日米安全保障条約と集団的自衛権 (2)

安倍首相は、尖閣諸島で中国と武力衝突に至ったとき、安保条約第5条1項に基づき、米軍が馳せ参じ、ともに戦ってくれる、だからわが国も集団的自衛権を行使できるようにし、米国領土や米軍が攻撃された場合に自衛隊が馳せ参じて米軍とともに戦えるようにするべきだと、うるわしき友情物語を国民に語りかけた。

しかし、この友情物語には、二つの重要なことがらの切捨てと一つの意図的なごまかしがある。

切り捨てたことがらの一つ目は、尖閣諸島の危機については外交不在となってしまっていること。

そもそも尖閣諸島の現在の如き対立が、2010年9月の尖閣沖漁船衝突事件以来、日中双方それぞれが一方的かつ独断的な主張と行動を繰り返し、対立のための対立に終始してしまっている。しかし、外交とは、お互いをサンドバッグにしてたたきあうことではない。どのようにすればウィン・ウィンの結果を得ることができるか知恵と工夫を出し合わなければならない。しかるに第二次安倍政権発足後、中国側政府・軍高官からは「棚上げ論」への復帰論が幾度も非公式に表明されたにもかかわらず、わが国は、完全にシャットアウト、ただひたすら「わが国固有の領土論」を教条的に繰り返し、中国を避難するばかりの対応を続けている。わが国は外交を前面にたて、尖閣諸島に安定をもたらすための努力を放棄し、いきなり武力衝突の事態に話を飛躍させているのである。

切り捨てたことがらの二つ目は、友情物語によって犠牲にさらされるのは誰かということ。

この友情物語のアクターが、安倍首相ご自身であって、自ら武器をとり米軍支援に馳せ参じるというなら、それはドン・キホーテにみまがう騎士道精神の精華として永く歴史に名をとどめるであろうが、実際にアクターとなって血の犠牲を強いられるのは現場の若い自衛隊員たちであることを忘れてはならない。
さらには米軍支援の代償にわが国土が攻撃されて阿鼻叫喚の惨状が現出され、国民がその犠牲を強いられるおそれがあるということも忘れてはならない。

さて意図的なごまかしとは何か。それは、尖閣諸島で武力衝突が発生した場合に、米軍が支援に駆けつけてくれるということは、少なくとも安倍首相のように断言できることではないということである。

安保条約第5条1項をもう一度見てみよう。

「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」

ご覧のように米国は、「自国の憲法上の規定及び手続に従って」対処するとされている。では合衆国憲法は戦争や武力行使についてどう定めているだろうか。

まず合衆国憲法第1条「合衆国議会」第8節第11項は、次のように定めている。

「戦争を宣言し、拿捕及び報復の特許状を発し、陸上及び海上の捕獲に関する規則を定めること。」

次に合衆国憲法第2条「合衆国大統領」第2節第1項は、次のように定めている。

「大統領は、合衆国の陸軍及び海軍及び合衆国の兵役のため現に招請された各州の民兵の最高司令官である。」

これらの規定によると、宣戦を宣言して戦争に入るのは議会の権限であるが、戦争を宣言しないで軍を動員し、武力行使をするのは軍の最高司令官としての大統領の権限である。だから、尖閣諸島で武力衝突した場合、大統領は、議会の決議なしに米軍を動員できそうである。現に、米国史上、米国は多数回に及ぶ戦争をしてきたが、戦争宣言をして戦争に入ったのは6回だけ、それ以外は戦争宣言をしていない。あのベトナム戦争も朝鮮戦争も、戦争宣言なし、大統領権限で軍を動員している。
しかし、1973年11月、泥沼化したベトナム戦争の反省に立ち、議会の監視機能を強化することを目的として、「戦争権限法」が成立した。 「戦争権限法」は、第一に、大統領は可能な限り議会と事前に協議すること、第二に、宣戦布告なく軍隊を投入する場合、大統領は48時間以内に議会に軍隊の投入を必要とする状況、投入の根拠となる法的権限、投入される軍隊の規模について報告書を提出しなくてはならない、第三に、報告書が提出されてから60日以内に、議会の承認がない限り、原則として軍隊を撤収しなくてはならない、第四に、上下両院が共同決議を採択すれば大統領は撤収を命じなくてはならない、などである。

そこで、現実には、大統領は、近時の湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争では、全て事前に議会の同意を求めて、攻撃開始をしている。また昨年8月末から9月上旬におけるシリア攻撃必至という状況下において、オバマ大統領は、議会の同意を得ることが難しい状況に直面するや、一転して武力攻撃を断念するに至ったのも、記憶に新しいことである。

さて、米国は、中国との経済的関係の緊密度を強めており、軍事面での一定の緊張関係を孕みつつも、安定した関係が継続することを求めている。その立場から安倍政権の中国敵視策、歴史修正主義への批判をしている。そのような状況にある米国が、尖閣諸島で日中武力衝突の事態が発生した場合、大統領が米軍に単独で出動を命じることはないであろうし、議会も同意を求められれば反対する可能性が高い。これが現在の冷厳たる事実であり、この点について、安倍首相は意図的なごまかしをしているのである。

安倍首相の語る友情物語に、これら二つの切り捨てられたことがらを補い、一つの重要なごまかしを正してみたとき、それは、国民を集団的自衛権行使容認と戦争に引きずり込むための詐術であることが明らかとなる。

安倍さん、あなたの手口と魂胆は明らかとなった。いさぎよく矛をおさめたらどうか。

                    (続く)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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