公文書は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」

 4月24日付朝日新聞は、「公文書管理 抜け道を許さぬ見直しを」と題する社説を掲載しました。

 公文書管理法は2011年4月1日に施行された法律で、行政文書等の作成、整理、保存、保存期間満了後の措置、国立公文書館の設置・運用などを定める地味な法律です。森友学園への国有地売却に係る交渉記録や南スーダンPKO派遣部隊の業務日報の「廃棄」問題は、あまりにも人を喰った話ではありましたが、今、この地味な法律が脚光を浴びるに至っていることは、思わぬ余波でした。

 公文書管理法第1条は「国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定める」云々と定めています。

 同法第4条には行政機関が文書を作成しなければならないものとして5項目挙げられています。
 ①  法令の制定又は改廃及びその経緯
 ②  前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
 ③  複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対して示す基準の設定及びその経緯
 ④  個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯
 ⑤  職員の人事に関する事項

 そのほか、各行政機関の長は行政文書管理規則を設けること、これには作成に関する事項、整理に関する事項、保存に関する事項、行政文書ファイル管理簿に関する事項、移管又は廃棄に関する事項、管理状況の報告に関する事項等を記載すること、各行政機関の長は、上記行政文書管理規則に定める保存期間の満了時まで保存しなければならず、満了したら国立公文書館等に移管するか、又は廃棄しなければなりません。もっとも歴史的公文書として国立公文書館に移管されるべきものは保存期間満了前のできるだけ早い時期に定めなければならないことなどが定められています。

 社説では、上記の各文書が、廃棄されたことを既定の事実として、そのような事態が生じないような措置を公文書管理法に盛り込むことを提案しています。それは貴重な提案で、是非、実現させたいものと私も思います。

 しかし、上記各文書は廃棄されたとの言い分を、真に受けてしまっていいのでしょうか。

 森友学園国有地売却交渉記録は、上記第4条④にあたる、重要な文書です。それを簡単に廃棄してしまうことはまず考えられません。
 さらにこの売却は、代金10回分割払いですし、期間10年の買い戻し特約がついています。ですからこれはまだ生きている事案で、事案終了とはなっていないのです。財務省の説明は、売買契約を締結した2016年6月20日に事案は終了しており、そこから1年間経過したので同省の文書管理規則に従い廃棄したと言っているのですが、それは素人騙しの嘘です。

 行政機関が作成する文書の中には、上記第4条によって作成が義務付けられていないものがむしろ圧倒的に多いでしょう。それらの文書も、公文書管理法が各行政機関の長に対し制定を義務付けている「作成に関する事項、整理に関する事項、保存に関する事項、行政文書ファイル管理簿に関する事項、移管又は廃棄に関する事項、管理状況の報告に関する事項等」に関する行政文書管理規則の対象となることは言うまでもありません。南スーダンPKO業務日報もその類の公文書ですから、「防衛省行政文書管理規則に基づき「作成、整理、保存、行政文書ファイル管理、移管又は廃棄、管理状況の報告」がなされなければなりません。

 これについて、当初、防衛大臣は、情報開示請求に対し、不存在(廃棄)として不開示決定をしましたが、その後の追及に、なんだかんだといいわけしつつ、出してきたではありませんか。要するに廃棄したというのは嘘だったわけです。

 公文書は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」という上記第1条の趣旨に従い、国民が嘘や逃げ得を許さぬ努力を続けること、そのことがこの法律に生命力を吹き込むことになるのです。
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「国際的組織犯罪防止条約」を批准するにはいわゆる「共謀罪法案」を成立させることが必要不可欠か?(資料)

 いくつかの資料を参考までに掲げておきます。

1 TOC条約を所管する国連薬物・犯罪事務所(UNODC:United Nations Office on Drugs and Crime)の立法ガイド第51項

51. The Convention aims at meeting the need for a global response and at ensuring the effective criminalization of acts of participation in criminal groups. Article 5 of the Convention recognizes the two main approaches to such criminalization that are cited above as equivalent. The two alternative options of article 5, paragraph 1 (a) (i) and paragraph 1 (a) (ii) were thus created to reflect the fact that some countries have conspiracy laws, while others have criminal association (association de malfaiteurs) laws. The options allow for effective action against organized criminal groups, without requiring the introduction of either notion - conspiracy or criminal association - in States that do not have the relevant legal concept. Article 5 also covers persons who assist and facilitate serious offences committed by an organized criminal group in other ways.

