スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(18)

緊急事態条項は、危険、有害かつ不必要である(その6)

フランスの場合・・・立憲主義に分け入った「民主独裁」の伝統

 究極の緊急事態条項である戒厳令のプロトタイプは、フランス革命さなかの1791年7月制定された「合囲状態法」(état de siègeエタ・ド・シェジュ)である。意外に思われるかもしれないが、戒厳令の母国はフランスなのだ。フランス革命は、一方でフランス人権宣言、1791年憲法により立憲主義を高らかに宣言したものの、内外の敵から革命の成果を守るために「民主独裁」で武装したのである(因みに、歴史は、ロシア革命後のソ連でも「プロレタリアート独裁」の名の下により悲劇的な軌跡を描いた。)。
 そのフランスの現行憲法第五共和制憲法にもその伝統は、色濃くその母斑を留めている。
 フランスでは、アルジェリア独立戦争による危機を乗り切るために強い大統領を標榜したシャルル・ド・ゴールが大統領に選出され、その下で1958年10月、現在の第五共和制憲法が制定され、第16条に「大統領緊急措置権」(緊急事態条項)が設けられた。

注:フランス憲法第16条
① 共和国の制度、国の独立、その領土の一体性あるいは国際協約の履行が重大かつ直接的に脅かされ、かつ、憲法上の公権力の適正な運営が中断されるときは、共和国大統領は、首相、両院議長、ならびに憲法院に公式に諮問したのち、これらの事態によって必要とされる措置をとる。
② 大統領は教書によりこれらの措置を国民に通告する。
③ これらの措置は、最も短い期間内に、憲法上の公権力に対してその任務を遂行する手段を確保させる意思に則ってとられなければならない。憲法院はこの問題について諮問される。
④ 国会は当然に開会する。
⑤ 国民議会は緊急権の行使の間は解散されない。
 

 1961年4月22日、アルジェリア独立戦争のさなか、アルジェリアにおいて、独立に対し柔軟姿勢に転じたド・ゴールに反対し、4名の退役将軍が部隊を率いて決起した。彼らは、「最高司令部」の設立を宣言し、アルジェリア全土に「戒厳令」を布告した。それにとどまらず、反乱軍は本国の軍内極右分子と連繋し、パリ進撃の気配を見せた。
 これに対し、23日、ド・ゴールは「緊急権」を発動し、反乱軍の鎮圧を宣言した。同時にフランス本土では労働者、学生、市民が反乱を糾弾する行動に立ちあがった。こうした状況で、反乱軍は孤立し、25日には反乱軍は崩壊するに至り、最終的に26日までには完全に鎮圧された。しかし、23日に発動された緊急権は9月30日になるまで維持された。
 この「緊急権」の発動について、フランスでも日本でも憲法学者らから市民の自由、人権が極端に制約されたとの緊急事態条項の悪用例として批判されている。その現場を目撃した憲法学の泰斗樋口陽一氏の話を引用しておこう。樋口氏は、東北大学の大学院生であったころ、1960年から2年間、フランス政府給費留学生としてフランスに学んでいるが、その時期の体験談である。彼は以下のように述べる。

 「フランスでは1961 年10 月17 日、私は実地でそれを目撃していたのですが、アルジェリア独立運動の大デモストレーションが警官隊と衝突して3人が死んだと公表されていました。ところが最近になって政府の求めによって作成された報告書では、少なくとも48人が警察によって殺されたとなっている。これは憲法16条の緊急権の発動によるものです。40年近く経ってから、政府筋が公式にこういった事件の真相を追究しようとするような国でも、緊急権というのはこれだけ危ないことを引き起こすのです。」(『世界』1999年11月号)。

その他の諸国・・・小括を兼ねて

 以上のほか中南米、東アジア、東南アジア、中東、アフリカ諸国及び社会主義国における緊急事態条項、あるいは裸の国家緊急権の悪用もしくは濫用の事例は、この50年程の間でも、韓国、インドネシア、チリ、中国、ビルマ、タイ等々、記憶に鮮明に刻みつけられている。
 悪用もしくは濫用事例をおしなべて見てみると、独裁体制確立、体制の危機や弱さを取り繕うための治安強化、政敵の封じ込めなど不当な目的のために、不当に長期間にわたり、人権を過度に侵害するという共通項があるようである。
 緊急事態条項の危険・有害性はもはや多言を要しないだろう。

 付言すれば、災害対策に絞ってみても緊急事態条項により政府に権限を集中させることは危険・有害である。

 4月14日夜に発生した最大震度7の地震のあと、熊本県の被災地では難を逃れて多くの人々が屋外避難をしていた。翌15日午前、閣議のあと河野太郎防災担当相は記者会見で、「熊本県を震源とする地震の避難者が約4万4千人に上ることを明らかにし」、「(熊本)県庁に現地対策本部を立ち上げる予定。避難されている方を今日中に屋内にきちんと収容できるよう準備を進めているところだ。」と述べた(朝日新聞4月15日午前9時44分配信のデジタルニュース)。
 これをもう少し詳しく確認してみると、河野担当相は、15日、安倍首相の指示を受けて屋内避難の方針を決め、各自治体に周知させようとしたころ、熊本県知事から「避難所が足りなくてみなさんがあそこに出たわけではない。余震が怖くて部屋の中にいられないから出たんだ」と反発され、沙汰やみになったとのことである(4月16日付毎日新聞朝刊)。政府の方針が地元各自治体に周知されずに済んだわけであるが、それによって多くの人たちの命が救われたといってよい。16日未明に再び最大震度7の本震が熊本地方を襲ったのである。
 現場から遠く離れた政府に権限を集中させてはならないことが証明された一事例である。
(続く)
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。