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戦後憲法9条論争・「自衛隊違憲・合法論」

 1983年12月の総選挙を前にして、社会党委員長に就任して間もない石橋正嗣氏は、「自衛隊は違憲だが、手続的には合法的に作られた存在だ」と、いわゆる「自衛隊違憲・合法論」をぶち上げた。社会党機関誌「月刊社会党」1月号の、憲法学者・小林直樹東大名誉教授(以下単に「小林教授」という。)との誌上対談の中でのことであった。

 石橋委員長のこうした異例の形の提起を受けて、翌1984年1月、社会党の運動方針起草小委員会は、それまでの自衛隊違憲・非武装中立論を改め、「『違憲』の自衛隊が『合法』的に存在している」として現状の自衛隊を肯定する内容に変更する運動方針原案を作成した。しかし、党内において、主として平和運動・基地闘争に取り組む活動家層からの激しい批判の声に曝された。石橋執行部は、1984年度運動方針原案にあった上記記述を「違憲の自衛隊が法的に存在している」とトーン・ダウンすることにより、なんとか混乱を収拾し、乗り切ることができた。

 表現においてはやや譲ったものの、石橋執行部は、社会党を自衛隊違憲・非武装中立論から「自衛隊違憲・合法論」に転進させたことにより、自衛隊を合憲とする公明、民社との歩調を合わせることができ、以後、社公民路線の推進に拍車をかけた。
 社会党は、社公民路線を推進することにより、「自衛隊違憲・合法論」というよりも「違憲」を置き去りにして、単なる「合法論」に軸足を移して行った。そして、ついには自衛隊合憲論に行き着いてしまったのであった。自社さ政権の首班となった村山富市首相村山首相が、1994年7月20日、衆議院本会議で、自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力組織」であり「憲法の認めるものであると認識する」と発言、同年9月の社会党大会は、これを追認し、歴代保守政権と歩調を合わせるに至ったことは、まだ記憶に新しいところである。実に、「自衛隊違憲・合法論」採用から10年後のことであった。
 こうして、戦後史に大きな足跡を残してきた社会党は、自ら、現実的政治を動かす舞台から去る道を用意したのである。

 ところで石橋委員長がぶち上げた「自衛隊違憲・合法論」とは、対談相手の小林教授が『ジュリスト』1975年5月1日号に掲載された論文「防衛問題の新状況」で示した問題提起に依拠したものであった。だが、石橋委員長は、小林教授の問題提起の表面をなぞっただけで、その大切な魂をしっかりと受け止めることはできなかった。

 小林教授の問題提起の大切な魂とは何か。

 小林教授は、この論文を含む3本の論文を、短期間のうちに書いている。相関連する論文である。最初の論文は、法律時報1973年7月臨時増刊号の『憲法9条の総合的検討-新段階における平和憲法の況位』である。2番目の論文は、同じく法律時報1975年5月臨時増刊号の『憲法9条の政策論-平和憲法下の安全と防衛』、そして3番目に書かれたのが上記論文である。

 第一論文は、実に法律時報の誌面で42ページに及ぶ長大なものである。小林教授は、文理的解釈、憲法全体の構造連関、基本的人権規定との立体的・総合的関連を考察し、自衛隊の機能と性格、核時代における軍備の無効性を解き明かし、憲法9条を一切の戦争と戦力を否認するものとの解釈をあらためて確認している。そして、そのように解釈される憲法9条は、現代においてこそ現実的な規範価値を持つものと再評価する。その上で、小林教授は、自衛隊は違憲であるが、それは国民の圧倒的な支持を得た野党連合政権の樹立により、縮小・解体(もしくは平和的再編)をする道をとるしかなく、それによって漸進的に憲法9条を実現していくほかはないとの展望を語っている。

 第二論文は、第一論文では書ききれなかった憲法9条の下での安全保障の方式に焦点をあてたもので、軍縮、平和のための運動と教育、外交・経済・文化等の平和的手段を用い、これらと組み合わせた非暴力的な日本独自の市民防衛論などを提起している。

 小林教授は、第三論文において、これらを踏まえて「自衛隊違憲・合法論」を問題提起したのである。自衛隊は違憲であり、縮小・解体(平和的再編)されるべきことが大前提であるが、それでは現に保守政権の下で、整備されてきた自衛隊を法的に統制することも同時に大切な課題であると言うのである。自衛隊は肥大化するばかりである。内部では民主的に成立した政府をクーデタで転覆させることを構想・研究する幹部が野放しになっている。自衛隊員の思想・表現の自由、団結権が保障されていない。自衛隊当局は、一方で自衛官のみならず国民を直接対象にした情報活動をし、他方で軍事秘密の聖域を作り上げている。単に自衛隊は違憲だと言って、これらを放置しているのは一種の自己欺瞞ではないか。自衛隊を法的に規制するためには、一歩踏み込み、自衛隊は違憲だが、手続き的には合法的に存在する実体である。そのことを直視して、民主的コントロールの枠をはめる必要がある。

 私は、小林教授の問題提起の魂は、「自衛隊違憲論」の活性化にあると見た。だから今も私たちを鼓舞し続けているのである。
 石橋委員長は間違いを犯したのか、それとも小林教授の問題提起を利用したに過ぎないのか、残念ながら、それは私にはわからない。        (了)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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