緊急事態条項と憲法9条・立憲主義(21)

緊急事態条項は、危険、有害かつ不必要である(その9)

国会議員の任期や選挙の特例をもうけることは必要か・・・序論

 憲法に、国会議員の任期や選挙に関して、大災害時の特例をもうけるべきだという議論がなされている。

 ご承知のように、憲法は、国会議員の任期を、衆議院議員4年(解散の場合には解散と同時に終了)、参議院議員は6年(3年ごとに半数改選)と定め、ごとに、衆議院が解散されたときは解散の日から40日以内に総選挙を行い、その選挙の日から30日以内に、国会を召集すべきことを定めている。

注:参考までに憲法の関連条文を掲げておくこととする。

(衆議院議員の任期)
第45条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
(参議院議員の任期)
第46条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
(総選挙、特別会及び緊急集会)
第54条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
(議事の定足数と過半数議決)
第56条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。


 大災害のときに、これでは不備があるのではないかという議論である。

 たとえば、自民党の近藤三津枝衆議院議員は、2011年11月2日、民主党・野田内閣に対し、次のような質問主意書を提出している。

 今回のような大災害(注:東日本大震災)が国政選挙の公示日の直前に発生した場合、「東日本大震災に伴う地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律」のような法律を制定することにより、国政選挙の選挙期日を延期するとともに、国会議員の任期を延長することは、日本国憲法に照らして許されるかどうか、政府の見解如何。

 これに対する野田内閣総理大臣の答弁書は、「できないものと考える」とすげないものであった。そこで近藤議員はさらに、同年11月29日、次の再質問主意書を提出した。

一 東日本大震災のような大災害が国政選挙の公示日の直前に発生した場合においても、国政選挙の選挙期日を延期するとともに国会議員の任期を延長することができないならば、大災害の発生という不可抗力によって、被災地では実際上選挙が行われなくなるおそれがある。その場合、被災地の住民にとっては実質上参政権が奪われてしまうことにならないか。また、憲法前文では、「国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来」するとされているが、これでは、そのような国民主権や、憲法第十四条の法の下の平等という憲法の根本の原理が侵されることにならないか。このようなことになるのは、やむを得ないものと考えるか、政府の見解如何。
二 一に述べたような観点から考えれば、現行憲法の下でも、大災害が発生した場合等の非常時においては、必要最低限の範囲で、国政選挙の選挙期日を延期するとともに国会議員の任期を延長することが必要ではないか。これを踏まえても、法律によってこれらを行うことは許されないか、政府の見解如何。


 野田内閣総理大臣の答弁書は、一に対しては「ご指摘のような場合であっても公職選挙法の下で選挙が執行されることになると考えている」、二に対してはやはり「できないものと考える」、であった。野田さんは、するりとドジョウにように身をかわしたつもりだったのだろう。

 このような瑣末な問題を議論することにどれだけの意味があるかと疑問に思われる方も多いだろう。私もそう思う。国会議員の任期と身分に関して言えば、衆議院解散権の所在に関わる問題の方がずっと重要であった。

 憲法第7条第3号に、天皇の国事行為の一つとして、「衆議院を解散」が掲げられている。天皇の国事行為は、形式的、儀礼的行為であるし、天皇は国政に関する権限を有しないとされている(第4条第1項)。だから天皇に真実の解散決定権があるわけではない。ありていにいえば「名ばかり解散」である。
 内閣は、この「名ばかり解散」について、「助言と承認」という形で関与することになっている(第3条、第7条柱書き)。このことを根拠として、内閣の代表者である内閣総理大臣が、真実の衆議院解散権を持っているのだという憲法解釈がまかり通っている。これは、無から有が生じるというまるで手品みたいな不思議な解釈である。
 憲法第69条には、衆議院で不信任案が可決された場合又は信任案が否決された場合、内閣は衆議院が解散されない限り、総辞職しなければならないと定められている。解散がされる場合は、憲法上、これ以外には規定されていない。そうすると、この場合以外には解散は認められないと考えるのがまっとうな解釈ではないか。
 伝家の宝刀ともてはやされて内閣総理大臣が、自己の権力基盤を固めたり、与党有利な情勢を斟酌したりして解散権を行使することが、どれだけ議会制民主主義を損なっているか。このような解釈を問題にしないで、国会議員の任期や選挙に関して、大災害時の特例をもうけるべきだという議論は何と瑣末なことか。

 だが近藤議員の質問に根本的な誤りがあるので、次回、私も蚤取り眼になってこの瑣末な議論に分け入ってみることにしようと思う。
(続く)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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