「菊と刀」のバーター―日本国憲法第9条を考える―その7

新日本建設に関する詔書

 ついで、1946年1月1日の「新日本建設に関する詔書」、一般に天皇の「人間宣言」の名で呼びならわされている詔書を見てみよう。

 これはGHQによる、天皇の神性を剥ぎ取り、国民に親しまれる天皇をアピールする工作の一環で、1945年12月15日の神道指令の延長線上に位置づけられるものであった。
 神道指令は、学校現場から「教育勅語」や「ご真影」を排除し、天皇を現人神とする思想を否定しようとするものであった。「人間宣言」は、その趣旨を本人の言葉で語らせたのである。

 「人間宣言」の案文は、当年とって73歳の幣原首相の手になるもので、彼は、同月25日深夜に至るまで、得意の英語力を生かし、精魂傾けて推敲を重ねて作業した末、後世から名文と評される案文を作り上げた。

 幣原は、疲労困憊して床についたが、翌日になって、発熱と激しい頭痛に襲われた。急性肺炎である。この頃、急性肺炎の特効薬ペニシリンを入手することは容易ではなかったが、吉田茂外相がマッカーサーにかけあい、米軍のものを供出してもらい、幣原は九死に一生を得たのであった。そのとこのお礼のためということが、1946年1月24日の幣原・マッカーサー会談の表向きの理由とされているのであるが、なんとも人間臭い歴史のひとこまである。

 前置きが長くなったが、早速、その内容を以下に紹介する(冒頭、末尾の部分を省略。カタカナをひらがなにし、漢字を当用漢字に改めた原文と、表現を現代文に改めたものも併記する。)。


 「朕はここに誓いを新たにして、国運を開かんと欲す。 すべからくこの御趣旨(筆者注:五箇条の誓文の趣旨のこと)に則り、旧来の陋習を去り、民意を暢達し、官民挙げて平和主義に徹し、教養豊かに文化を築き、以て民生の向上をはかり、新日本を建設すべし。

 大小都市の蒙りたる戦禍、罹災者の艱苦、産業の停頓、食糧の不足、失業者増加の趨勢等は、真に心を痛ましむるものあり。然りと雖も、我が国民が現在の試練に直面し、且つ徹頭徹尾文明を平和に求むるの決意固く、よくその結束を全うせば、独り我が国のみならず全人類のために、輝かしき前途の展開せらるることを疑はず。

(中略)

 朕の政府は、国民の試練と苦難とを緩和せんがため、あらゆる施策と経営とに万全の方途を講ずべし。同時に朕は、我が国民が時難に決起し、当面の困苦克服のために、また産業および文運振興のために、勇往せんことを希念す。我が国民がその公民生活において団結し、相倚り助け、寛容あい許すの気風を作興するにおいては、能く我が至高の伝統に恥ぢざる真価を発揮するに至らん。斯くのごときは、実に我が国民が人類の福祉と向上とのため、絶大なる貢献を為す所以なるを疑はざるなり」


 「私はここに、誓いを新たにし、国運を開きたい。すべてはこの御趣旨(筆者注:五箇条の誓文の趣旨のこと)にのっとって、旧来の悪しき習慣をやめ、民意を闊達に師、官民こぞって平和主義に徹し、教養豊かに文化を築き、民生の向上をはかり新しい日本を建設しなければならない。

 わが国の大小の都市がこうむった戦禍、罹災者の苦難、産業の停頓、食糧の不足、失業者の増加などの趨勢は、まことに私の心を痛ませるものがある。しかし、その一方、わが国民が現在の試練に直面し、徹頭徹尾、文明を平和に求める決意を固くし、結束をまっとうすれば、わが国のみならず、全人類のためにも、輝かしい前途が開けることを疑わない。

(中略)

 私の政府は、国民の試練と苦難とを緩和するため、あらゆる施策と国家運営に万全の手段を講じなければならない。同時に私は、現在の苦難にあたって、わが国民が奮起し、当面の困窮を克服するため、また産業と文運の振興のため、勇気をもって進むことを心より願う。わが国民が、その実生活において団結し、互いに助けあい、寛容な気風を高めるならば、わが国の至高の伝統に恥じない真価を発揮できるだろう。このようにすれば、わが国民は、人類の福祉と向上のため、絶大なる貢献を為すであろうことは疑を容れないところである。」


 私は、先に見た「平和国家確立の勅語」と比べると、この「人間宣言」詔書は、格段の前進があるように思う。前者においては、単に「平和国家の確立」と「人類文化に寄与」が、謳われていたに過ぎないが、後者にあっては、「平和主義に徹し、教養豊かに文化を築き、民生の向上をはかり新しい日本を建設」、「徹頭徹尾、文明を平和に求める決意」、「産業と文運の振興のため、勇気をもって進むこと」、「人類の福祉と向上のため、絶大なる貢献」などが書き込まれている。ここには、単にわが国一国だけの平和主義の確立ではなく、戦争放棄の普遍的・人類的課題が謳われていると解することができる。

 ここに起草者・幣原の思想が示されていると私は見るのである。

            (続く)

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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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