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緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(7)

平和主義と自衛権(その2)

自衛権前史

 第一次大戦前は、無差別戦争論(戦争の自由・同盟の自由)の時代であったから、本来、自衛権が国際社会において権利もしくは戦争の正当化理由として機能する余地すらなかった筈である。しかし、国際紛争と外交交渉の場で、自衛権が語られることはしばしばあった。いわば外交上の方便としての自衛権である。

 国際法学者によって、自衛権の問題として、語り伝えられるカロライン号事件は、そのようなものであった。

 カロライン号事件とは、概要以下のような事件であった。

 米国と英領カナダの境にあるナイアガラ川のカナダ領内にネイヴィ島という妙にキナ臭い名前の島があった。1837年当時、そこを拠点として、カナダの英国からの独立を目指す人々が武器をとって英国と戦っていた。その独立派の人々に対し、米国人所有の船カロライン号が、米国側とネイヴィ島との間を往復し、人員、武器、物資を輸送していた。英国は、かねて米国にその取り締まりを要求していたが、はかばかしい効果がない。そこでカナダ提督指揮下の英軍が、米国ニューヨーク州シュロッサー港に停泊中のカロライン号を急襲し、火を放った上、ナイアガラの滝から落下させてしまった。同年12月29日深夜の出来事である。

 当然、この事件は、英国と米国との間で、重要な外交案件となり、厳しい交渉が行われた。英国側は、いろいろな主張をしたが、その中には自衛権の主張もあった。そこで米国務長官ウェブスターは、駐米英国公使フォスターに宛てて書簡を送り、「英国政府は、差し迫って圧倒的な自衛の必要があり、手段の選択の余地がなく、熟慮時間もなかったことを示す必要がある」、「たとえ仮に米国領域への侵入がそのときの必要性よって容認されるとしても」、「非合理な、もしくは行き過ぎたことは一切行っていないことを示す必要があり、それは、自衛の必要によって正当化される行為が、かかる必要性によって限界づけられ、明白にその範囲内にとどまるものでなければならないからである」と反論、英国政府に、カロライン号急襲と米国領侵犯につき、自衛権の行使としての正当性の論証を求めた。

 カロライン号事件は、どう見ても現在の通念では、自衛権の行使と目されるような事案ではなく、英国の武力行使が自衛権として国際法に照らし正当なものかどうかが問われたわけではない。言ってみれば、外交上自衛権なる問題が取り上げられ、英国、米国の外交上の非難・応酬の対象となったに過ぎず、結局は、英国、米国とも、落としどころを得て、無事、落着をみた。

 しかし、上記ウェブスター書簡で述べられた「差し迫って圧倒的な自衛の必要があり、手段の選択の余地がなく、熟慮時間もなかったこと」という定式は、後に国際法上の自衛権が確立する時代において、国際法学者によって、ウェブスター・フォーミュラと命名され、自衛権の要件として注目されることとなる。

注:第一次大戦前、カロライン号事件と同様、自衛権が外交上の方便として主張された事例はほかにも以下のようなっものがあった。

①1807年・デンマーク艦隊事件(ナポレオン戦争に時代。トラファルガー沖海戦においてイギリス艦隊が、スペイン・フランス連合艦隊を打ち破ったのは1805年11月。その後、イギリスは、当時、イギリスに次ぐ艦隊を保有し、中立政策をとっていたデンマークに艦隊引き渡しを、強く要求した。デンマークはこれを拒否。イギリスは、デンマークに艦隊を派遣、コペンハーゲンを砲撃し、、実力によりデンマーク艦隊を接収。イギリスは、「危険は確実であり、切迫しており、極度のものであったから、緊急かつ重大な必要がある事態を形づくっており、ほかに取るべき手段を選択する余裕がなかった」と主張。
②1817年・アメリア島事件(アメリア島は現在の米国ジョージア州の南端を流れるSt.Mary川河の島。当時はスペイン領。この島を拠点に無法者集団がスペイン政府の討伐をかいくぐり、密輸や海賊など犯罪行為を繰り返していた。米側が、軍艦を派遣して鎮圧。米側は自衛として正当化。)
③1836年・米墨国境侵犯事件(メキシコ・インディアンの侵入に対し、米側がメキシコ内に軍隊を派遣・駐留させた事件。米側は自己保存原則・不変の自衛原則を主張)
④1873年・ヴァージニアス号事件(キューバ独立のための武装集団を支援して物資・人員の輸送活動をしていた米国船籍のヴァージニアス号をスペイン軍が公海上で拿捕。サンチャゴに引致して、米国人・英国人・キューバ人を軍法会議にかけて処刑。スペイン側は自衛行為と主張。)
⑤1886年~87年・ベーリング海オットセイ保護事件(1867年、ロシアからアラスカを譲り受けたアメリカは、ベーリング海海峡にオットセイの禁漁区を設定。これに立ち入り、操業したイギリス、カナダ漁船を拿捕。アメリカは、仲裁裁判において自衛権を主張。)

(続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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