(外務省仮訳)
51. 本条約は、世界的な対応の必要性を満たし、犯罪集団への参加の行為の効果的な犯罪化を確保することを目的としている。本条約第5条は、上記に同等のものとして引用されている犯罪化に対する2つの主要なアプローチを認めている。第5条1(a)(i)及び1(a)(ii)の2つの選択的なオプションは、このように、いくつかの国には共謀の法律があり、他方、他の国には犯罪の結社(犯罪者の結社)の法律があるという事実を反映して設けられたものである。これらのオプションは、関連する法的概念を有していない国において、共謀又は犯罪の結社の概念のいずれかについてはその概念の導入を求めなくとも、組織的な犯罪集団に対する効果的な措置をとることを可能とするものである。また、第5条は、他の方法により、組織的な犯罪集団によって行われた重大な犯罪をほう助し及び援助する者も対象としている。

 外務省仮訳は、ゴチックで下線を付した部分に問題があります。これは「これらのオプションは、関連する法的概念を有していない国において、共謀又は犯罪の結社のいずれの概概念の導入を求めなくとも、組織的な犯罪集団に対する効果的な措置をとることを可能とするものである。」と訳するのが正しく、外務省仮訳は、共謀罪もしくは参加罪のいずれかを導入することは必要だとのミスリーディングを意図したものです。

2 私は、「TOC条約は、マフィアなどや文字通り世界をまたにかけた犯罪組織、反社会集団の撲滅を目的とする条約です。ご承知のように、この分野では、わが国には暴対法が存在しています。」と述べましたが、この趣旨に関連する資料を次に掲げておきます。

① TOC条約(外務省仮訳からの抜粋)
第1条 目的
この条約の目的は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することにある。

第2条 用語
この条約の適用上、
(a)
「組織的な犯罪集団」とは、3人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在し、かつ、金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するものをいう。
(b)
「重大な犯罪」とは、長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう。
               (以下略)

第3条 適用範囲
1 この条約は、別段の定めがある場合を除くほか、次の犯罪であって、性質上国際的なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与するものの防止、捜査及び訴追について適用する。
    (以下略)

② 暴対法
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 暴力的不法行為等 別表に掲げる罪のうち国家公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為をいう。
二 暴力団 その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう。
三 指定暴力団 次条の規定により指定された暴力団をいう。
四 指定暴力団連合 第四条の規定により指定された暴力団をいう。
五 指定暴力団等 指定暴力団又は指定暴力団連合をいう。
六 暴力団員 暴力団の構成員をいう。
七 暴力的要求行為 第九条の規定に違反する行為をいう。
八 準暴力的要求行為 一の指定暴力団等の暴力団員以外の者が当該指定暴力団等又はその第九条に規定する系列上位指定暴力団等の威力を示して同条各号に掲げる行為をすることをいう。

 少なくとも国民の幸福と安全、国際社会の安全をまじめに願って国内措置を整備するというなら提出されているような法案ではなく、上記の如き、明確な定義規定をもうけるべきでしょう。

「国際的組織犯罪防止条約」を批准するにはいわゆる「共謀罪法案」を成立させることが必要不可欠か?

 いわゆる「共謀罪法案」について、2回にわたって私の考えるところを書いてきました。これに対し、匿名氏から①「共謀罪法案」ではなく、「テロ等準備罪」を創設する法案だ、②犯罪抑止のために「共謀罪法案」をもとに法律を制定するべきだ、③「国際的組織犯罪防止条約」(以下「TOC」条約といいます。)に加入できない状態は問題だ、とのコメントがありました。

 ①と②については、既に2回の拙文で、書いているので、これをよくお読みくださいというほかありません。それでもご納得頂けないときは、見解の相違ということにしておきましょう。

 そこで今回は③について、論じてみたいと思います。

 TOC条約は、2000年11月15日に国連総会で採択され、わが国も、同年12月12日に署名し、2003年5月14日には、国会で承認しています。ただ批准手続きが未了のため、わが国は、現時点では未加入ということになっています。

 さてこの点について、TOC条約第5条は、「締約国に対し、重大な犯罪(長期4年以上の罪)の共謀(共謀罪)又は組織的な犯罪集団の活動への参加(参加罪)の少なくとも一方を犯罪とすることを明確に義務付けています」と言うのが法務省の説明でした。このことを根拠にして、政府は、過去三度も廃案になった「共謀罪法案」を、化粧直しをして、また提出してきたのです。

 しかしながら、TOC条約第5条は、国連当局作成のTOC条約に係る「立法ガイド」第51項によれば、共謀罪や参加罪という犯罪概念を持たない国に、これを犯罪化する国内立法を義務づけているのではないと解されています。実際、既に批准した187に及ぶ国と地域のうち、新たに形式上共謀罪立法を行ったのは、ノルウェーとブルガリアだけですし、アメリカは、一部の州では極めて限定された共謀罪の法制しかないとの留保を付して批准しています。

 そもそもわが国には、刑法典に、殺人予備罪、放火予備罪、内乱予備陰謀罪、凶器準備集合罪などの定めがあるほか、爆発物取締罰則、破防法など各種の特別法で、予備、陰謀、独立教唆、独立ほう助、せんどうなど70を超える犯罪が定められており、それだけでも実質上、TOC条約第5条の要件をクリアできるのです。政府は、まさに「共謀罪法案」ありきで、あえて上記の如き口実を設けていると言わざるを得ません。

