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緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(8)

平和主義と自衛権(その3)

国際法上の自衛権の確立

 無差別戦争論(戦争の自由・同盟の自由)の時代は、英、仏、独、それに新興国米国を含む列強諸国による帝国主義的領土分割の時代でもあった。やがて、それは、わが国もその驥尾に加わり、蘭熟し、20世紀における二度にわたる世界大戦という疾風怒濤期を経て終息期に向かう。さしずめ現在はその最後の時期にさしかかっていると言ってよいのかもしれない。

 その大きな時代の移り変わりの中で、戦争と平和という人類史的テーマにかかわる国際法(国際条約法と国際慣習法)も様変わりして行く。

 かつて例をみない惨害をもたらした第一次世界大戦がエポックを画した。全世界を覆う平和運動の波とロシア革命を先頭とする変革の嵐。やがて国際連盟が設立され、国際社会あげて、軍縮の実現をめざし、戦争と武力行使を違法とし、禁止し、それに反する行動をとった国には国際連盟による制裁を科すという道が模索された。
 ヨーロッパの英、仏、伯、伊、独5カ国間のロカルノ条約を経て、とにもかくにも戦争と武力行使を違法とし、禁止するパリ不戦条約が締結されたのは1928年のことであった。

注:①国際連盟は、加盟国間に重大な紛争を生じたときは、国際裁判もしくは国際連盟において紛争解決の手続をとるべきことを義務づけ、その手続き進行中と結論が出されたのちは一定の場合に、戦争に訴えることを禁じた。これに違反した場合には、連盟加盟国に違反国に対し、制裁その他の措置をとるべきことを義務づけた。
②1925年・ロカルノ条約において、締約国は、あらゆる攻撃及び侵入の絶対的禁止、挑発にもとづかない侵略に対する被害国を支援する義務、国際紛争平和的解決の義務を約定した。
③パリ不戦条約は本文3か条のうち、第3条は手続規定であるから、正味は第1条、第2条のみである。
第1条 締約国は国家間の紛争の解決のために戦争に訴えることを非とし、かつ締約国相互の関係において、国家政策の手段としての戦争を放棄することを、各々の人民の名で厳粛に宣言する。
第2条 締約国は、締約国相互の間に起こる全ての争議または紛争は、その性質又は原因の如何を 問わず、平和的手段以外の方法で処理または解決を求めないことを約束する。


 パリ不戦条約第1条には「国家間の紛争の解決のため」とか「国家政策の手段として」とかの語句があり、戦争放棄は条件付のようにも読める。同条においては侵略戦争の放棄をしているだけであって、自衛戦争は放棄されていないと読み取る余地が生じる。しかし第2条は単純明瞭である。全ての争議または紛争を、性質、原因の如何を問わず、平和的手段以外の方法で処理または解決を求めないとある。そこでわかりにくい第1条を第2条とともに解釈すると全ての戦争を放棄する趣旨だと解さざるを得ない。

 わが国では、パリ不戦条約第1条だけを取り出して、同条約の本旨を自衛のための戦争を留保し、侵略戦争の放棄を約したものと解し、そこから「国際紛争を解決する手段として」というわが憲法9条1項の用語例を、自衛のための戦争、武力の行使を排除する趣旨だという読み方が人口に膾炙しているが、どうやらそれは間違いのようである。

 もっとも、実際問題として、パリ不戦条約では自衛戦争(あるいは自衛のための武力行使)は放棄されていないものとして取り扱われてきた。ではどうしてそうなるのか。実は、各国は、不戦条約批准に際し、「自衛権の行使を留保する」との趣旨を明示した交換公文を取り交わしていたのだ。つまり各国は、「自衛権の行使を放棄しない」との条件で批准をしていたから、不戦条約では自衛戦争(もしくは自衛のための武力行使)は放棄されていないということになるというカラクリになっていたのである(田岡良一「国際法上の自衛権」勁草書房157頁以下)。

 ここで各国が交換公文で留保した自衛権は、各国各様の主張にもかかわらず、パリ不戦条約を主導したケロッグ米国務長官により、「自国領域を攻撃又は侵入から守る自由」と定義されている(1928年6月23日付公文。森肇志『自衛権の基層 国連憲章に至る歴史的展開』東京大学出版会146頁以下参照)。これは以下に記す国際法上の自衛権に一致するものである。

 こうして国際社会において戦争と武力行使を違法とし、禁止することが公認されるようになる反面、諸国は、これに穴を開け、その例外として許容されるべき戦争と武力行使の道探しをする。そうして浮上したのが自衛権の行使としての戦争と武力行使である。
 諸国の国際法学者らは、上述したように百年も昔のカロライン号事件におけるウェブスター書簡中で示されたウェブスター・フォーミュラに息を吹き込み、次の三点に集約・整理し、これを自衛権の定義、自衛権の行使要件とした。

① 急迫不正の侵害の存在
② 他に取り得る方法がないこと(必要性)
③ 必要最小限度の範囲にとどまる措置であること(均衡性)

 わが国でも、横田喜三郎博士は、既に戦前において、「自衛権は、国家または国民に対して急迫または現実の不正な危害がある場合に、その国家が実力をもって防衛する行為である。この実力行為は、右の危害をさけるためにやむを得ない行為でなくてはならない。」として、具体的に「第一に、急迫または現実の不正な危害でなければならない。(以下略)」、「第二に、国家または国民に対する危害がなければならない。(以下略)」、「第三に、危害に対する防衛の行為は、危害を防止するために、やむを得ないものでなければならない。(以下略)」と説いていた(「国際法」上巻・有斐閣 1933年)。
(続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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