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イデオロギーの虜囚

イデオロギーの虜囚

――リットン調査団が日本を訪れていた32年3月、大阪商業会議所は次のような覚書を調査団に手渡していた。いわく、「満州の変乱を惹起せるは(中略)支那が条約により日本に認められたる権利を尊重せず、日本をして其の権利を確保する為、正当防衛の行動に出づるの外なからしめた」。
 この覚書はリットン報告書の附属書にも採録されている。附属書は、日本政府や商工業者が、①中国による日本製品ボイコット(日貨排斥)を、武力によらざる敵対行為であるとして、不戦条約(政策遂行のための戦争を不可とする)に違反すると認識していること、②日本こそ復仇行為をとってよいはずだと「純真に」信じていること状況などについて報じ、リットン報告書の第7章ではさらに明快に、調査の過程で日本の商工業者などがボイコットを「侵略行為と為し、之が報復として日本が軍事行動をとりたるなりと主張」した事実を記していた。――加藤陽子『満州事変から日中戦争へ』シリーズ日本近現代史⑤(岩波新書)から

 満州事変について、当時の日本政府や商工業者(つまり産業界)が中国側の日貨排斥(日本製品ボイコット)は日本に対する戦争行為、侵略行為だから、これに対する正当防衛だと主張され、正当化がなされていたのである。

 現代のわが国で、こんなことを言う人がおれば、それは正真正銘の右翼、ネトウヨだ。

 ところがである。ウクライナ侵略戦争では、左翼やリベラルの一部の人士が、やれウクライナのネオナチだの、やれロシア系住民への迫害だの、やれドンバス2州での大量殺害だの、あるいはやれアメリカ・NATOによるロシアへの挑発だの、ロシア・プーチンの言い分をオーム返しにして、ロシアの侵略、殺戮と破壊に対して戦うウクライナ政府とウクライナ人民を非難している。だが、こういうロシア・プーチンの言い分は満州事変に対する当時の日本政府や産業界の言い分と同じではないか。

 ロシア・プーチンの言い分が侵略の口実に過ぎないことを見抜けず、こういうふうなことを平気で公言している左翼やリベラルの一部の人士の意識の深層には、アメリカがとにかく世界の悪の根源だという思考が、濃淡はあれ、こびりついているから、ロシアに肩入れしたくなり、こんなばかげた主張をしてしまうことになる。

 かくして事実と道理に基づかないイデオロギー過剰の人士は、右翼であろうが左翼であろうが同じ言動をするということになる。彼らはイデオロギーの虜囚なのだ。(了)
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深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2018年1月、弁護士リタイア。41年間の弁護士生活にピリオドを打ちました。深草憲法問題研究室
‶これからも社会正義の話を続けよう”

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