ツワネ原則にはこういうことまで書かれている

1 国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(「ツワネ原則」)は、安倍首相に、「民間の団体の作成したもの」の一言で切り捨てられてしまった。だが、彼は、ツワネ原則を全く読んでもおらず、その普遍妥当性を理解する資質に欠けていた。無知ほど、人を大胆にするものはない。

 ツワネ原則は、70カ国以上の500人を超える専門家との協議を経て、世界各国の22の組織ないしは学術センターによって起草され、オープン・ソサエティ・ジャスティス・イニシアティブ(アメリカのオープン・ソサエティ財団の一部門)の主宰のもとに、世界各地で行われた14回にわたる会議の議論、「言論と表現の自由に関する国連特別報告者」、「テロ対策と人権に関する国連特別報告者」、「表現の自由と情報へのアクセスに関する人及び人民に関するアフリカ委員会特別報告者」、「表現の自由に関する米州機構特別報告者」及び「メディアの自由に関する欧州安全保障協力機構(OSCE)代表」の意見に基づき、確定されたものである。

 ツワネ原則は、世界人権宣言、国際人権規約(自由権規約)、その他国連もしくは地域的国家連合、国際人権団体その他の国際団体どの人権に関わる取り決め、宣言、決議、採択された原則や提言に基づいて、しばしば対立する国家安全保障と国民の知る権利の調整及び情報の公開と非公開との適切な基準を設けるなどして、国家機関や市民団体などこれらの実務の携わる人びとに適切な指針を提供しようとするものである。

 ツワネ原則については、海渡雄一弁護士が、雑誌「世界」誌上で、詳細な紹介をされているので是非お読み頂きたい(2014年1月号「ツワネ原則は何を要請しているか」、同年2月号「もう隷従しないと決意せよ」)。

2 私は、ツワネ原則21に「遺失した情報を回復又は再構築する義務」として以下の2項目が定められていることに注目した。

(a)公的機関が、請求者に回答する情報の所在を示すことができず、かつその情報を含む記録が保管され、収集され、あるいは作られている筈である場合、当該公的機関は、請求者に対する開示を可能とするために、遺失した情報を回復又は再構築するための合理的な努力をしなければならない。

(b)公的機関の代表者は、その手順が司法の審理の対象となり得るような方法で、情報を回復又は再構築するために行われている手続のすべてを、誓約の上で、合理的かつ法で定められた時間内に示すことが義務付けられるべきである。

 要するに行政機関の長は、廃棄してしまった公文書でも、適正になされるためのルールに基づき回復又は再構築をしてでも、開示請求に対応しなければならないというのである。こういうことになれば、開示請求者が、ある公文書が過去の時点で存在したことを証明した場合、もしくは行政機関の長が、過去作成されたことを認めたものの廃棄して存在しないと弁明した場合、現時点では当該文書は存在しないので開示できないとの主張は認められないことになる。
 
3 そこで、西山太吉氏らが、1972年の沖縄返還で日米両政府が交わした「密約」文書の開示を求めた情報公開訴訟で、本年7月14日、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)が下した判決を見てみよう。

 判決は、「開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては、その取消を求める者が、当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負うものと解するのが相当である」との理由で、国の不開示決定を適法と判断した。
 しかし、当該文書は、1972年の沖縄返還当時には確かに作成され、外務省その他の政府機関が保管をしていたことまでは証明されている。そうすると上記のツワネ原則に従えば、外務省その他の政府機関は、当該文書が現在本当に存在しないならば「回復又は再構築」しなければならないことになるのだから、開示請求者側で、当該文書が現在も存在することを立証する必要などさらさらなく、裁判所は安心して開示請求を認容する判決をすればよいということなる。

 これは国民の常識にかなうであろうし、逆に上記最高裁判決は非常識といわざるを得ない。ツワネ原則には、こういうことまで書かれている。おおいに参考にしなければならない。  (了)

