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「二つの西山事件」・権力はここぞというときに牙をむく

1 はじめに

特定秘密保護法が成立してから5ヶ月経過した。政府は、施行に向けて着々と駒を進めているが、これに反対する野党側の動きがなかなか見えてこない。日弁連をはじめ国民各層の運動も、一服状態のようにも見える。今ひとたび、廃止もしくは抜本的改正の大きな声をあげなければ、安倍政権の強攻策が功を奏してしまうことになる。
今は胸突き八丁、自らも含めて気合を入れなおさなければならない時ではなかろうか。

ところで特定秘密保護法の本当の恐ろしさは、逆説的ではあるが、それがあらゆる「秘密漏えい」もしくは「秘密不正取得」の事案に無差別に適用されるのではないというところにあるのだ。

特定秘密保護法が普段から全ての事案に無差別に適用されるのであれば、国民もマスコミも、常にこれに反対する声を上げ、世論をたかめて悪法撤廃の運動が途切れることなく続くことになる。それは、ついには政府を追い込み、政権交代にまで至らしめることになる。そのようなことは愚の骨頂である。

そこで賢い政府は、普段は刀を鞘に大切に納めて、めったにこれを抜こうとはしない。雑魚を獲ってもしょうがない。多くの小さな社会的影響のない事案は見逃してやればよい。賢い政府は、そのように考えるだろう。
切れ味鋭い刀は、使うにふさわしいときにだけ使えばいい。実は、特定秘密保護法が、存在するだけで、十分に、公務員にも、国民にも、またマスコミにも萎縮させるに足りる威嚇効果が及んでいるのだ。

そして権力はここぞというときに牙をむく。そのことを示す好例が、二つの西山事件である。二つの西山事件とは、憲法改正案スクープにかかる取材活動、もう一つが沖縄返還協定にかかる取材活動(事件)である。

2 憲法改正案スクープにかかる取材活動

1946年2月1日、毎日新聞朝刊は、当時、政府が設置した憲法問題調査委員会が検討していた憲法改正草案をスクープした。これは同委員会が検討していたいくつかの案のうちの一つで、一番ましだといわれる宮沢甲案といわれるものであった。しかしそれでさえも「第1条 日本国は君主国とす」、「第2条 天皇は君主にしてこの憲法の条規に依り統治権を行う」などと、天皇主権を定めており、毎日新聞の記事中でも「あまりにも保守的、現状維持的のものにすぎないことを失望しない者は少ないと思う」と厳しい批判がなされていたほどであった。
この報道をきっかけとして日本政府に草案を提出させることなく、先にGHQ草案作成を作成して日本政府に交付したこと、GHQ草案をもとに日本国憲法制定されることになったことは周知のとおりである。

このスクープをしたのが西山柳造記者である。同記者は、後に次のように取材の顛末を説明している。

「誰もいない首相官邸1階の憲法問題調査委員会の事務室の机の上に放置された草案の冊子を社に持ち帰って大急ぎで手分けして筆写したうえ、約2時間後に誰もいない事務所に戻り、元の机に返した。」

この件が、当時、秘密漏えい事件もしくは違法又は不正な取材活動事件なりとして問題にされた形跡は全くない。スクープ記事が載ったのは2月1日朝刊だから、西山記者が「誰もいない」憲法問題調査委員会室に立ち入り、草案の冊子を失敬したのは、その前日、木曜日の午後のできごとであろう。このようなことを誰にも見咎められずにできるなどとは到底考えられない。だから憲法問題調査委員会の事務局担当者らの関与があったとしか考えられない。
当時の官吏服務規律(明治20年勅令39号)には、秘密漏えいの禁止規定はあったがこれを処罰する規定は置かれていなかった。しかし、官吏服務規律違反で懲戒処分はあり得た筈。また取材活動も住居不法侵入を問うことができたかもしれないし、少なくとも毎日新聞社への抗議、警告くらいはできたであろう。何もなされていないのは、まことに不思議なことである。

3 沖縄返還協定にかかる取材活動

故佐藤栄作首相は、1971年6月17日、沖縄返還協定調印にこぎつけた。佐藤首相は、沖縄の核抜き・本土並み返還をかち取ったと誇らかに国内外に宣言した。
ところがその裏でとんでもない密約を取り交わしていたことが発覚した。一つは、緊急時の核持ち込み容認と朝鮮半島有事に際し、沖縄の基地を自由使用できるという事前協議条項(60年安保条約に付随する岸・ハーター交換公文)をスルーする密約、もう一つは沖縄返還による基地再編のための費用や過去の基地使用に伴うさまざまな補償金などの支払いに関する密約である。

