緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(13)

緊急事態条項は、危険、有害かつ不必要である(その1)

 ここまで述べてきたことをおさらいしておこう。
 緊急事態条項とは、緊急事態条項とは「戦争・内乱・恐慌ないし大規模な自然災害など、平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態において、国家権力が、国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序(人権の保障と権力分立)を一時停止して、非常措置をとる」国家緊急権に係る憲法の条項である。
 従って、それはそもそも立憲主義に背馳するものである。
 国民主権と三権分立の統治構造、平和的生存権を含む基本的人権の保障、恒久平和主義は日本国憲法の三大原理であり、国家権力はそれにより厳格に拘束される。これが現代立憲主義である。
 日本国憲法の恒久平和主義は、人類社会の過去500年に及ぶ戦争と平和に係る法的実践のフロンティアを切り開き、集団的安全保障と個別国家の戦争・武力行使の全面禁止を展望するものである。9条はそれにふさわしい解釈がなされなければならない。
 以上をふまえるならば、緊急事態条項を創設せんとする日本国憲法「改正」の企みは憲法論として本質的に認められないところである。このことを確認した上で、念のため現実問題として緊急事態条項は認めがたいことを以下順次述べていくことにする。 
 キーワードは、「危険、有害かつ不必要」である。
  
緊急事態条項の危険・有害性

 緊急事態条項が悪用もしくは濫用された事例をいくつか挙げてみよう。最初にわが国の事例を見ておきたい。

 明治憲法には、緊急勅令制定権(第8条)、戒厳宣告の大権(第14条)、非常大権(第31条)、緊急財政措置権(第70条)の各緊急事態条項が置かれていた。

注 上記の各条項を参考までに掲記しておく。

(緊急勅令)
第8条 天皇は公共の安全を保持し又は其の災厄を避くる為緊急の必要に由り帝国議会閉会の場合に於て法律に代るべき勅令を発す
2 此の勅令は次の会期に於て帝国議会に提出すべし若議会に於て承諾せざるときは政府は将来に向て其の効力を失ふことを公布すべし
(戒厳の宣告)
第14条 天皇は戒厳を宣告す
2 戒厳の要件及効力は法律を以て之を定む
(非常大権)
第31条 本章に掲げたる条規は戦時又は国家事変の場合に於て天皇大権の施行を妨ぐることなし
(緊急財政措置)
第70条 公共の安全を保持する為緊急の需用ある場合に於て内外の情形に因り政府は帝国議会を召集すること能はざるときは勅令に依り財政上必要の処分を為すことを得
2 前項の場合に於ては次の会期に於て帝国議会に提出し其の承諾を求むるを要す


 これらのうち最も悪用、濫用されたのは、緊急勅令で、とりわけ行政戒厳が問題であった。行政戒厳とは「戦時若しくは事変」の場合にのみ宣告されることになっていた戒厳令(1882年太政官布告。明治憲法第76条1項により、効力を存続することとされた。戒厳令第1条には「戒厳令は戦時若しくは事変に際し兵備を以て全国若しくは一地方を警戒する法とす」と定められている。)を、「戦時若しくは事変」以外の「非常事態」に緊急勅令によって準用、施行した措置で、いわば戒厳令の目的外使用である。
 その顛末は次回とする。
(続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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