「必要最小限度の自衛権行使」論が市民権を得つつある現状を憂う

1 はじめに

最近のマスコミ報道を見ていると、安倍首相、高村自民党副総裁、石破自民党幹事長、北岡安保法制懇座長代理らの口をついて出てくる「必要最小限度の自衛権行使」の範囲内であるかどうかによって自衛隊の出動、戦闘参加を認めるどうかを決するとの見解が、無批判に垂れ流されている。
これは憂慮すべき事態である。

2 憲法9条2項の下で自衛隊を保持するための論理として考案された「自衛のために必要最小限度の実力」なる政府解釈の意味

自衛隊創設後の1954年12月、時の鳩山内閣は「9条は独立国としてわが国が自衛権を持つことを認めている。従って自衛隊のような自衛のための任務を有し、かつその目的のための必要相当な実力部隊を設けることは、何ら憲法に違反するものではない。」との統一見解を示したことを思い起こして欲しい。
これが自衛隊を「自衛のために必要最小限度の実力」として合憲だとする政府解釈として「定着」したのである。

もっとも政府は上記統一見解に先立って「いわゆる自衛権の限界は・・・急迫不正の侵害、即ち現実的な侵害があること、それを排除するために他に手段がないこと、さらに必要最小限度それを防御するために必要な方法をとるという三つの原則を厳格なる自衛権行使の要件と考える」(1954年4月、衆院内閣委佐藤達夫法制局長官答弁)と自衛権について厳格な枠をはめたのであった。

これは「自衛権行使三要件」と言われているが、重要なことは憲法9条の下で認められる自衛権は、この限りのものだということである。権利があるがその行使は認められないというのはおかしいではないかとは、安倍首相が使うレトリックである。その意図するところのいかがわしさはともかくとして、自衛権に関する政府見解は、憲法9条の下では上記の制約ある自衛権しか認められていないと言っているのであり、権利はあるがその行使は認めないと言っているのではない。

そこで「自衛のために必要最小限度の実力」とは、「自衛権行使三要件」により制限された自衛権を行使するための必要最小限度の実力であると読み込まなければならないことは容易に理解できるところであろう。

3 「自衛のために必要最小限度の実力」はどうなったか

「自衛権行使三要件」を箇条書きしてみると以下のとおりである。

①わが国に対する急迫不正の侵害があること 
②この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

①は、わが国に対する攻撃のおそれだけがあるということだかではだめであり、まさに攻撃が急迫もしくは現在していなければならないこと、他国や他国部隊への攻撃に反撃すること、あるいは海外の日本国民が危険にさらされているとして自国民救出のために出動しもしくは武力行使することは認められないことを意味している。

②は、たとえば外交交渉、第三国の仲介、国際機関への提訴など相手国からの攻撃回避のためのありとあらゆる手段を尽くしても攻撃を避けられず、もはやほかに方法がないという場合にはじめて認められることを意味している。

③は、攻撃部隊を領土、領海、領空から撃退することが武力行使の限界であり、過剰防衛は許されないことを意味している。

ところで故高坂正堯氏は、1964年に中央公論誌上に発表された「海洋国家日本の構想」(現在は中公クラシックスとして同名の論文集が刊行されている。)において「われわれは軍備を持つことの恐ろしさをつねに注意しなくてはならないし、今後数十年の間にそれが、まったく無意味になるように努力しなくてはならない。そのためにはつねに軍備を最小限度にとどめるよう努力すると同時に、それを他の目的に転換できるような形で持たなければならない。またそうすることは経済的にも有利である。」として、次のようなイメージを提示している。

①航空自衛隊は1964年程度の装備、陣容(因みに当時は、戦闘機部隊はF104Jの4飛行隊のみであった。)

