「菊と刀」のバーター―日本国憲法第9条を考える―その6

「平和国家確立の勅語」

 わが国が降伏文書に調印したのは1945年9月2日。その翌々日、第88回帝国議会が開かれ、その開院式で、昭和天皇は、以下の勅語を述べた(冒頭、末尾の部分を省略。カタカナをひらがなにし、漢字を当用漢字に改めた原文と、表現を現代文に改めたものも併記する。)。

 「朕は終戰に伴ふ幾多の艱苦を克服し國體の精華を發揮して信義を世界に布き平和國家を確立して人類の文化に寄與せむことを冀ひ日夜軫念措かす此の大業を成就せむと欲せは冷靜沈着隱忍自重外は盟約を守り和親を敦くし内は力を各般の建設に傾け擧國一心自彊息ます以て國本を培養せさるへからす軍人遺族の扶助傷病者の保護及新に軍籍を離れたる者の厚生戰災を蒙れる者の救濟に至りては固より萬全を期すへし」

 「私は、終戦に伴う多くの苦しみを克服し、わが国の真価を発揮し、信頼を守り道義を果たす努めを世界に知らしめ、平和国家を確立して、人類の文化に貢献することを希求し、ひとときも忘れることなくこの大業を成し遂げようと思っている。そのため、冷静に考え、軽はずみな行動はせず、国外に対しては固い誓約を守り、国同士の親睦を深めて欲しい。国内においては、力をあらゆる方面における創設に注ぎ、国を挙げて心を一つにし、自ら進んで努める姿勢を忘れてはならない。それにより、国家の基本を育てなければならない。軍人の遺族の生活の扶助、戦災傷病者の保護、及び新たに軍籍を離れた人の厚生、そして戦災を被った人の救済にいたっては、もちろん万全を期する。」


 これは、当時、「平和国家確立の勅語」として、大きく報道され、わが国のみならず世界的にも注目を集めたが、当初案には、「平和国家」なる文言はなかった。

 当初案から確定稿となるまでの経過は、ポツダム宣言受諾により平和国家への転換を余儀なくされたとの認識が、当時の政府、昭和天皇に、次第に進んで行った過程を示しており、興味は尽きない。それは実にゆっくりした足取りであり、状況にせかされていやおうなく進んで行ったようである。

 2017年1月4日配信の朝日新聞デジタルは、その経過を報じている。非常に興味深いので、少し長いが引用することとする。

 国立公文書館に保管されている資料は「第八十八回帝国議会開院式勅語案」で、第1案から第4案まである。赤字で修正が加えられ、修正した人物の名も記されており、45年9月1日に閣議決定されるまでの流れがわかる。同館のデジタルアーカイブで公開されている資料の中から朝日新聞記者が見つけた。

 資料によると、第1案には「光輝アル国体ノ護持ト国威ノ発揚トニ邁進(まいしん)」との文言があり、「平和国家」はなかった。「川田嘱託原案」を内閣書記官が訂正したという記載があり、「終戦の詔書」作成にも関わった漢学者の川田瑞穂内閣嘱託が第1案の元となる案を書いたとみられる。

 第2案では「光輝アル……発揚トニ邁進」に削除を示す赤線が引かれている。「赤字ハ緒方書記官長」とあることから、緒方竹虎内閣書記官長が削ったと考えられる。連合国側の占領政策が見通せない中、国威発揚という刺激的な言葉を避けた可能性がある。

 そして第3案で、「平和的新日本ヲ建設シテ人類ノ文化ニ貢献セムコトヲ欲シ」という国家目標が掲げられる。「首相宮御訂正」とあり、東久邇宮首相自らが書き込んだようだ。東久邇宮首相は5日の議会の所信表明演説で「平和的新日本の建設の礎たらんことを期して居ります」と述べ、勅語と通じる表現を繰り返した。

 「平和国家」に決まるのは第4案。「平和的新日本ヲ建設」が「平和国家ヲ確立」に直され、「赤字川田嘱託訂正」とある。

 当時は、ポツダム宣言受諾に伴い、連合国による日本の戦争指導者の責任追及が始まろうとしていた時期で、戦犯問題などへの厳しい国際世論を意識して修正が重ねられた可能性を指摘する専門家もいる。


 私は、ポツダム宣言受諾後も、平和主義国家への転換が、当時の支配層にとって、いかに困難な大業であったかをあらためて認識させられた。しかし、一旦、このような転換が公にされると、それは意外にも現実の力となり、国民の「無意識の転向」を推し進める触媒として働き、それが支配層にもはねかえることとなる。
                          (続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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