的問題に立ち向かう自由な国民の精神の源泉になってきた」と持ち上げると、田中耕太郎氏も「後任の横田喜三郎に「(米国が)私が最高裁にいたときと同様の援助を与えてくれるように」とエールを返した。全くこれはなんだろう。歯の浮くようなやりとり、吐き気を覚えるのは私だけだろうか。

                                                (了)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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