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政府・与党は「特定秘密保護法」を詐取したのではないか


 2000円の飲食をして5000円札を渡したところ、店の主人が、勘違いして8000円のおつりを差し出した。これ幸いとばかりに黙ってこれを受け取って店を出た。これは俗につり銭詐欺と称する事例で、詐欺罪が成立すると解するのが多数説である。客は、店の主人が1万円札を受け取ったと勘違いし、錯誤に陥っているが分かったのに、黙っていた。本当は、客は、そのことを告げ、店主の勘違いを正さなければならない。それをしなかったのは、不作為による偽罔行為であったと認められ、詐欺罪が成立するのである。
 もっとも客には店主の勘違いを正す義務はないとすると不作為による偽罔行為があったとは認められず、詐欺ではなく、占有離脱物横領に問われるに過ぎないと説く少数説もある。しかし、これは少し社会常識に反するように思われる。

 こんなくだらないことを書いたのは、政府・与党による特定秘密保護法(以下「本法」という。)の制定強行は、このつり銭詐欺に似た構造を持っているからだ。

 政府は、本法の法案策定過程を秘匿したまま、これを国会に提出し、情を通じた与党と一体になって、ろくろく審議時間もとらず、一瀉千里に本法を成立させてしまった。ところがその後、以下の事実が判明した。

 一つは、本年8月17日付「毎日新聞」が報じた本法案作成過程に関わる一連の公文書により判明した事実である。

 毎日新聞社は、情報公開法に基づき法案作成過程にかかわる行政文書の開示請求をして、大量の文書を入手した。それらの文書の中に、2011年10月にできあがった本法案素案に基づき内閣情報調査室が関係各省庁から意見聴取をした際のメモがある。内閣情報調査室は、内閣法制局からも4回にわたって意見聴取しており、「内閣法制局との検討メモ」なる文書が残っている。それらによると内閣法制局は、「立法事実が弱いように思われる。防衛秘密制度をもうけた後の漏えい事件が少なく、あっても起訴猶予のため、重罰化の論拠になりにくい」、(「ネットという新たな漏えい形態に対応する必要がある」と内閣情報調査室が食い下がったが)「ネット(経由の漏えいの危険)と重罰化のリンク(つながり)が弱いのではないか」と述べたのをはじめ、否定的意見、疑問などを多々提起していたのである。

 もう一つは、本年2月11日付及び同月25日付「赤旗」が報じた事実である。

 本法の基礎となったのは秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議が作成した報告書(2011年8月8日付「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」)である。その中には、罰則に関する基本的な考え方として「罰則を設けることにより、特別秘密を取り扱う者に緊張感を与え、その保全意識をより高める効果が期待できるものと考えられる」との記述及び秘密取扱業務に従事する者及び業務により秘密を知得した者の過失漏えい罪を処罰するべき旨の記述がある。これらの点について、同報告書案に対し意見を求められた法務省が異議を述べていたのである。これは同紙には、法務省が内閣情報調査室に提出した2011年6月20日付「秘密保全法制に係る有識者会議報告案について」外1点の文書のコピーが掲載されおり(残念ながら外1点の日付部分が欠落しているが、本文には2011年5月とある。)、それに明記されている。

 このように政府の法律顧問ともいうべき内閣法制局、及び法令の適用の現場を指揮する専門の行政機関である法務省から、異例ともいうべき否定的意見乃至疑問が、本法案作成過程において提起されていたことは、本法の成否を左右するまことに重要な事実である。

 政府・与党は、これらの重要な事実を国民に秘匿し、野党の追及を予防して、本法を掠め取ったといわれてもしようがないであろう。

 これは、おつりをちょろまかしたという、出来心のたぐいの「かわいらしい」話と比べて、レベルのちがう話ではなかろうか。私は、政府・与党のやったことは非道・悪質さにおいて、決して目をつむるわけにはいかないと思う。

 政府・与党は不作為による偽罔行為に基づき「特定秘密保護法」を詐取したのではないか。 (了)
プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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