愚論・珍論で安保法制法案を押し切ってはならない

 礒崎陽輔氏は、かつて小泉内閣時代に総務省大臣官房企画官から転じて内閣官房参事官となり、「武力攻撃事態法」(2003年6月成立)や「国民保護法」(2004年6月成立)の制定において、法案作成から国会審議乗り切りに至るまで諸事万般にわたり、事務方の中心を担った人物である。
 「武力攻撃事態法」によって、自衛隊は、それまで抜くことがなく錆びついた刀であったが、立派に磨き上げられ、いつでも抜いて人斬りに使えるようになった。また「国民保護法」によって、有事の際には、国民は保護の美名のもとに銃後で自衛隊・米軍の戦闘を支える存在とされることになった。
 これらを通じて、礒崎氏は、有事法制制定のノウハウを身につけ、それを売りにして出世を遂げた。彼は、今や自民党参議院議員・国家安全保障担当首相補佐官であり、安倍首相の懐刀として、現在進行中の安保法制法案制定のドタバタ劇の脚本を書き、演出をし、かつ観客動員と観る目の肥えた客からの批判や注文に応接する役目に任じている。

 その礒崎氏であるが、ツイッターで安保法制法案の情宣活動を買って出ているようだ。何気なく見ていたら、少しきつい返信を受け取るや、行儀が悪いなどとお説教に及んでおられるのを目にした。意外とナイーブで雑な人のようである。まぁ、そんなことは、人それぞれだから、どうでもいいことだが・・・。

 さて、砂川事件最高裁判決が永田町界隈を徘徊してる。安保法制法案制定のドタバタ劇の主役、脇役を演じる高村正彦氏、北側一雄氏、安倍晋三氏、中谷元氏らによって、安保法制法案を推進するための切り札の如く、繰り返し用いられているのだ。「砂川判決」なる言葉は今年の流行語大賞にノミネートされそうな気配さえある。

 かの礒崎氏はどうだろうか。彼も砂川判決について何か言っているのだろうか。そう思って、彼のホームページを覗いてみた。すると次の文章があった。やっぱり彼も表舞台の役者らに負けじとばかりに砂川判決を論じていた。

 「昭和34年に砂川判決が下され、我が国の存立を全うするための『自衛の措置』が国家固有の権能として認められました。もちろん、この『自衛の措置』が集団的自衛権を射程に入れていたとは言えませんが、それを明確に否定したものでもありません。

 砂川判決により、憲法第9条は『武力の行使』を禁止しているが、『自衛の措置』は例外として認められることが明らかになったのです。この判決は自衛隊に関する唯一の最高裁判所判例であり、これ以降『自衛の措置』の内容については、全て政府の憲法解釈によって示されることになりました。」

 うん、これは前回、「砂川事件最高裁判決に関する愚論・珍論」http://t.co/XnEWjI22oS

で取り上げた北側一雄氏と完全に同じ言い回しではないか。はてさてどちらがオリジナルでどちらが剽窃なのだろうか。それとも両者グルで口裏あわせをしているのだろうか。

 どちらにしても愚論・珍論であることにはかわりがない。

 礒崎氏は、『武力攻撃事態対処法の読み方』(ぎょうせい・2004年8月発行)という「武力攻撃事態法」の解説本を書いている。定価は、税別1905円。この本は、絶版となっている。ネットで古本市場を見てみたら、お値段はなんと税別14000円ほどに跳ね上がっている。そんな大枚はたいて買う気もしないので、知人から借りて読んでみた。

 同書で仕入れた知識を披瀝すると、「武力攻撃事態法」は、本文27か条のコンパクトな法律であるが、2002年4月16日に法案が閣議決定されてから1年2ヶ月後の2003年6月6日成立、衆参両院で140時間を超える審議が行われ、通常国会2回、臨時国会1回、実に3会期を費やし、与野党協議を経て9割の国会議員の賛成により成立したとのことである。

 翻って安保法制法案を見てみると、その「武力攻撃事態法」をはじめ10本の法律の改正案からなる「平和安全法制整備法案」と新法である「国際平和支援法案」とからなる膨大な法案であり、その内容も複雑多義である。短期間のうちに、これらの全体を正しく理解するのは、国民は勿論、審議にあたる国会議員にとっても至難の業である。のみならず、これまでの国会論戦を通じて、法案の危険性が浮き彫りになり、さらに法文の意味、解釈、適用をめぐる多くの技術的な問題点も明らかになってきった。その上、6月4日の衆院憲法審査会において、著名な憲法学者らが、一致して安保法制法案は憲法9条違反と断言し、その後の「報道ステーション」のアンケート調査により全国の大多数の憲法学者が同様の見解だということが判明した。ここに来て安保法制法案の違憲性がクローズアップされてきたのだ。

 国民の間でも、批判の声は満ち満ちている。わが日弁連も、憲法の在野におけるお目付け役として、違憲法案制定阻止に全力を上げ、各地弁護士会は、かってない危機感をもって反対運動に取り組んでいる。各種世論調査を見ても、安保法制法案に反対する人の割合は賛成する人の割合を凌駕し、政府の説明は不十分だとする人の割合は80パーセントを超え、今国会で通してしまうことに反対する人の割合は60パーセントに及んでいる。

 このような状況を無視し、今国会で、大多数の国会議員の賛成を得られないまま、愚論・珍論の合憲論をふりかざして、これを強引に成立させることがあってはならない。上記『武力攻撃事態対処法の読み方』の著者である礒崎氏ならそんなことはわかっているだろうから、ボスに進言してみてはどうだろうか。
(了)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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