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ブログ再開 刑事司法改革案について

 普通の弁護士としての活動をリタイアした後の新たな弁護士活動のための拠点・「深草憲法問題研究室」開設作業やら、風邪と花粉症の合併症に悩まされるやらで、1ヶ月余り休業してしまいましたが、ブログを再開します。本来であれば「『集団的自衛権行使容認閣議決定』は立憲主義に反する その6」から始めるべきですが、少し肩慣らしで、まずは3月13日に閣議決定された「刑事司法改革案」に関するコメントを載せることにします。すでにツイッターでつぶやいたことに手を加えたものです。

 いわゆる取調べ可視化をめぐる刑事司法改革案が、この13日に、閣議決定されました。これによると取り調べを全面可視化する対象事件は、裁判員裁判対象事件を中心したもので、全刑事事件数のおよそ2~3%に過ぎません。その一方で、「司法取引」、「通信傍受(盗聴)対象事件の拡大」など捜査の便宜のための手段が格段に拡充されることになっています。

 2009年、大阪地検特捜部検は、証拠改ざんし、部下からの虚偽供述を取得して、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長・村木厚子氏に対する郵便法違反事件を捏造し、逮捕・起訴しました。このいまわしい一大冤罪事件の決着をまってスタートした刑事司法改革の動きは、本来、二度とこのような冤罪を生まないために全事件の取り調べ可視化を目的としたものでなければなりませんし、国民の多くもきっとそのことを期待したことでしょう。

 2010年11月、法務大臣の私的諮問機関として設置された「検察の在り方検討会」は、議論が拡散し、明確で具体的改善意見には至りませんでしたが、それでも翌年3月、「今後の方向性として、取調べの全過程についての録音・録画の実施をめざすべきであるとの意見も、多くの委員の支持を得た」とする提言書を発表しました。

 この提言書を受けて、2011年5月、当時の江田五月法務大臣は、「時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため、取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや、被疑者の取調べ状況を録音録画の方法により記録する制度の導入など、刑事の実体法及び手続法の整備の在り方」についての審議・答申を求め、法務省・法制審議会の下に「新時代の刑事司法特別部会」を新設しました。
 ここには映画「それでもボクはやってない」で名を馳せた映画監督の周防正行氏や郵便法違反事件の濡れ衣をかけられた冤罪被害者の村木厚子氏など異色の経歴をもつ人たちも委員に加えられ、新風を吹き込むことが期待されました。

 しかし法制審議会「新時代の刑事司法特別部会」の審議においては、すでに江田法務大臣のアジエェンダ・セッティングに孕まれた弱点が現実化し、検察、警察を母体とする委員ら及びそれと一体の刑事法学者専門家委員らから、全事件の取調べ可視化論に対する巻き返しが猛然となされました。そんな審議の雰囲気に押され、日弁連選出の委員は、なんとか可視化を一歩でも進めようとの守りの姿勢に転じ、新風を吹き込むことを期待された委員の意見は、専門家委員らの意見に押さえつけられてしまいました。

 法制審議会「新時代の刑事司法特別部会」の審議においては、はやばやと当初の冤罪を防止するために全事件の取調べを可視化するとの目的は投げ捨てられ、それを最小限度に止めつつ、そのわずかな譲歩の見返りに、効率的な捜査の武器をどれだけ獲得するかという逆立ちしたバーゲニングの場に堕してしまったのです。

 この13日に閣議決定された刑事司法改革案は、法制審議会「新時代の刑事司法特別部会」の答申を受けたものですが、そこにおいて導入することが決められた「司法取引」とは、有罪を認めることにより罪を軽くしてもらう米国型の「司法取引」とは全く異なります。正式名称も「捜査・公判協力型協議・合意制度」とされています。これは他人の犯罪に関して供述することにより当該人の免責、罪の軽減をするというものです。

 他人の犯罪に関して供述することにより不起訴、もしくは刑を軽くしてもらうということは、実は、現在もヤミ取引として行われています。これは3月5日に名古屋地裁で無罪判決が言い渡された岐阜県美濃加茂市長冤罪事件が記憶に新しいところですが、過去に幾多の冤罪事件を生み出しており、いわば冤罪の温床です。刑事司法改革案で示された司法取引は、これをヤミの世界から、表の世界に格上げしようと図るものです。

 日本版司法取引では、虚偽供述を防止するために、「虚偽供述罪」を新設することとしています。しかし、これはチャンチャラおかしいと言わねばなりません。冤罪事件の歴史をひもとくと、虚偽供述を強要し、冤罪を作り出してきたのは、警察・検察であったことを物語っています。「虚偽供述罪」をもうけて虚偽供述を防止するなどとよくもぬけぬけと言えたものです。その上、心ならずも虚偽供述させられたことを悔い改め、真実を語ることにより誤判・冤罪を止めようと思い立った者にとって、虚偽供述を告白することは自己の犯罪を認めることになってしまい、告白することさえ困難になります。警察・検察には、虚偽供述を強要し、それを強固に維持させる武器にさえなります。刑事司法改革案で導入するという「日本版司法取引」は「証言買収型司法取引」です。これは冤罪をこれまで以上に増加させることにつながります。

 さらに現行の通信傍受(盗聴)制度は、その対象事件が4類型にとどめられており、実際には捜査側にとって利用しにくいものとの不満があり、これまでもことあるごとにその拡大が画策されてきました。今回の刑事司法改革案では、これを一気に9類型追加することにしています。このことも黙過出来ない重大問題です。通信傍受(盗聴)は、市民生活の隅々にまで捜査の網の目をはりめぐらすもので、健全な市民社会を閉塞させます。特定秘密保護法、共謀罪、通信傍受(盗聴)は、自由社会を根底から覆す三種の神器です。刑事司法改革は、全事件の取調べ可視化による冤罪防止という本来の目的に立ち戻るべきです。

 なお、日弁連の対応は上記のとおりでしたが、内部には有力な反対・批判意見も存在しており、まずは通信傍受(盗聴)拡大反対の声が18単位会の会長声明の形で公然化するなど、これを克服しようという動きも始まっています。
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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