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戦後政治外交史こぼれなし―その2

対米自立の気概など微塵も見られなかった岸信介氏

 安倍晋三氏は、おじいちゃん子であったようである。おじいちゃんとは、言わずと知れた岸信介氏のことだ。

 朝日新聞連載の『70年目の首相』の2回目、『改憲へ、祖父の背中追う 「日米対等」求め安保改定―集団的自衛権』に、安倍氏が岸氏に心酔していたことを示す以下のエピソードを紹介されている。安倍氏は、不平等・片務・従属的な旧安保条約の改定に力を注ぎ、「平等・双務・対等」の新安保条約を締結した岸氏を仰ぎ見て、その背中を追い続けてきたのであろう。

 官房副長官を務めていたころのある日、安倍氏は、かつて岸氏もいたことがある旧首相官邸の窓から外の景色を眺めながら、「昔、おじいちゃんが安保闘争のとき、デモ隊にあんなに囲まれたのによくやったよなあ。たぶんいまの支持率だったらゼロ%だろう。やっぱりすごいよな。」とつぶやいたとのこと。これは秘書官だった井上義行氏(現参院議員)の証言である。
 この4月29日、安倍氏は、米議会上下両院合同会議での演説において、安保法案を8月までには成立させるとただならぬ誓約をしてしまったが、その前に、「1957年6月、私の祖父、岸信介はまさにここに立ち、日本の首相として演説を始めました。」と58年前の岸氏の演説を引用しながら語っている。

 
 しかし、安倍氏が仰ぎ見て、背中を追ってきた「平等・双務・対等」の新安保条約締結の推進者としての岸氏の姿は、果たして、真実ありのままのものであっただろうか。

 現実主義者の国際政治学者・故高坂正堯氏は、以下のように論評をしている(中公クラシックス「宰相吉田茂」所収の「吉田茂以後」)。

 「岸はなんと言っても伝統的なナショナリストであった。だから内乱条項があったり、期限が定まっていない安保条約の存在は、彼にとっては快いものではなかったのである。彼が、米国との交渉の席で、『それではまるで満州国だ』と口走ったのは、彼の本心を案外よく表現しているのである。(中略)
 しかし、彼は日本と米国との間の平等性は、安保条約の条項を変えることによって左右されるようなものではないことを認識することができなかった。もちろん、純技術的には、日米安保条約の条文を変更することは好ましいことであったが、それは基本的な相違をもたらすものではなかったのである。だいたい、米国との協力に安全保障を依存することが、すでに独立についての異なった考え方に立脚することであった。そうした体制において日本の独立性を増すためには、安保条約の条文を変更するだけではなく、外交のあり方全体を問題にしなければならなかったのである。」

 高坂氏は、岸氏が「平等・双務・対等」の新安保条約締結の推進者であったこと自体は否定していない。これが前半部分で述べられている。しかし、後半部分では、岸氏は、外交のあり方自体を問題にし、日本の独立性を増すための努力はしなかったと批判をしているのである。

 だが、私は、岸氏が「平等・双務・対等」の新安保条約締結の推進者であったこと自体も疑わしいと考えるのである。それは以下に述べるとおりである。

 前回述べた重光外相、ダレス国務長官の会談に、岸氏は、民主党幹事長として同席し、鳩山・重光外交の失敗を目の当たりにした。このことは岸氏にとって「偉大な米国」への姿勢をかえさせるに余りあるできごとであった。岸氏は、1957年2月、満を持して首相に就任したのであるが、旧安保条約の抜本的改定を打ち出すことはできなかったのである。岸氏が実際に持ち出したのは、旧安保条約の微修正、即ち、在日米軍の基地使用について事前協議制をもうけること、なんらかの期限をもうけることだけだった。

 当時わが国では、第五福竜丸被ばく以後燎原の火のごとく燃え広がった原水爆禁止運動、内灘、砂川を頂点とする基地反対闘争、さらにはジラード事件の発生を契機に急速に対米自立を求める広範な国民運動の展開など、保守政権の足もとを揺るがし、非武装・中立の政権の成立さえ展望される情勢となっていた。
 これに危機感を抱いたのは、岸新内閣発足と時を同じくして駐日大使として着任してきたダグラス・マッカーサー2世であった。マッカーサー大使は、岸内閣に先んじて、本国政府に「日本に親共産主義、中立主義の道をとらせないためには、安保条約を改定して、他の同盟国と同じように、完全かつ平等なパートナーとして扱う必要がある。」と意見具申をし、微修正要求しかしない岸内閣の鼻先をとらえて、「平等・双務・対等」の新安保条約締結に誘導したのであった。勿論、米国の国益を守るために。

 さすがは独立独歩の超大国、米国の辣腕大使である。
 それに比べ、鼻先をとられてそのあとをおずおずとつき従った岸氏に、対米自立の気概など微塵も見られない。高坂氏の論ずる前半部分は正しくない。むしろ、それとは反対に後半の見立てを裏付けているとさえ言っていい体たらくであったのである。

                           (了)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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