「朝日新聞」の吉田調書「誤報」問題を考える(前篇)

  「朝日新聞」は、11月13日付朝刊で、1F元所長故吉田昌郎氏にかかる政府事故調作成の聞き取り調書(以下「吉田調書」)の誤報問題について、朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」がまとめた見解全文(以下「本見解」)を公表した。本見解の内容及び結論は、朝日新聞社にとって極めて厳しいものである。とりわけそれは担当記者や担当デスクにとっては耐え難い屈辱であるとともに、具体的不利益と打撃を与え、ひいては「朝日新聞」の取材現場、編集部門を萎縮させる結果をもたらすことにつながる恐れが大きい。私は、「朝日新聞」が官製報道や一部報道機関のデマゴーグ報道に転落することがないよう祈るばかりだ。

 ところで、私は、以下述べるように、本見解には、十分な説得力がないように思う。朝日新聞社が、この見解をタテにとり、担当記者や担当デスクに対する処分を強行しないように求めるとともに、私が指摘した疑問点を、「朝日新聞」が総力をあげて解明することを強く願うものである。

 本見解のエッセンスは、当該記事の根幹をなす1Fの所員の9割が所長命令に違反して2Fに撤退したとの認定部分を、所長命令に違反したと評価できる事実は存在しないし、撤退したと評価するべき行動もなくかったと、全面的に否定したことにある。

 この根拠となった部分は次のように要約できる。

 ①3月12日の1号機建屋爆発、14日の3号機爆発、それに引き続く14日夜からの2号機格納器の圧力以上上昇。吉田氏はチャイナシンドロームのような状況も想定、同日夜には最低限必要な人員を残し、2Fに退避することを考え、準備を指示した。

 ②15日AM6時12分頃、後に4号機建屋爆発と判明する衝撃音と振動、同時に2号機圧力低下の報が入り、吉田氏は2号機格納器の破損を疑い、かつ「メルト(炉心溶融)の可能性」と発言。6時27分には退避準備に入り、6時32分には本社清水社長から「最低限の人間を除き、同33分には吉田氏が「必要な人間は班長が指名する」と発言。

 ③同6時42分、吉田氏は、これまでと異なる指示をテレビ会議でした(この指示内容は記述されていないが、前後の記述及び東電内部記録メモから「構内の線量の低いエリアで退避すること。その後本部で異常でないことを確認できたら戻ってきてもらう」ということであったと認められる。)。しかし既に退避行動は始まっており、騒然とした状況にあったし、吉田氏はこれまでの命令を撤回し、新たな指示に従うようにとの言動をした形跡は認められない。吉田氏も、調書で「本当は私、2Fに行けといってないんですよ」とのべつつも「ここがまた伝言ゲームのあれのところで、行くとしたら2Fかという話をやっていて、退避をして、車を用意してという話をしたら、伝言した人間は、運転手に、福島第二に行けという指示をしたんです。」と話しをしており、吉田氏の上記指示が所員の多くにうまく伝わっていなかったことが認められる。

 ④吉田氏は、調書で、「2号機が一番危ないわけですね。放射能というか、放射線量。免震重要棟はその近くですから、ここかから外れて、南側でも北側でも、線量が落ち着いているところで一回退避してくれというつもりで言ったんですが、確かに考えてみれば、みんな全面マスクをしているわけです。それで何時間も退避していて、死んでしまうよねとなって2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです」と述べ、③の指示は適切ではなかったことを認めている。そもそも多くの所員は免震重要棟に退避していたのであり、1F内には免震重要棟より安全な場所はなく、合理性の乏しい指示であった。それまでの経緯と状況を考えると所員らは、2Fへの退避の指示だと理解するのが自然である。

 ⑤さらに「退避」は退いて危険を避けるという意味で戻る可能性もあるが、そこを撤去して退くという意味に受け止められる。約650人が2Fに移ったといっても、吉田氏ら69名が1Fに残っており、本部機能はまだ1Fにあったし、実際に2Fに移った相当数の所員らが同日正午以降に1Fに戻っている。多くの所員らが2Fへ移ったのは退避と認められる。

 本見解は、上記③、④に引用した吉田調書の部分をそのままなぞっているのであるが、私はこの部分に強い違和感をもつのである。即ち、ずっと2F退避ということで進んでいるのに、多くの所員が詰めており、1F内の最も安全な場所である免震重要棟内を出て、「1F構内の線量の低いエリアで退避すること」なる指示を、突如として吉田所長が出したのは何故か、あるいは本当に吉田所長はそんな指示を出したのかという点がどうしてもひっかかるのである。

 ここにはどうも背景事情がありそうである。本見解は、その背景事情にまでは立ち入らず、形式的に判断をしてしまった。しかし、当該記事を書いた担当記者ら及び担当デスクは、背景事情にまで考えをめぐらし、吉田調書の上記③、④で引用された部分を合理的に解釈をした上で、9割の所員が所長の指示に反して2Fへ撤退したと一つの考えうるストーリーを描いたのではないだろうか。

 当該記事は、吉田調書の合理的解釈の範囲内ではあるが、結果的には誤りである。しかし、私は、「誤報」ないしは「虚報」として非難されるようなものではないと考えるのである。

 その理由は後篇で述べることとする。    (前篇 了)
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深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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