毎日新聞の西山太吉記者は、親密な関係にあった女性外務事務官を通じて、後者の密約の一部である軍用地復元補償費400万ドルの支払いに関する密約の存在を示す極秘外務省公電の写しを入手した。
米国側は、沖縄の施政権返還に関して一切米側負担なしという強硬な姿勢をとっていた。一方日本側は、軍用地復元補償費は地位協定上からも過去の経緯からも米国側負担であることは譲れないとの主張を繰り返していた。そこで日本側は、窮余の一策として、表に出る沖縄返還協定においては米国側が軍用地の復元補償費用として400万ドルを自発的に支払うことを確認する、しかし裏約束でその400万ドルを日本政府が負担することを確認することとした。こうしてできたのが上記密約である。

当時、佐藤首相は、沖縄返還協定を調印し、これを手土産に参議院選挙を有利に戦うという政治日程を組んでいた。だから沖縄返還協定の早期調印にこぎつけたいが、さりとて米国側が負担するのが当然である軍用地復元補償費を、日本側の負担にすることを認めてしまえば、国民から大きな批判を受け、選挙戦にマイナス要因となる。そこで上記の如きトリックを使ったのである。

西山記者は、これは国民を欺瞞するやり口であると考え、入手した極秘公電の写しに基づき、同年6月18日、毎日新聞に3500字ほどの長文の署名入り記事を書いた。もっとも西山記者はその中では露骨に密約を公表するのではなくその存在を示唆するにとどめ、佐藤内閣自らが国民に説明するように仕向けたのであった。

しかし、国会では、野党の密約追求に対し、佐藤首相、福田赳外務大臣らは、ノラリクラリ答弁でシラを切り通した。そこで野党議員は、仲介者を介し西山記者から間接的に入手していた外務省公電文書写しを動かぬ証拠とばかりに、これを突き付けた。それが翌1972年3月。一旦、守勢にまわった佐藤首相は、直ちに反撃を開始、同年4月初め、漏えい元の女性外務事務官と西山記者を逮捕させ、ここに日本の言論史上に残る西山事件が始まったのであった。

西山事件は、奇妙な展開を遂げる。

共同被告人である女性外務事務官は、逮捕後数日して自白を始め、態度を一変、西山記者を攻撃する立場にまわった。公判でも検察側に協力して西山記者を攻撃した。検察側は、女性外務事務官を利用し、同女を一方的な被害者に描きだし、西山記者は情交関係を利用し、同女を強要し、極秘公電文書写しを交付させたとして、取材の手段・方法の不当性を主張・立証した。

一方、西山記者側は、取材源の秘匿ができず、女性外務事務官に大きな苦痛を与えたとの自責の念から、一切、こういう主張・立証に反撃をせず、密約の存在を示す外務省公電文書は秘密として保護されないものである、取材活動は憲法21条の表現の自由・知る権利に不可欠であり、正当業務行為として違法性が阻却されるとの主張・立証に絞った。


西山記者に対する判決は、一審無罪、控訴審逆転有罪(懲役4月、執行猶予1年)、上告審は上告棄却で、有罪が確定した。

西山事件最高裁判決(1978年5月31日)は「(報道機関の取材活動は)それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会通念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為だというべきである」が、「(報道機関の取材活動が)一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、(略)一般の刑罰法令に触れないものであっても、(略)法秩序全体の精神に照らし社会通念上是認することができない態様のものである場合にも正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる」との判断を示し、検察側のストーリーを採用、西山記者の取材方法を社会通念上是認できないものだと断定したのであった。

西山事件は、ある黒いプロデューサーによって、女性外務事務官は一方的な犠牲者である⇒西山記者は当初から機密文書を取得する目的でH事務官と情交関係を持ち、その後も拒絶できない状態のH事務官をあやつり、機密文書を人倫に反する方法で取得した⇒よって西山記者の取材活動は著しく不当であった、とのストーリーがつくられた。

ある黒いプロデューサーとは誰か。それは時の政府である。

4 まとめ

二つの西山事件、一方は諸般の事情を勘案して摘発されなかったが、他方は、権力の虎の尾を踏んでしまったために摘発された。

その結果、西山太吉記者にも、毎日新聞にも、その後のマスコミ取材にも計り知れない被害を与えた。権力は、時と場合を考え、狙いすまして刀を抜く。

                                    (了) 

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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。
「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう。」

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