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「刑事司法改革法案」に異議あり (その1)


 本年3月13日、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下「刑事司法改革法案」といいます。)が閣議決定され、今国会に提出されました。その後、5月19日に、衆院本会議で趣旨説明と質疑が行われ、審議入りしています。
 刑事司法改革法案は、「戦争法案」の陰に隠れてあまり注目されてはいませんが、わが国の刑事司法に大きな歪をもたらし、ひいては国民の人権に重大な悪影響を及ぼす極めて問題の多い法案です。
 私たちは、もっとこの法案を知らなければなりません。そこで以下、何回かにわけて刑事司法改革法案をとりあげることにします。

 まずは刑事司法改革法案が今国会に提出されるに至った経緯を整理しておきたいと思います。

(発端について)

 2009年6月、大阪地方検察庁特捜部は、自称障害者団体「凛の会」による郵便不正事件(郵便の障害者割引制度の不正利用)に関連し、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長(当時)村木厚子氏を、虚偽有印公文書作成・行使罪の容疑で逮捕し、同年7月、大阪地方裁判所に起訴しました(以下「村木事件」といいます。)。
 村木氏は、同年11月24日、保釈決定により釈放されるまでの間、実に約5ヶ月にもわたって勾留により身柄拘束をされたまま公判に臨みました。
 村木事件の公判審理において、主任検事前田恒彦が村木氏の部下らから虚偽供述をさせていたばかりが重要な証拠を改ざんしていたことが判明、同事件は前田検事の見込みにあわせて捏造されたものであることが明らかになりました。また同検事による村木氏に対する強引で詐術的な取調べも暴露されています。
 翌2010年9月、大阪地方裁判所判決。当然のことながら、村木氏には無罪の言い渡しがなされました(検察側の上訴権放棄により確定)。この村木事件の決着とともに、最高検察庁は、前田検事を証拠隠滅容疑で逮捕、上司の大阪地方検察庁特捜部長と同副部長らも前田検事の証拠改ざんを知りながら隠ぺいしたとして犯人隠避容疑で逮捕、いずれも起訴しました。
 それだけにとどまらず関連事件の被告人の公判で、前田検事とともに郵便不正事件の捜査にあたっていた別の大阪地検特捜部検事が脅迫的取調べを行ったことが認定され、同検事取調べに係る被告人の供述調書12通の証拠取調べ請求が却下されるというおまけまでつきました。
 ごうごうたる検察非難の嵐。その嵐の中で、二度とこのようないまわしい事件を生まないようにするための試みが開始されたのです。

(「検察の在り方検討会」)

 2010年11月、上記の試みの第一歩として、法務大臣の私的諮問機関として「検察の在り方検討会」が設置されることになりました。検察の重大犯罪というあり得べからざる事態の中、急遽スタートした同検討会には、作家や評論家、ジャーナリスト、刑事弁護人として声望高い弁護士なども加わり、村木事件をはじめとする一連の郵便不正事件における検察の犯罪の再発防止だけではなく、氷見事件、足利事件、布川事件等の再審事件や踏み字をはじめ心理的圧力をかけて自白を強要した志布志事件など噴出した刑事司法の諸問題をも検討の俎上に乗せ、抜本的改善への提言がなされることが期待されました。

 これらの事件を通じて浮き彫りになってきた刑事司法の問題点は、なんと言っても密室における取調べ、とりわけ身柄拘束を伴う取調べによる自白、虚偽供述の強要であり、そうした取調べによって得られた供述調書に依存した公判の在り方であり、さらには検察による証拠隠しなどでした。従って、同検討会において議論、検討されるべき中心課題は、それらをいかに改めるかということでした。それはとりもなおさず、日弁連が長きにわたって提唱してきた取調べの全面可視化(全事件の取調べの全過程の録音・録画)、弁護人の取調べ立ち合い権の保障、調書裁判から公判中心主義への転換、捜査当局手持ちの証拠の全面開示などである筈でした。

 ところが同検討会では、検察関係、警察関係及び一部の学者委員らの消極的姿勢もあって、議論が拡散し、明確で確かな改革の方向性を打ち出すことは困難な状況に陥りました。
 それでも2011年3月に法務大臣に提出された提言書では、「捜査・公判の在り方については、被疑者の人権を保障し、虚偽の自白によるえん罪を防止する観点から、取調べの可視化を積極的に拡大するべきである」、「検察の在り方を考える過程で、捜査における供述調書を中心としてきたこれまでの刑事司法制度が抱える課題を見直し、制度的にも法律的にも解決するための本格的な検討の場が必要であるとの認識が生まれ、直ちに検討の場を設けて検討を開始するべきである。」などとする提言がなされました。

(「新時代の刑事司法特別部会」)

  「検察の在り方検討会」の提言を受けて、2011年5月、当時の江田五月法務大臣は、「時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため、取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや、被疑者の取調べ状況を録音録画の方法により記録する制度の導入など、刑事の実体法及び手続法の整備の在り方」についての審議・答申を求め、法務省・法制審議会の下に「新時代の刑事司法特別部会」(以下単に「特別部会」といいます。)を新設しました。

 特別部会には映画「それでもボクはやってない」で名を馳せた映画監督の周防正行氏や上記事件で濡れ衣をかけられた被害者の村木氏など異色の経歴をもつ人たちも非法律家有識者として委員に加えられ、新時代の刑事司法というにふさわしい刑事司法改革を実現するために新風を吹き込むことが期待されました。

 実際、その期待を担って、周防氏や村木氏ら有識者委員5名は、度々貴重な問題提起を行い、そもそもの原点から逸脱しがちな議論を、原点に回帰させるために、ときには共同で意見書を提出するなど重要な役割を果たし続けました。特に村木氏は、自己の経験に基づいて次のように語り、現在の取調べと公判の問題点を鋭く抉り出し、その改善を図るべきことを強調し、特別部会の審議に大きなインパクトを与えました。

・ 取調官は、被疑者が供述したとおりに供述調書に記載するわけではなく、取調官が想定した供述内容をもとに調書を作成する。
・ 内容虚偽の供述調書が大量に作成される。
・ 被疑者と取調官との間には圧倒的な力の差があり、一人で対峙するのは困難、である。
・ 現行の証拠開示制度は、検察、警察がどういう証拠を持っているか分からない中で証拠開示請求をしなければならず、被告人・弁護人にとって困難を強いるものである。
・ 身柄拘束が自白の強い誘因になるような運用が行われており、虚偽の供述、虚偽の自白の原因となっている。
・ 刑事訴訟法321条1項2号により、検察官の面前で作成された事件関係者の供述調書があるとき、その事件関係者が後に証人として公判に出廷し、供述調書で述べたことと異なる供述をしても(つまり被告人・弁護人側が検察官の立証を切り崩したときでも)、検察官が当該供述調書を証拠請求すると、簡単に採用されてしまう。これによっては公判での成果が打ち消されることになり、公判中心主義に適合しない。

                               (続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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