朝日新聞/本当に誤報なのか

 朝日新聞は、誤報問題に関して、社長自ら謝罪会見をし、編集・報道幹部の解任、更迭人事を行った。しかし、産経新聞や読売新聞、さらには週刊誌による朝日新聞バッシングは一向におさまる気配がない。自民党や維新の一部議員などもこれに唱和している。
 現場では、新聞販売店の人たちまでも、読者からの「お叱り」を受けて平身低頭の体で、気の毒なほど身を小さくしている。
 朝日新聞社内で、社長引責辞任にともない関係記者らに対する処分の追い討ちがかけられたりしないか心配でもある。もしそんなことにでもなれば、取材と報道現場に自重、自粛、自己規制が浸透し、一層、朝日新聞への信頼を失うことになるだろう。決してそのようなことが起こらないことを祈るばかりだ。

 ところで吉田調書問題。26日には、弁護士グループが、朝日新聞本社と同社の第三者機関「報道と人権委員会」に不当な処分がなされてはならないことを申し入れた。「命令違反で撤退したかどうかは解釈、評価の問題」で、記事の内容は調書の記載と「外形的事実において大枠で一致している」と。

 私も、11年3月15日の状況を復習してみた。

 同月12日15時36分、1号機建屋で水素爆発発生、14日11時01分、3号機建屋で水素爆発発生、15日6時00分、2号機で爆発音、4号機建屋で水素爆発発生。その後6時50分には、正門付近で線量583μSV/hを測定。
 同日7時00分、作業・監視要員を除き、福島第2原発へ一時退避することを官庁等へ連絡。
(以上木村英昭『官邸の100時間』岩波書店2012年8月7日発行より)

 こういう流れをふまえて、吉田調書を読むと、上記の、15日7時00分福島第2原発への一時退避なる官庁等への通知は偽りの通知であったことになる。吉田調書にあるように、所長の指示は、福島第1原発近辺で退避ということだったのだ。朝日新聞の記事が、命令に反して第2原発に退避したと評価したのは、おそらくこの官庁などへの通知が偽りであったことを鮮明にしたかったのであろう。これを誤報だというのは、一方的な決めつけのように思われる。

 そもそも吉田所長が、政府事故調の調査段階で、伝言ゲームでうまく伝わらなかった」とか、「よく考えれば2Fに行った方がずっとよかった」と供述したのは、対外的には福島第2原発への退避なる通知がなされていたことや部下への配慮などのバイアスがかかった「現実追随」もしくは「言葉の綾」とも考えられる。

 朝日新聞の記事は、突っ込み不足の感はあるが、これをもって朝日新聞バッシングの材料とするのは、あまりにも目くそを笑う類のことのように思われる。吉田所長も、自分の調書がこんなことに使われているのを決して喜ばないだろう。彼の調書は、東日本が吹っ飛ぶとまで考えられた凄まじい事故状況、何の手がかりもない状態での死を覚悟した現場の苦闘、コントロールすることが不可能な過酷事故の実情、政府、東電幹部の無為無策ぶりを読み取り、原発再稼働、原発をベースロード電源と位置づけている現政府を批判する資料として読み込んで欲しいと言っているように私には思える。

 ややこしいがもう一人の吉田氏、吉田清治氏の虚偽証言問題は、私は、慰安婦問題の争点からはずれたもので、何をいまさらという感想を持っている。昨年の橋下大阪市長の低次元な発言で、まるで拉致のごとき「強制連行」の有無が無理やり争点化され、それを否定することにより、それとは次元の異なる河野談話を否定し去ろうと一部の政治勢力が蠢きだした。朝日新聞の8月5日、6日検証記事は、それに恰好の材料を与えてしまったようである。朝日新聞は、もっと掘り下げ、読者にわかりやすく説明し、また過去に吉田証言を持ち上げたことを率直に謝罪するべきであった。おそらくは、読者はあの検証記事で理解してくれるだろうという安易な思い込みがあったのだろう。しかし、日本人の心的風景は、80年代、90年代と確実に変わってしまっている。慰安婦問題は、現代日本人を覆っている意識下のナショナリズム、排外的感情に触れる問題となってしまっていることに気付くべきであった。
 
 私の古くからの友人も最近、慰安婦問題による、韓国、中国、アメリカの対日包囲網などという民族右派ばりの主張を始めているようだ。根が深い。

 今、私が一番心配しているのは、朝日新聞が、読売新聞のようになってしまうことだ。そうなれば憲法改正、自衛隊の国防軍化は一瀉千里だろう。所詮、新聞社は営利企業、企業存立のためにはどうにでもなる。そうならないように朝日新聞読者として、押しかけサポーターを買って出ている次第である。

                                   (了)
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私は数年前から新聞をとっていません。(貧しいということもありますが)
なぜなら、もともと新聞とは事実を伝えると思ってましたが、必ずしもそうでないことがわかったからです。
地元の新聞社でしたが、事実とは違う報道があった時、(私は当事者なので詳細はわかっていました)新聞社になぜ事実と違うことを載せるのかと、問いただしたところ、新聞とは事実を伝えればいいというものではない、読者に対して啓発、警告など、新聞社としての主観があるから確かに事実とは違うこともあるかもしれないといわれました。
そして、当社だけではなく大手の新聞社はそれが当然のように行なわれているといいました。
昨今の報道を見ていると朝日新聞だけが捏造している風に見えます。
同じ穴の狢なのにチャンチャラおかしいです。
プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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