小川和久氏の参考人陳述批判(4)

「日米同盟は世界最高レベルの安全をもたらしており、費用対効果に優れている。『米国の属国』と言うのは日本人が悪い。米国から見て最も対等に近い唯一の同盟国は日本。日本列島という戦略的根拠地を提供し、米軍の本社機能が日本に置かれている。84ヶ所の米軍基地と日米共同使用施設が50ヶ所あり、喜望峰まで活動する米軍を支えている。だから米国は日米同盟の解消をずっと懸念してきた。既に対等平等の同盟関係なのだ。」

「本社機能を持つ日本列島を攻撃しないで米国を攻撃するということはない。抑止力として日米同盟に勝るものはない。東シナ海でも中国は極めて抑制的に動いて気を遣っている。沖縄の海兵隊は抑止力でないと言うが、尖閣や台湾有事などで1000人が駆けつける。中国に米国と全面戦争するのをためらわせる抑止力になる。」


 小川氏は、7月1日、衆院安保特別委に公明党推薦の参考人として招かれ、標記のごとく、陳述した。その小川氏は、1985年3月に書いた『在日米軍―軍事占領40年目の戦慄―』(講談社)では、同じ論点に関して、一体どう述べていたのであろうか。

 小川氏は、同書の中で、NATO諸国と日本の実情とを比べている。

 たとえば核兵器の問題について。NATO諸国ではアメリカは核兵器の配備状況を詳しく通知しなければならないことになっている。そればかりか、イギリスでは、アメリカ軍に承認なしに配備された核兵器を使用する動きが見られた場合、イギリス軍は国内にある米軍基地を攻撃する旨の通知さえしていたことが判明している。ドイツでも、テロ対策のプロ集団たる国境警備隊の特殊部隊は、国内にある米軍基地に突入し、アメリカによる核兵器の無断先制使用を抑止することが極秘任務とされている。それにひきかえわが国では、アメリカは、核兵器の配備状況や運用については一切明らかにしないという説が常識であるかのようにまかり通ってきた。わが国政府は、一方で、非核三原則を宣言しておきながら、「アメリカから事前協議の申し入れがないからには、日本に寄港する艦艇は核兵器を信頼するほかない」などと頬かむりし、無責任な態度に終始している。

注:わが国政府は、米軍の核に関する有名なテーゼである「NCND(neither confirm nor deny)」を真に受けていた。否それは「真に受けて」というよりは「隠れ蓑にして」という方がより正確かもしれない。実際には、日本政府は、核兵器を搭載した艦船や航空機のわが国領域内の通過、寄港、立ち寄り(trannsit)については事前協議の対象としないこととする密約を交わして黙認していたこと、沖縄返還に際して緊急時の再持ち込み・貯蔵を認める密約を交わしていたことが、開示された日米双方の文書により確かめられていることは周知のとおりである。 

 小川氏は、こうしたわが国政府の無責任な態度は、折角批准したNPT条約上の「核兵器を持たない国を核によって攻撃し、又は攻撃してはならない」との特典を放棄するに等しいものであったことを痛烈に批判している。曰く「核戦力に密接に関連した在日米軍の駐留を許してきたことによって、核による攻撃や脅迫を招いてもしかたのない立場を、みずから選択してしまったのである。」と。

 そうした考察をもとに、小川氏は、日本は本当の意味での独立国家ではないとの実感を吐露し、超大国であるアメリカとソ連に互して生存の道を探るしたたかな独立心を持つべきことを政府と国民に求め、「これまでの分析であきらかなように、日本は“赤い標的”ソ連を撃つための米軍の巨大な出撃基地であり、同時に補給、情報の基地としても、アメリカの対ソ戦略に欠くことのできない一大軍事基地を形作っていた。そこでは、戦後40年にわたるアメリカの軍事占領がピークを迎えつつあり、国家としての日本の独立性はきわめて疑わしい限りだということを強調しておきたい。」と結んでいる。

 さて上記の如く主張した当時と標記の参考人陳述をした現在とでは、小川氏の主張は180度転換している。この30年の間に、彼がそのようにドラスティックな転換を遂げてしまうほどに、国際環境や日本の地位に大きな変化があったのであろうか。

 日本列島に置かれた米軍施設(基地)の状況は殆ど変っていない。小川氏は、現在も「日本列島という戦略的根拠地を提供し、米軍の本社機能が日本に置かれており、84ヶ所もの米軍基地と日米共同使用施設が50ヶ所あり、喜望峰まで活動する米軍を支えている。」と指摘しているではないか。
 ただ、変化したことと言えば、いまや冷戦体制の一方の雄でありアメリカに匹敵する強大な軍事力を有し、わが国にとっても軍事的脅威として現前していたソ連は解体してしまい、世界はアメリカ一極支配の構造となったということだろう。中国が軍備を急速に拡大しつつあるとはいえ、何せ元が小さかったので、アメリカの足元にも及ばず、到底アメリカに対峙できるような力はない。いずれにせよ、これは小川氏が主張を大転換するに足る客観的事情の変化にはならないだろう。

 アメリカは、一極支配構造の下で、なんの自制もなく、世界のあらゆる紛争に武力介入をし、武力による威嚇、武力行使によって強引に自己本位の世界秩序の形成を進めている。これに対するさまざまな抵抗が噴出し、それらは非対称の武力紛争の形態をとりつつ、アメリカのさらなる武力鎮圧にあって、分散し、拡散してウイルスが蔓延するがごとく世界を蝕みはじめている。アメリカに自制を促す強大国がない状況のもとで、アメリカは、自国の安全と国益を最大化することに血道をあげている。アメリカは、いまや世界の抑圧された民衆の怨嗟の的になっている。アメリカ国民とその同盟国の国民は、見えない敵の攻撃にさらされることになる。日米同盟が世界最高レベルの安全をもたらしているなどと、呑気なことを言ってもらっては困るのだ。日米同盟が中国に対する抑止力になるなどと風が吹けば桶屋がもうかるという類のほら話をする前に、日米同盟の深化を叫び、自衛隊を米軍の肩代わりとする道を突き進むことにより、再稼働されれば、原発がテロ攻撃の標的になることを心配した方がいいのではなかろうか。

 在日米軍施設の運営や在日米軍の活動の自由を定める日米地位協定は、日本を植民地並みの不平等な地位に貶めている。米軍の活動は、日本の国内法の規制外に置かれている。今も、アメリカからの新たな施設(基地)の設置要求があれば従わなければならない。犯罪捜査や刑事裁判を筆頭に米軍の軍人・軍属はさまざまな特権を付与されている。米軍施設(基地)の管理は米軍の専権事項である。まさに治外法権である。これを「対等平等」などと言うのは悪い冗談だ。

 1985年の小川氏は、日本は独立国ではないと慨嘆していた。彼はこうも言っていた。「一般的にいわれる日米軍事同盟にしても、米軍と自衛隊が共同して作戦行動をするといった対等の関係ではなく、あきらかに自衛隊を米軍のひとつの戦闘単位として組み込んだ現実が浮かび上がってくる」と。
 今の小川氏は、「『米国の属国』と言うのは日本人が悪い。」とのご託宣を下している。

 これは早い話が単なる変節ではないか。その変節ぶりたるや、見事である。

                             (続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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