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特定秘密保護法は廃止しかない―歴史に学びつつ― (3)

3 ターゲットは一般国民である

(1)軍機保護法の適用状況から

軍機保護法の制定過程で、政府委員は「狙いどころは他から来るところのスパイ、極めて稀に本邦人が彼らから唆されてそういうことをやる、ある極めてごく少数の一部、この一、二の欲望のために犯す、こういうのでございまして、他の国民全部は、この味方であり、全力を挙げて国家の不利なることは防ぐという日本国民の特性を十分信頼しての案でございます」と胸を張った。

にもかかわらず帝国議会衆議院軍機保護法改正法律案特別委員会はその濫用を懸念して「本法において保護する軍事上の秘密とは不法の手段に非ざれば之を探知収集することを得ざる高度の秘密なるを以て政府は本法の適用に当たりては須らく軍事上の秘密なることを知りて之を侵害する者のみに適用すべし」との附帯決議をし、歯止めをかけようとしたたのであった。

しかるに、軍機保護法は、いったん成立し、施行されるや、こんなことには頓着なく一人歩きを始め、一般の善良なる国民に激しく襲いかかった。政府委員の言明や議会の附帯決議はなんと虚ろに響くことか。

統計資料や具体的な事例がそのことを証明している。

特高警察は、些細な事件で引っ張る、素直に頭を下げれば厳重説諭して帰す、しかし反抗的ないし日ごろの素行芳しからざる者は立件が無理な事案であっても身柄拘束して強引な取調べをして検事局に送致する、検事局は多くは不起訴とするが、特高警察のてまえ不起訴ばかりにはできず一部は起訴する、しかし、もともと些細な事件であるから有罪判決はごく少数に終わっている。
また特高警察は、敵国人がからんだ事件では、そもそも法違反が疑わしくても、徹底的に拷問を加え、重大犯罪事件に仕立て上げた。

具体的な事例を見てみよう。

① 北海道の電力会社員A(当時33歳)が、北海道某駅構内待合室で、偶然、北海道某村住民40数名に対する召集令状が上級官庁職員から某村職員に交付されたときの状況を目撃、それを友人に話した。「偶然の原因により軍事上の秘密を知得領有した者がこれを漏えいした」(軍機保護法5条。法定刑は6月以上10年以下の懲役)にあたるとして検挙され、検事局に送致されたが不起訴(起訴猶予)となった。

② 福井県の漁協役員B(当時54歳)が、舞鶴湾外の冠島に設けられた軍事施設を偶然発見、これを漁協組合長らに話した。上記同様軍機保護法5条違反として検挙、起訴され、懲役6月の刑に処せられた。

③ 大分県の無職C(当時28歳)が、走行中の列車内から海軍航空隊所属施設を撮影した。「軍事上の秘密を探知収集した」(軍機保護法2条。法定刑は6月以上10年以下の懲役)にあたるとして検挙、起訴され、罰金30円の判決を受けた。

④ 広島県の船員D(当時28歳)が、航行中に呉軍港に停泊中の艦船等を、個人的興味から日誌に記載した。上記同様軍機保護法2条違反として検挙され、検事局に送致されたが結果は不起訴(起訴猶予)となった。

⑤ 大阪の船員E(当時54歳)が、門司海軍武官より交付を受けて保管していた図書を、某駅構内に不注意により置き忘れた。「業務により軍事上の秘密を知得領有者した者が過失によりの漏えいした」(軍機保護法7条。法定刑は3年以下の禁固亦は3000以下の罰金)として検挙、起訴され、罰金300円の判決を受けた。

