尻尾が頭を振り回すようなことがあってはならない

 去る11月25日、「土井たか子さんお別れの会」において、河野洋平氏は、弔詞の中で、次のように述べた。

 「細川護煕さんと2人で最後に政治改革、選挙制度を右にするか、左にするか、決めようという会談の最中、議長公邸にあなたは呼ばれた。直接的な言葉ではなかったけれども、「ここで変なことをしてはいけない。この問題はできるだけ慎重にやらなくてはいけませんよ」と言われた。あなたが小選挙区に対して非常な警戒心を持たれていた。
 しかし、社会全体の動きはさまざまな議論をすべて飲み込んで、最終段階になだれ込んだ。私はその流れの中で小選挙区制を選択してしまった。今日の日本の政治、劣化が指摘される、あるいは信用ができるかできないかという議論まである。そうした一つの原因が小選挙区制にあるかもしれない。そう思った時に、私は議長公邸における土井さんのあの顔つき、あの言葉を忘れることができません。」

 1994年1月、当時、下野した自民党の総裁だった河野氏は、細川護煕首相とのトップ会談で衆院の小選挙区比例代表並立制の導入に断を下した。そのとき衆議院議長だった土井氏を議長公邸に訪ねた際に、慎重な検討を求められたにもかかわらず強行してしまったことについて、悔恨の思いを表明したのである。

 今回の衆院選において、自民党は、小選挙区において、得票率は48.10%、対有権者比の得票率(絶対得票率)はわずか25.32%に過ぎないのに、小選挙区総議席295のうち、223、比率にして75.59%も獲得している。
 小選挙区制は、このように民意とかけ離れた議席を多数党に与えてしまうのであり、不公正極まりないものといわねばならない。

 今回の総選挙の前評判は一強多弱であったから、有権者は、選挙をする前から結果を予測し、わざわざ投票所に足を運んでも大勢は動かないと達観し、投票しない傾向が表れる。そのことが、戦後最低だった前回2012年12月総選挙の投票率59.32%を大幅に更新し、わずか52.66%の低投票率をもたらした主たる要因であろう。
 小選挙区制は、このように有権者の選挙離れを促進し、民主主義を危殆に陥れる。

 さらに小選挙区制は膨大な死票を生み出し、死票にしかならない少数政党の支持者を選挙から放逐し、少数政党を淘汰してしまう。これもまた民主主義に危機をもたらす。選挙を通じて、自己実現をすることができなければ、少数政党は議会外の過激な大衆行動や場合によっては非合法活動に走ることになり、社会的緊張と不安が進行する。

 小選挙区制導入に決着したのは、1994年3月のことであった。前年11月に細川連立政権与党案が衆議院で可決されたものの、1994年1月に参議院で否決され、両院協議会にもつれこんだ。連立与党側にも自民党側にも多数の造反者が出た。結果は全く予測できない状況にあった。そこで細川、河野トップ会談により、連立与党案の修正合意を成立させ、両院協議会で可決、さらに衆参両院本会議で可決されるという顛末をたどったのであった。

 河野氏は、このときのトップ会談で合意をし、小選挙区制導入に道を開いてしまったことを、今、誤りであったと自己批判をしているのである。

 当時、小選挙区制推進派は、

 「中選挙区制は政策上の差異のない同一政党内の議員同士が相争うことになるため、政策の争いではなく地元への利益誘導合戦により選挙の勝利を得ようと図ることになってしまう」
 「一部の地元利益団体と繋がることによって多数の有権者の支持を得ずとも当選が可能となる」
 「小選挙区制を導入すれば各政党は一人の候補しかたてられず、他党候補者との政策の争いにすることができる」
 「投票者の半数近くの票を得なければ当選できないために、利益誘導ではなく、一般市民の利益を優先する争いになる」
 「政権交代が容易になる」

などと小選挙区制のメリットを強調した。

 野党である自民党は勿論、細川連立政権与党も、各党矛盾、対立をかかえながらも、大手マスコミ、一部政治学者らが一体となった政治改革(小選挙区制促進)キャンペーン、反対派には守旧派なるレッテルはりをして反対運動の足を鈍らせるなど、ありとあらゆる策動によって、小選挙区制は導入されてしまったのであった。

 さて今に立ち戻ろう。12月21日・日曜日の「朝日新聞」に、長谷部恭男早稲田大学教授(憲法学)と杉田敦法政大学教授(政治学)の対談が載っている。その中で、長谷部氏は次のように述べている。

 「有権者の思いとは関係なく、政権交代は必要です。自らの権威主義的な体制の方が効率的だとアピールする中国に対して、日本が『我々の政治システムの方が優れている』というためには、政権交代がないといけない。」

 そこで私は長谷部氏に問いたい。あなたは小選挙区制についてどう考えるのかと。長谷部氏の論は、政権交代が必須である⇒そのためには人為的にでも政権交代をもたらすシステムをつくらなければならない⇒小選挙区制は維持するべきだとつながっていくことになるからだ。

 政権交代を人為的に作り出す小選挙区制の破綻は明白である。民意を公正に反映する選挙制度への転換を急ぐべきだ。それでないとわが国の民主主義は死に至る。政権交代は、民主主義が生きて、機能している限り必ずできる。尻尾が頭をふりまわすようなことがあってはならないのだ。(了)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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