故高坂正堯氏の至極まっとうな話

保守派の論客・国際政治学者の故高坂正堯氏の「海洋国家日本の構想」(中公クラシックス。以下「本書」という。)を読んだ。本書には1963年から1964年にかけて「中央公論」や「自由」に発表された7篇の論文が収録されているが、最も読み応えがあるのは、本のタイトルもなった「海洋国家日本の構想」(以下「本論文」という。)である。

本書は、1965年3月1日付あとがきと、1969年8月10日付増補版あとがきが付されている.。凡例によると1965年3月初版本、1969年8月増補版本として中央公論社から発行された同名の論文集を、2008年1月に、中公クラシックス(J35)におさめ、再発行したものだとわかる。

本書には初出一覧表がないので正確には言えないが、本論文は、中国核実験後(1964年10月16日)1964年11月、12月あたりに「中央公論」誌上に発表されたものであろう。学術的価値のある論文集であるから、出版社である中央公論新社には、初出一覧表を付するくらいの配慮をして欲しいものだ。

さて私は、本論文にいたく感動した。

日本のおかれた国際政治的位置の意味づけをすることにより、国民的目標がはじめて定まる。日本は、この100年間(1964年の時点で)、アジアを出て西洋大国に伍し、アジアにおいては先進国として突出していた。その様は、極東に位置するのではなく極西に位置すると言い方がピッタリする。また日本は、地理的にいうと、アジアの大国・中国にへばりついてはおらず、南シナ海と玄海灘をはさみ、東洋の奥座敷であり、西洋との関係でも「極西」であるばかりではなく、「飛び離れた西」に位置している。しかも日本は四囲を海に囲まれている。

戦後日本は、アメリカの軍事力を盾とし、アメリカから再軍備要求に譲歩しつつも軽軍備でお茶をにごし、ひたすら経済的合理主義に徹してきた。これは、第一に、核兵器の出現によって軍事力がその具体的有効性と倫理的正当性を失い始めたこと、第二に、アメリカの軍事力の傘に入っている以上は日本が独自に軍事努力をする必要もなければ意味もなかったこと、これら二点から、日本の姿勢は、戦略理論的に考えても妥当であった。

しかし、これは同時に、対米従属として誰もが知っている状態を作り出している。経済優先主義と内政中心主義は、ともに日本が防衛と外交については、アメリカに依存することを前提として成り立つものだからである。「臆病な巨人」あるいは「魂を失った日本の繁栄」などと海外のジャーナリストや国際政治研究者から揶揄される由縁である。

ところでイギリスの歴史を振り返ってみよう。イギリスも、四囲を海に囲まれ、ヨーロッパ大陸からは離れて存在する地理的位置関係にある。だが16世紀初めには、ヨーロッパ大陸縁辺に横たわる小さな島国に過ぎなかった。その文明はおくれており、政治・経済・軍事的に二、三流の国家に過ぎなかった。そこにヘンリー7世、8世及びエリザベス1世が輩出し、その地理的特性をふまえ、ヨーロッパから飛び出し、世界に目を向けた対外積極策を進めた。こうしてイギリスは、17世紀、海洋国家として著しい成功をおさめ始め、19世紀には海の女王としての地位を不動のものとし、政治的、経済的、軍事的繁栄をほしいままにしたのであった。

そこで日本は、前述の特性から、海洋国家への道を構想するべきである。

そのためには何よりも視野の広さを回復しなければならない。そこで、安全保障の問題については、防衛力完全主義と防衛力抑制完全主義のいずれの完全主義も排除するべきである。またアメリカとの関係は、軍事的結びつきを今より大幅に弱めながら、一定限度の結びつきを維持することにより、相手の意図を動かす外交能力を取り戻すことが望ましい。

具体的には日本独自の軍備については

1 現在保有している程度のかなり強力な空軍を持つ
2 陸軍については、強力な師団は二個師程度にとどめ、それは国連軍に転用するものとする。
3 海軍については、日本の周囲の海において行われる可能性のあるゲリラ活動を鎮圧しうる程度のものでよい。

アメリカとの関係については

1 日本本土の米軍基地はすべて引き揚げてもらう。
2 海軍基地は必要であるがそれは日本本土に置く必要がなく、またそうでないほうが
よい。
3 日米条約は安保条約のようなものではなく、ソ連とフィンランドの条約、即ちソ連はフィンランドの中立を認めてその地位を保障する、必要に応じて軍事協議を行う、を参考にするべきである。

政府は、低開発国の開発(①低開発国への援助政策を作り、それを貿易政策とつなげること、②日本としては、低開発諸国の援助を地域的な関係に持っていくこと、③その中心として技術援助を重視し、分野としては日本ではこれ以上発達の余地のない漁業、土木建設業、農業などを中心とすること)と海の開発の二つの方面における開発を中心として動くべきである。

1964年時点の提言であるが、柔軟であり、目から鱗ともいうべきものがある。今の安倍首相やそのブレーンに是非一読をすすめたい。そうすれば集団的自衛権狂騒劇はたちどころに幕となるだろう。もっとも彼らに理解力と心の余裕があればの話ではあるが。

(高坂氏は、その後、1983年に設置された中曽根康弘首相の私的諮問機関「平和問題研究会」で座長を務め、防衛費1%枠見直しと当時の防衛力整備の理論的根拠とされていた基盤的防衛力の見直しの提言をとりまとめたが、はたして上述した若き高坂氏の提言とご自分の中でどのように折り合いをつけたのであろうか。興味あるところである。)

                                  (了)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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