②陸上自衛隊は、強力な師団は2個師程度にととめ、それは国連軍に転用しうるものとする。他の師団は国土建設隊的性格を強める。

③海上自衛隊は日本の周囲の海において行われる可能性のあるゲリラ活動を鎮圧しうる程度のもの。

「自衛権行使三要件」により制約された自衛権を行使する「自衛のために必要最小限度の実力」のイメージはこの程度ではなかろうか。

ところが歴代自民党政府は、「自衛のために必要最小限度の実力」なる解釈論を「自衛権行使三要件」と切り離し、これを一人歩きさせ、さらに1981年5月、「憲法第9条は、我が国が主権国家として有する固有の自衛権を否定しておらず、この自衛権の行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、同条第2項によって禁じられてはいないというのがかねてからの政府の見解であり、この自衛のための必要最小限度の実力、すなわち自衛力の具体的な限度については、その時々の国際情勢、軍事技術の水準等により変わり得る相対的な面を有することは否定し得ないものであるということも、従来から一貫して政府が申し述べてきたところである。この解釈は、今日においても全く変わりはない。なお、いかなる場合においても、この自衛のための必要最小限度という限界を超えて防衛力を増強することが許されないことはいうまでもない。」との注釈も付け加え(衆議院内閣委員会における塩田防衛局長答弁)、自衛隊の装備、編成は、どんどん拡大、強化されて行った。

自衛隊の装備・編成は、際限なく拡大、強化された結果、2012年度には、兵員数ではフランス、イギリスを上回る世界22位、戦闘用飛行機保有数では世界11位、艦艇保有数では世界3位、軍事費支出額では世界6位という強大な軍事力を擁することになってしまい(同年度国際戦略研究所IISS調査)、さらに2013年12月に策定された新防衛大綱のもとで、いっそう強化されようとしているのが現状である。

4 「自衛権行使三要件」を食い破る構え
  
さてこのように自衛隊の現状は、世界有数の戦力となったが、その自衛隊の活動は、現在も「自衛権行使三要件」により拘束を受けている。その「自衛権行使三要件」によって拘束を受ける自衛権を行使するために必要な自衛隊の装備、編成が、上記イメージ程度のものであるとすれば、現実の自衛隊は、それをはるかに凌駕する装備、編成を擁しているのである。だからあり余っている自衛隊の戦力を日米関係の強化のために自由に使えるようにしたいと安倍首相が考え、米国がこれを利用したいと考えるのも、ある意味では当然のことかもしれない。

子供は手にあるおもちゃを使い、遊びたがるものだ。

集団的自衛権行使を容認するべき根拠として、安倍首相らは、国際的な安全保障環境の変化への対応、日米同盟の対等化、積極的平和主義等、さまざまなもっともらしい説明をしているが、あり余る戦力を持つ自衛隊を有効に活用すること、これこそがことの真相を解き明かすものである。

しかし、安倍首相と自民党は、ここまで集団的自衛権の行使容認で中央突破を図ってきたが、集団的自衛権行使に反対する世論は強い、与党の一角である公明党も説得しきれないという大きなデッドロックに乗り上げてしまった。そこで彼らは事態を打開するための高等戦術をあみ出した。それは集団的自衛権なる概念を用いず、「必要最小限度の自衛権行使」なる要件で「自衛権行使三要件」を食い破り、集団的自衛事態における自衛隊の出動、武力行使も「必要最小限度の自衛権行使」の範囲内であると言いつくろおうというものだ。

5 今こそ「自衛権行使三要件」を

だましの手口を見破らなければならない。だましの手口を暴露しなければならない。そして今こそ「自衛権行使三要件」を再確認する必要がある。
マスコミは、政府側、自民党側、或いは安保法制懇のスポークスマン・北岡氏から「必要最小限度の自衛権行使」なる言い回しがなされたときには必ず「自衛権行使三要件」を対置し、説明するべきである。それを怠ることは彼らのだましの手口に手を貸すことになる。これからがせめぎ合い本番である。
                                   (了)
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プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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