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国際法事始め その2

 前回、一般国際法上の自衛権と国連憲章51条による自衛権ということを書いたが、もう少しこれにこだわってみたい。

 戦争は、歴史上長らく各主権国家の自由に属することであった。もっとも交戦国の戦闘方法、使用禁止武器、捕虜の取り扱い及び敗戦国に対する処置などを規律し、中立国の守るべき義務が、国際条約で成文化され、総じて野蛮・残虐を排し、文明と人道重視の方向に少し進んできた。とりわけ1899年と1907年の2回にわたるハーグ平和会議は、この面での金字塔を打ち立てたと言ってよい。

 さらに1907年のハーグ平和会議は、人類がはじめて戦争を制限する一歩を踏み出した点でも特筆される。それは、「契約上の債務回収のためにする兵力使用の制限に関する条約」を成立させたことである。この条約は、従来、外国に借款を与えている者の本国がその債権回収に関する要求を取り上げて当該外国に戦争を起こすことが認められていたが、そのような戦争及び兵力の使用を禁じたのである。

 ヨーロッパを席巻した30年に及ぶ宗教戦争が終結し、戦後秩序を取り決めたウエストファリア条約が成立したのが1648年。これによって近代国際法の幕が開いたと言われていることは周知のとおりである。人類は、それ以来、実に250年余りの長い道のりを経て、ようやく戦争を禁止する現代国際法へと足を踏み出したのであった。

 一般国際法上の自衛権の嚆矢となったのは1837年のカロライン号事件である。当時、英領カナダ領内のネイヴィ島を拠点として、カナダの独立を目指す独立派が武器をとって英国と戦っていた。その独立派に対し、米国人所有の船カロライン号が、米国とネイヴィ島との間を往復し、人員、武器、物資を輸送していた。英国は、米国に取り締まりを要求したが、はかばかしい効果がない。そこで英軍は、米国ニューヨーク州シュロッサーに停泊中のカロライン号を急襲し、火を放った上、ナイアガラの滝から落下させてしまった。
 当然、英国と米国との間で、緊急の外交案件となり、厳しい交渉が行われた。その過程で、米国務長官ウェブスターは、英国政府に宛てた書簡で「英国政府は、差し迫って圧倒的な自衛の必要があり、手段の選択の余地がなく、熟慮時間もなかったことを示す必要がある」、「たとえ仮に米国領域への侵入がそのときの必要性よって容認されるとしても」、「非合理な、もしくは行き過ぎたことは一切行っていないことを示す必要があり、それは、自衛の必要によって正当化される行為が、かかる必要性によって限界づけられ、明白にその範囲内にとどまるものでなければならないからである」と主張し、英国政府に、カロライン号急襲と米国領侵犯につき、自衛権の行使としての正当性の論証を求めた。
 ウェブスターの主張は、自衛権の行使として正当性を認められるためには、①急迫不正の侵害の存在、②他に取り得る方法がないこと(必要性)、③必要最小限度の範囲にとどまる措置であること(均衡性)の3点に集約・整理することができ、爾来、ウェブスター・フォーミュラとして、自衛権の定義、自衛権行使の要件として定着することになる。

 もっとも当時は、上述のとおり、戦争自由の時代であり、自衛権なるものは、特定国間の外交問題を解決するためにその行使として正当化されることを論証される必要はあったが、国際法上の重要課題になることはなかった。それが国際法上の重要課題としてクローズアップされるのは、1919年・国際連盟の設立、1928年・不戦条約成立後のことである。この時代に、諸国政府と国際組織のプラクティス及び国際法学において、あらためてウェブスター・フォーミュラが自覚的に取り上げられ、より精緻な検討が行われた上で、一般国際法上の自衛権概念、定義、要件として確立をみたのである。

 従って、国連憲章51条は、当然のことながら一般国際法上の自衛権を前提とした規定であり、なにもない白紙の状態でひねり出し、取り決められたのではない。このことは、私の立場からは非常に重要な意味を持つのである。
次回に、国連憲章51条の制定経緯を見ながらそのあたりのことを論じ、その意味、内容を検討してみようと思う。

                         (続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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