 なお、政府はテロ防止を「共謀罪法案」の金看板としていますが、それも、あやしい限りです。正真正銘のテロ対策のための国際条約は、「爆弾テロ防止条約」、「テロ資金供与防止条約」など5本の国連条約と8本の国際条約がありますが、わが国は、それら全て批准し、国内法の整備も行われています。それに対してTOC条約は、マフィアなどや文字通り世界をまたにかけた犯罪組織、反社会集団の撲滅を目的とする条約です。ご承知のように、この分野では、わが国には暴対法が存在しています。

 わが国の警察が、どれだけ違法、不当な捜査や情報収集活動をしているか、わが国の刑事手続きがdue process(適正手続き)からどれだけ乖離してしまっているか、日ごろの弁護士実務を通じて多くの弁護士は、苦渋を味わわされています。だから私たち弁護士は、「共謀罪法案」が成立してしまうと、恐るべき警察国家を招くことになると、強い危機感を持つのです。

続「共謀罪法案」

憲法31条は、次のように定めています。

何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

この規定は、due process(適正手続き)条項と呼ばれていますが、法律によって手続き的正義が保障されることだけではなく、いかなる行為が犯罪となるか、それに対していかなる刑罰が科されるのか、厳密、明確かつ適正に定めた法律によることなく刑罰を科されることはないという実体的正義も保障されることを意味しています。

後者は、罪刑法定主義と呼ばれ、近代刑法の根本原則とされています。

「共謀罪法案」は、計画と実行準備行為という空気のようにとらえどころのない行為に刑罰を科することとするものですから、罪刑法定主義に反し、ひいては憲法31条に違反するものと言わなければなりません。

さて、たとえば刑法199条では、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と定めています。これにより具体的客観的に犯罪内容とそれに対する刑罰が特定されているのです。少し難しい言葉を使うと、「人を殺す」という部分が犯罪構成要件と言い、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」がそれに科される法定刑です。

犯罪構成要件に該当する行為を実行行為と言います。人が、実行行為に着手し、犯罪構成要件に係る結果が生じた場合、犯罪が成立し、法定刑に基づいて処罰されることになるのです。

実行行為に着手したが結果が生じるに至らなかった場合を未遂と言うのだということはよくご存知でしょう。刑法44条で「未遂を罰する場合は、各本条で定める。」とされ、同じく43条で「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合は、その刑を減軽する。」と定められています。つまり結果が生じた場合、つまり既遂の場合に処罰することとし、未遂の場合には、個別にそのことを定めた場合にのみ、処罰するということになっているのです。これが刑法典総則に定める原則です。

ですから実行行為に着手する前の段階についても刑罰の対象とするということはさらにさらに例外でなければなりません。ところが「共謀罪法案」では、277にも及ぶ犯罪の計画と実行準備行為(「共謀」に限りなく近い)を刑罰の対象とするわけですから、刑法典総則を書き換えてしまうに等しく、いわば刑法典の破壊と言ってもいいでしょう。

近代市民社会では、刑法典は、善良な市民のマグナ・カルタであると同時に犯罪者のマグナ・カルタでもあります。それを破壊することは野蛮です。

いわゆる「共謀罪」法案

政府が今国会に提出したいわゆる「共謀罪法案」が、本日、衆議院で実質審議入りしました。

世論調査では、賛否相半ばしているようですが、過去三度廃案になっていることを考えると、今回は、対象犯罪を絞ったとか、一般人は対象とならないとか、「計画」、「実行準備行為」を書きこんだとか、という政府の宣伝が奏功しているように思います。

私の意見は以下のとおりです。

いわゆる「共謀罪」法案とは、既存の「組織的犯罪処罰法」に、第6条の2を追加するという法案です。

その第6条の2は、別表に掲げる277にも及ぶ多くの犯罪について、(1)テロリズムその他の組織犯罪集団の活動として(1項)、もしくは(2)その組織の不正の利益確保等の目的で(第2項)、これらの犯罪の遂行を「共謀」した者を処罰する、としています。

政府は、①これらの犯罪の遂行を計画し、その実行準備行為が行われることを要件と定めており、共謀だけで処罰するのではない、とか、②テロリズムその他の組織的犯罪集団の活動として遂行される場合に限定しており、一般の国民は対象とはならない、などと説明しています。

しかし、これは額面通り受け取ることはできません。

上記①について言えば、計画も実行準備行為も厳密に定義できない漠然とした概念であり、空気のごとく拡散し、実際には合意即ち共謀が処罰されることとニアリィ・イコールになってしまいます。
また上記②の組織犯罪集団なるものも、同様で、どんどん拡張されていくことになりそうですし、第2項は組織的犯罪集団外の者へも網を広げることが予定されていますから、一般の国民も対象とされることになってしまいます。

いわゆる「共謀罪」法案は、具体的法益の侵害や犯罪の実行行為のはるか前の合意即ち共謀を、広く処罰することにより、刑罰のダンピングと国民の日常生活を常時監視下に置く警察国家というありがたくない結果を招くことになると思います。
プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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