トマ・ピケティ『21世紀の資本』から見たアベノミクス

 トマ・ピケティ『21世紀の資本』( みすず書房)がようやく発売された。英語で通読する気力もないので日本語版の発刊を待ちわびていたが、Amazonで注文したところ、年末ギリギリの配達になるようだ。今度の正月にゆっくり読むことにしよう。

 未だ本書を読んでもいないのに、本書のことを書くのはおこがましいが、アベノミクスに関して、本書は、格好の批判の視点を提供していると思われるので、敢えてかくことにした。できればおおめにみて頂きたい。

 本書については、既に新聞、雑誌等で書評や批評がなされているし、解説本も何冊か発刊されているようだ。たとえば、『世界』8月号には赤木昭夫「ピケティ・パニック 『21世紀の資本論は予告する』が掲載されており、『経済』1月号には高田太久吉「『21世紀の資本論』を読む」が掲載されている。いずれも簡にして要を得た批評である。

 本書は、題名から連想されるマルクスの『資本論』とは、理論的にも方法的にも無縁である。たとえば『資本論』が説く「利子率の低下」を結果的には誤りであり、むしろ「利子率の上昇ないし高止まり」傾向を指摘しているようだ。
 『資本論』は、利子とは、機能資本家が貨幣資本家に支払う利潤の分割部分であり、利子率は、長期的には利潤の大きさに規制されるので、資本の有機的構成が高度化して一般的利潤率が低下するのに伴い利子率は低下する傾向にあると説く。もっとも、本書には、資本と賃労働の階級関係も、剰余価値の概念も利潤率の概念もないので、「利子率の低下」とはマルクス的に理解されたものではないと考えられる。従って上記の記述は『資本論』との切り結びを意図したものではないであろうと思われる。

 上記各論文によると、本書は、1820年代からの膨大なデータを整理して、次のようにまとめているとのことである。

① 成長率が低く、資本収益率が高いという組み合わせは、富の分配の不公平をもたらす。過去を通覧すると、総じて資本収益率は4~6%のレンジで変動し、成長率は1~2%のレンジで変動してきた。まさにこの組み合わせで推移してきた。従って、富の分配の不公平は一貫して続いている。
② 1930年代~1940年代においては、先進国で軒並み貧富の格差縮小が進んだ。これは1930年代の世界恐慌と世界大戦による資産の著しい破壊と減少、戦時における所得税と相続税の大幅な増税と累進課税によってもたらされたものである。
③ 1980年代以後、金融の規制解除・自由化とグローバル化、資産課税と相続税・所得税の累進税率緩和によって、再び富の分配の不公正が進み、富の集中が生じている。

 その上で、本書は、資本主義の下では、政策的介入がなければ富の一極集中が必然的に進行するという命題を導き、そこから次のような提言をしているとのことである。

 20世紀の発明は社会民主主義と累進課税による富の再分配であったが、1980年以後それが覆されてしまった。21世紀の資本主義が貧富の格差拡大、不平等拡大の脅威を回避する唯一の文明的な政策は、相続税、贈与税、固定資産税を中心に累進課税制度を根本的に見直し、所得税の上限を現在の30%台からニューディールの時代の80%にすること、富裕税を実施することなどである。それには、タックスヘイブンや企業の生産拠点の海外流出などに配慮し、グローバルによく調整された世界共通の基準をもうける必要がある。

 私は、アベノミクス批判を、何回か当ブログで書いたので繰りかえさないが、本書の説くところも、期せずしてアベノミクス批判となっているようだ。

 アベノミクスは、富裕層・大企業への税を軽減する一方で、大衆課税である消費税増税を実行することを織り込んでいる。これは逆累進課税であり、富の不公平な分配を直接支えることになる。またアベノミクスは、株高を演出し、日銀の無際限な国債買い付けにより国債価格維持を維持することによって、経済の金融化・投機化、寄生構造の強化とカジノ化を推し進める。そのことは低い成長率のもとでも資本(資産)収益の増大を意図的に実現させるものであり、これは本書が指摘するとおり富の分配の不公平をもたらすことになる。

 アベノミクスは、まさしく究極の格差拡大策であり、富の集中、格差拡大、不平等をもたらす強者の、強者による、強者のための政策である。アベノミクスとは「別の道がある」。("Another World is Possible")。本書の提言もその一つである。(了)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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