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立憲君主制と象徴天皇制の間 (17)

加藤氏が、戦略情報局(OSS)関係資料の山の中から発見した1942年6月3日付陸軍省軍事情報部心理戦争課「日本計画(最終草稿)」の公式の起草者は、同課長で、当時、米国心理戦共同委員会議長のオスカー・ソルバート大佐であった。
なお、米国心理戦共同委員会とは、おそらく情報調整局(COI)が戦略情報局(OSS)と戦時情報局(OWI)とに分割改組された1942年6月3日の前後ころに、情報調整局(COI)もしくは戦略情報局(OSS)及び戦時情報局(OWI)と、国務省、陸・海軍省、連邦捜査局(FBI)やなどの米国情報機関各部署の連絡調整を行うために設置された協議機関であろう。

さて「日本計画(最終草稿)」はダイジェスト版3ページ、本文32ページからなり、その内容は、連合軍の軍事戦略の一環であり、対日戦争に軍事的勝利をおさめるため、敵の内部に矛盾を作り出し、勝ち抜くための、日本に対するプロパガンダ戦略の提言と具体的立案である。概要は以下の如くである。

ダイジェスト版

「日本の軍事作戦を妨害し日本軍の士気を傷つける」、「日本の戦争努力を弱め、スローダウンさせる」、「日本軍当局の信頼をおとしめ、打倒する」、「日本とその同盟者及び中立国を分裂させる」などと4項目の政策目標が掲げられる。
その政策目標達成のため「日本人に、彼らの政府や日本国内のその他合法的情報源の公式の言明への不信を増大させること」「日本と米国との間に、戦争行動の文明的基準を保持すること」など8項目の宣伝目的と一般的心理戦略をあげる。
これにもとづいてより個別的な11項目の宣伝目的が明記されている。

例示すると、
・日本の天皇を、慎重に名前をあげずに平和のシンボルとして利用すること
・「今日の軍部政権の正当性の欠如と独断性、この政府が、天皇と皇室を含む日本全体をきまぐれに危険にさらした事実を、指摘すること
・日本に対して、われわれが勝利した場合の、戦後の繁栄と幸福を約束すること
などである。

そして末尾に「特別に慎重に扱うべき提案」として「現時点では、神道、宗教について、天皇崇拝についても、すべて言及は避けるべきである」、「天皇については、慎重で粘り強い(しかし名前を挙げない)言及が、推奨される」、「日本の皇室についても同様な扱いがとられる」など5項目の提案がなされている。

本文

膨大な本文は以下の六部構成からなる。

1.プロパガンダの政策目標 ― プロパガンダで工作すべき直接的目標
2.プロパガンダの目的 ― 敵の心に届けられ定着するプロパガンダの要点
3.プロパガンダの論題 ― プロパガンダ目的を達成するために用いられる主張
4.作戦とテクニックについての一般的注意
5.いくつかの日本人の性格
6.特別の慎重に扱うべき提案

このうち過半を占める「3プロパガンダの論題―プロパガンダ目的を達成するために用いられる主張」において、ダイジェイスト版に見られる心理戦略の基調を根拠付ける、日本社会と日本人の要約的分析がなされている。一部抜粋すると、以下の如くである。


「日本の政府と普通の民衆との間に分裂をつくりだす」ために

明治日本のアジア侵略=拡張主義に目をつむり、明治天皇とのリーダーシップと立憲主義を強調せよと述べる。
具体的に「日本人に対して、彼らの現在の軍事的指導者たちが、明治天皇が道を拓いた行程から大きく逸脱し、現在の天皇の望むところとは正反対の道に迷い込んだことを指摘すること。明治天皇の誇り、彼の拡張主義ではなく、彼の疑似立憲主義、彼の親英感情に基づく諸政策等々が、強調されなければならない」との指針を示す。

さらに以下の諸点が利用するべきだという。

第1に天皇は満州事変に反対だったが排外主義者による暗殺が広がるのを恐れてしぶしぶ認めたこと、第2に国際連盟総会において、天皇は松岡洋右に民主大国と決裂しないよう命じていたにもかかわらず、松岡が軍部の意向に従ったこと、第3に天皇は、日独伊三国同盟に反対で、それを防げなかった後も平和を望んでいたこと。

要するに「天皇は平和のシンボル」であることを強調せよと言うのである。さらに「天皇は現在でも軍部指導者の犠牲になっていると述べること」により「シンボル=象徴」の意味が一層明らかになるとされ、「天皇は西洋の国旗のような名誉あるシンボル」であり、「軍当局の批判の正当化に用いることは可能であり、和平への復帰の状況を強めるために用いることもできるだろう」とされている。

以上のとおり、「日本計画(最終草稿)」は、冷徹な「天皇の象徴的側面」の利用価値が繰り返し強調し、それを心理戦の武器とすることを賞揚しているのである。

これは「天皇のページェント」(NHKブックス)の筆者で知られるタカシ・フジタニカリフォルニア大学サンディエゴ校教授が「新資料発見 ライシャワー元米国大使の傀儡天皇制構想」(「世界」2000年3月号)で紹介した、1942年9月14日付エドウィン・ライシャワーの陸軍省次官らへ提案した傀儡政権構想(puppet regime)メモランダムよりも3ヶ月以上も遡る象徴天皇の心理戦利用のための企画書である。

ライシャワーのメモランダムには、日米戦争勝利後にヒロヒトを中心とした傀儡政権(puppet regime)を陸軍省次官らに提言するとともに、日系アメリカ人部隊をもうけ連合国が人種差別的だと宣伝する日本のプロパガンダに対抗することも提案されていた。

その冷徹かつプラグマティックな思考に、多くの我が国国民は眉をひそめるに違いない。

しかし、「日本計画(最終草稿)」は、さらにその上を行く、荘厳な天皇と天皇制の軍事的利用作戦計画だったのである。しかも、驚かされるのはその作成日付である。1942年6月3日と言えば、我が国が誇る連合艦隊の正規空母6隻のうち4隻を失い、一気に戦局が転換することになった同月5日のミッドウェー海戦の前のことではないか。

我が国は、なんという懐の深い、巨大な国を敵としてしまったものであろうか。
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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