スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

戦前秘密保全法制 (4)

軍機保護法の内容

軍機保護法をそのまま説明するのではなく、旧軍機保護法と比較する形で説明した方がわかりやすいだろう。

(第一に保護される秘密について)

旧軍機保護法では保護される秘密とは「軍事上秘密の事項又は図書物件」とあっただけで、それ以上の定義はなくはなはだ使い勝手の悪い法律であった。このため具体的な事件においてその適用が逡巡される事態も生じていた。ありていに言えばあまり使えない法律だったのである。

軍機保護法では、これを第1条第1項で「軍事上の秘密と称するは作戦、用兵、動員、出師其の他軍事上秘密を要する事項又は図書物件」とし、同条第2項で「前項の事項又は図書物件の種類範囲は陸軍大臣又は海軍大臣命令を以て之を定む」として、陸軍軍機保護法施行規則及び海軍軍機保護法施行規則で以下のように広範かつ抽象的に「軍事上秘密の事項又図書物件の種類範囲」を定め、さらにこれを受けて陸軍大臣、海軍大臣が具体的な指定をすることとされた。

陸軍軍機保護法施行規則
①宮闕守衛に関する事項、②国防、作戦又は用兵に関する事項、③編制、装備又は動員に関する事項、④国土防衛に関する事項、⑤諜報、防諜又は調査に関する事項、⑥運輸、通信に関する事項、⑦演習・教育又は訓練に関する事項、⑧資材に関する事項、⑨軍事施設に関する事項、⑩図書物件に関する事項の10項目

海軍軍機保護法施行規則
①国防、作戦又は用兵に関する事項、②出師準備に関する事項、③軍備に関する事項、④諜報又は防諜に関する事項、⑤艦船部隊、官衙、又は学校に於ける機密(「軍機」又は「軍極秘」に属するものに限る)に属する教育訓練、演習又は研究実験の計画、実施若は其の成果、⑥通信に関する事項、⑦軍事施設に関する事項、⑧艦船、航空機、兵器又は軍需品に関する事項、⑨図書物件に関する事項の9項目

このような法律構造は、「軍事上秘密の事項又図書物件」が無制限に拡大されるおそれが強い点で、我が特定秘密保護法に相似している。

(第二に行為態様について)

旧軍機保護法では探知収集罪も漏えい罪も、「秘密であることを知って」これをなすことが犯罪構成要件として明示されていたが、軍機保護法ではその記述がなくなった。
我が特定秘密保護法の漏えい罪も不正取得罪も「秘密であることを知って」なる文言は書かれていない。

(第三に罰則強化について)

旧軍機保護法では、探知収集は重懲役、職務上知得領有者の漏えいは有期徒刑、偶然の知得領有者の漏えいは軽懲役であった。

軍機保護法では、単純探知収集は6月以上10年以下の懲役、公表目的又は外国若しくは外国のために行動する者に漏えいする目的の探知収集は2年以上の有期懲役、業務上知得領有者の漏えいは無期又は3年以上の懲役、業務上知得領有者の公表又は外国若しくは外国のために行動する者への漏えいは死刑、無期又は4年以上の懲役、探知収集かつ漏えいは無期又は2年以上の懲役、探知収集かつ公表又は外国若しくは外国のために行動する者への漏えいは死刑又は無期若しくは3年以上の懲役、偶然の原因で知得領有した者の漏えいは6月以上10年以下の懲役、業務上知得領有者の過失漏えいは3年以下の禁錮又は3000円以下の罰金等と、行為類型を細分化するとともに死刑、無期にまで著しく重罰化し、過失による漏えいまで処罰することした。


帝国議会において、戦時下で軍部の強圧的な姿勢が顕著になる中の審議ではあったが敢然としてさまざまな疑問と修正案が提起された。そのうちいくつかを取り上げてみよう。

(第一に保護される秘密について)

死刑まで科する重大法規を勝手に陸軍大臣又は海軍大臣の命令で、しかも勅令ではなく単純な大臣命令で左右することは重大問題だとして反対する意見、少なくとも「陸軍大臣又は海軍大臣の命令」を「勅令」とせよという意見が出たが、政府は、何が軍事上の秘密で取締まりの必要があるかは、その時代、時代によって異なるところであるから委任命令で定めることにした、陸軍、海軍が専門的見地で定める必要があるとしてこれらの意見を一蹴した。なお、審議の中で政府側は、陸軍大臣又は海軍大臣命令は、法律の委任に基づいて「軍事上秘密の事項又図書物件の種類範囲」を定めるのであって、自ら新たに「秘密の事項又は図書物件」を定めるものではないとの説明がわざわざ行っているが、これは実際問題としてはしかく明確に言えることではないだろう。
我が特定秘密保護法の各行政機関の長の指定も同じである。

(第二に行為態様について)

「秘密であることを知って」なる文言が明記されないことに対する疑問、不安の意見が出されたが、これに対して政府側は、刑法総則において「罪を犯す意なき所のものは之を罰せず」との規定があるから、「秘密であることを知って」との文言がなくてもそのように解することになると説明した。また「狙いどころは他から来るところのスパイ、極めて稀に本邦人が彼らから唆されてそういうことをやる、ある極めてごく少数の一部、この一、二の欲望のために犯す、こういうのでございまして、他の国民全部は、この味方であり、全力を挙げて国家の不利なることは防ぐという日本国民の特性を十分信頼しての案でございます」と胸を張るのであった。
我が特定秘密保護法でも審議の中、或いはその他の場で政府・与党はそのような説明をし、あるいは一般の人の日常生活には何らの影響もないと人を煙に巻いていることは周知のごとしである。

しかし、それでも不安の解消には至らず、衆議院同特別委員会で「本法において保護する軍事上の秘密とは不法の手段に非ざれば之を探知収集することを得ざる高度の秘密なるを以て政府は本法の適用に当たりては須らく軍事上の秘密なることを知りて之を侵害する者のみに適用すべし」との付帯決議の上、可決を見たのであった。
(続く)
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。