加藤周一・樋口陽一「時代を読む『民族』『人権』再考」(岩波現代文庫)から

 標記の本(以下「本書」という。)は、評論家・故加藤周一氏と憲法学の泰斗・樋口陽一氏が、1996年の夏から秋にかけて3回にわけて行った対談の記録である。
 あの15年戦争の終わりをどのように受け止めたかという個人的な回想から始まり、敗戦の受け止め方と日本国憲法受容の姿勢の相関性、押し付け憲法論の不毛性、戦後改革の意義、人権、改憲論と解釈改憲への反駁、国家、民族、核廃絶、国民主権と国家主権の問題、戦争、ナショナリズム、いわゆる「近代の超克」批判と近代合理主義の擁護、9条を持つ国と「普通の国」、「9条は真の近代の超克」など話は縦横無尽、お二人の深い学識と鋭くかつ柔軟な考察に引き込まれ、時間を忘れて一気に読み終えてしまった。

 本書は、是非、多くの人に読んで頂きたい本である。

 本書中で、今の集団的安全保障措置等における武力行使容認の議論に真正面から対抗する考えが示されている。おもしろいやりとりだから、以下に紹介しておくこととする。

加藤 (9条1項の「国際紛争を解決する手段として」と同条2項「前項の目的を達するため」を連結する読みにより自衛のための戦力は保持できるとの見解をあげて)それはこじつけ解釈だと思うけど、とにかく理屈はこじつけられている。ところが最近のように世界の平和を維持するために軍隊を派遣するとか協力するということになると、話はまったく違ってくる。世界の平和を維持するために軍事力が必要だというのは、もちろん国際紛争があるからでしょう。国際紛争がなければ行動しなくてよいわけだから、平和を守るということは紛争があるということだ。その国際紛争を解決するための戦力は、どうこじつけても、第9条に違反するでしょう。(以下略)

樋口 大変法律的で説得力のある議論ですが、それに対しては再び三百代言で押し返す議論が出てくると思う。というのは、こういう議論です。---国際紛争のために軍隊を使っちゃいけない、そもそも持ってはいけないというその国際紛争とは、日本が当事者である国際紛争なのだ。主権国家の憲法というのは自分の国のことを基準にして書いている。だから、第9条は、日本が国際紛争の当事者となった場合に軍隊を使ってはいけないし、またそのための軍隊を持ってはいけない、ということになる。---(以下略)。

加藤 そうすると、第9条第1項にある国際紛争というのは、日本が当事者である国際紛争と解釈するわけですね。

樋口 よそで難癖つけられて困っている人を助けにいくのは、この第9条の問題ではないというわけです。

加藤 しかし、そうすると・・・。

樋口 大変なことになります。

加藤 そういうことになると、たとえば第一次大戦が起こったのは、サラエヴォでオーストリアの皇太子が殺されたからだった。殺したのはセルビア人だ。だからイギリスは当事者ではなかった。フランスもロシアも関係なかった。ドイツさえも関係なかった。しかるに、オーストリアの戦争に英仏独露その他の国が参戦し、大戦が始まってしまう。たいていの宣戦布告は、そういう当事者でない紛争の介入から始まりますね。
 第二次大戦はヒトラーがポーランドに侵攻して英仏が参戦した。英仏はポーランドと同盟があるから宣戦布告したわけだけど、いずれにしてもイギリスやフランスが紛争の当事国ではなかった。
 国際紛争の当事国でない場合には介入するのだということになると大変だ。第一次大戦、第二次大戦をはじめ、だいたい20世紀の戦争は、むしろ国際紛争の当事国でない国が宣戦している。

(以下略)

一方、安保法制懇報告書は、以下のように述べている(要約、下線、太字は私)。

① 9条1項は、わが国が当事国である国際紛争の解決のために武力による威嚇又は武力行使を行うことを禁止したものと解すべきであり、(個別的であれ、集団的であれ)自衛のための武力行使は禁じておらず、また国連PKO等や集団的安全保障措置への参加といった国際法上合法的な活動への制約もしていないと解すべきである。
② 9条2項は、わが国が当事国である国際紛争の解決のための武力による威嚇又は武力の行使に用いる戦力の保持を禁止しているが、それ以外に、個別的又は集団的を問わず自衛のための実力保持や国際貢献のための実力保持は禁止していないと解すべきである。

 自民党が20日、与党協議会で提示したという侵略をした国などを制裁する集団安全保障の際、自衛隊が武力を使えるようにするとの案は、安保法制懇報告書の当該部分に依拠している。

 加藤、樋口対談での上記のやりとりは、安保法制懇報告書の上記部分を直撃する(とくに下線を付した太字部分)。自民党も北岡伸一氏も安倍首相も、これに反論することはできないだろう。なにせ、あなた方は憲法論ではなく、近視眼的な政策論を述べているだけだから。
                             (了)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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