「外務省と法制局の攻防」なる虚構

 10月26日付「朝日新聞」の『検証 集団的自衛権』なる記事は、7.1閣議決定における「武力行使三要件」の策定について、公明党と内閣法制局がチェック機能を果たし、現にその拡大解釈に歯止めをかけているかのように描き出している。この記事は、人びとに幻想を抱かせ、「集団的自衛権を認めた7.1閣議決定は憲法違反」との抗議の叫びを沈静化させる役割を果たしかねないことを、私は、危惧する。
                         
1 7月1日閣議決定第3項に定める「武力行使3要件」とは以下のとおりである。

 従来、「武力の行使」が許容されるのは、わが国に対する武力攻撃が発生した場合 に限られると考えてきたが、わが国を取り巻く安全保障環境の変化をふまえ、以下のように考えられるべきである(「武力行使3要件」)。

 ①わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
 ②これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
 ③必要最小限度の実力を行使する。

2 一方、従来の政府見解であった「自衛権行使三要件」は以下のとおりである。

 ①わが国に対する武力攻撃が発生したこと
 ②これを排除するために他に適当な手段がないこと
 ③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

(注:政府見解中には①を「わが国に対する急迫不正の侵害が存在すること」としているものも散見されるが、現時点では、国連憲章51条に準拠し、「わが国に対する武力攻撃が発生したこと」とすることに落ち着いている。)

 従来政府は、7.1閣議決定でも援用された1972年10月14日田中角栄内閣統一見解も含めて、集団的自衛権は、この「自衛権行使3要件」の①の要件、即ち「わが国に対する武力攻撃が発生したこと」に該当しないから憲法9条の下では認められない、との見解を繰り返し示してきた。

3 ところで「武力行使3要件」と「自衛権行使3要件」を比較対照すると、次の3要件(これを「集団的自衛権行使3要件」と呼ぶことにする。)+「自衛権行使3要件」=武力行使3要件という等式が成り立つことがわかるだろう。

 ①わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
 ②これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
 ③必要最小限度の実力を行使する

 つまり、「武力行使と3要件」とは、「自衛権行使3要件」に上記「集団的自衛権行使3要件」を無理やりくっつけたものなのである。

4 さて、頭書の「朝日新聞」記事は、北側一雄公明党副代表と横畠祐介内閣法制局長官がタッグを組んで、高村正彦自民党副総裁、外務省の意向を汲む兼金信克官房副長官補、防衛省の意向を汲む高見沢将林官房副長官補に対抗し、従来の政府見解との整合性を図ったという筋立てである。

 具体的には、上記のごとく無理やりくっつけられた「集団的自衛権行使3要件」①の「これ(他国の武力攻撃)によりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」とする部分について、政府案では「他国の武力攻撃により国民の生命や権利を守るために不可欠なわが国の存立が脅かされる」となっていたが、北側氏と横畠氏ががんばって、これを成文のごとく修正させたことにより、従来の政府見解との整合性を確保したという次第である。

 しかし、これはこじつけ、ごまかしというほかはない。何故なら、従来の政府見解との整合性の確保というなら「自衛権行使3要件」と比べなければならないのであるが、「集団的自衛権3要件」①は、そもそも「自衛権行使3要件」①の「わが国に対する武力攻撃が発生したこと」に背反すること明らかであるからだ。

5 さらに言えば「集団的自衛権行使3要件」①の「これ(他国の武力攻撃)によりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」と書き改められたことは、そもそも政府案の「他国の武力攻撃により国民の生命や権利を守るために不可欠なわが国の存立が脅かされる」をより限定するという意味での修正にさえなっていない。その理由は下記のとおりである。

 7.1閣議決定に先立ち、国家安全保障局は「閣議決定案に関連する想定問答集」を作成した(2014年6月28日付「朝日新聞」朝刊に全文掲載)。これによると、「わが国の存立が脅かされ」と「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」とは、「国家と国民は表裏一体のものであり、我が国の存立が脅かされるということの実質を、国民に着目して記述したもの(加重要件ではない)」とされている。なんのことはない。後者の部分は全くの駄文、意味のないレトリックといことになるのである。
 そうすると結局「集団的自衛権行使3要件」①は、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる明白な危険がある場合」なる政府案と何も変わらず、堂々めぐりをしただけなのだ。

 こういうことを前提において考えると、7月14日の衆議院集中審議において、岡田克也議員の質問に対し岸田文雄外相が「日米同盟は日本の平和と安全を維持するうえで死活的に重要だ。米国への攻撃は新3要件も該当する可能性が高い。」との答弁をしたことはごく自然であることがわかる。

 かくして7.1閣議決定の「武力行使3要件」(そのうちの「集団的自衛権行使3要件」)を維持する限り、横畠氏や公明党が、今、いかにとりつくろっても、集団的自衛権の行使を限定させることはできない。

 誤りを正すに遅すぎるということはない。公明党も、横畠氏も、7.1閣議決定撤回を求めるべきだ。「朝日新聞」にもそれを後押しする記事を書いてほしいものだ。 (了) 
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深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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