⑥ 最後は有名な宮沢・レーン事件。少し詳しく事件紹介をしよう。

宮沢弘幸(1918年8月8日生)は、北海道帝国大学工学部生、柔道部に所属する剛毅で健康そのものというべき人であった。1941年夏、単身、灯台監視船羅州丸に便乗して千島諸島をめぐる旅行をした。その帰途の汽車で、たまたま乗り合わせた乗客から、根室には海軍飛行場施設とそこの指揮官は兵曹長であるとの話を聞いた。
旅行から帰った宮沢は、北大予科時代から英語を教えもらい交流のあった外国人講師ハロルド・レーン及びその妻ポーリン・レーン(いずれも米国人)に会い、見たまま、聞いたままに旅の土産話をした。その中に際に汽車の中で聞いた根室空港の話にも及んだ。

なんとこれが重大スパイ事件仕立て上げられ、日米開戦当日の1941年12月8日、強制捜査が始まったのである。

宮沢は、「軍事上の秘密を探知収集し、かつ漏えいした」罪(軍機保護法4条2項。法定刑は無期若又は2年以上の懲役)に犯したとして逮捕された。そして、札幌、夕張、江別警察署で特高警察の手により「逆さ吊り」の拷問を伴う激しい取り調べを受け、筋書き通り自白させられた。

一方、レーン夫妻は、宮沢から聞いた話を米国大使館駐在武官に伝えたなどと虚偽の事件をでっち上げられ、「軍事上の秘密を探知収集し、かつ外国へ漏えいした」罪(軍機保護法4条2項。法定刑は死刑又は無期若しくは3年以上の懲役)を犯したとして逮捕され、これまた特高警察の手により激しい拷問を伴う取り調べがなされ、これまた筋書きどおり自白させられた。

驚くべきことに宮沢は懲役15年、ハロルド・レーンは懲役15年、ポーリン・レーンは懲役12年の刑に処せられてしまった。

問題になった根室の海軍飛行場は実は世間に広く知られた存在であった。たとえば1931年、リンドバーグの太平洋横断後の着陸地として世界中に報道されたし、1940年発行の大阪毎日・東京日日新聞社編の「ニッポン世界一周大飛行」に随所に書かれていた。また1934年、根室の地域新聞「根室日報社」が発行した新聞紙に添付された変わり絵はがき「根室千島鳥瞰図」(縦約15センチ、横約50センチのカラー印刷で、はがき状に折りたたんで添付されてあった)にも明記されていた。ほかに根室駅や土産物店などで広く売られていた絵はがきや根室町(当時)が1933年に発行した「根室要覧」(自治体の要覧)にも記載されて住民に広く知られていた。
レーン夫妻も、宮沢が話した根室空港はリンドバーグの着陸地点としてかねて知るところであったと供述している。

だから客観的にみて、そもそもこれが「軍事上の秘密」にあたるという認識を持つことを期待することはできないものであったのである。

さらに問題であったのは、宮沢は、汽車の中で乗り合わせた客が話すのをたまたま聞いただけであるから、探知収集したわけではない。ましてや上記附帯決議にいう「本法において保護する軍事上の秘密とは不法の手段に非ざれば之を探知収集することを得ざる高度の秘密なるを以て政府は本法の適用に当たりては須らく軍事上の秘密なることを知りて之を侵害する者のみに適用すべし」に照らせば、探知収集罪に問疑すべき行為は存在しなかったのである。

このような恐るべき猛威をふるった軍機保護法の下で、一般の善良なる国民は、災いを避けるために、自ら耳や口を塞ぎ、ただひたすら大本営発表を信じるばかりの境地に追い込まれた。軍機保護法が実際に示したこのような効用は、本法に関しても決して忘れてはならない。 

(2)「一般の人は『特定秘密』に触れることはありません」は本当か
  
政府・自民党は、本法は一般の人を対象にするものではないかの如き趣旨の答弁、説明をした。
それが特定秘密取り扱い業務者など特別の地位・職務にある人の特定秘密漏えいのみを対象とし、一般市民はそもそも処罰対象とはならないという意味であれば、法24条、25条に明確に反する。よって虚偽答弁、虚偽説明である。
またそれが善良な一般市民は、本法で規定する犯罪行為をなすことは想定されていないという意味であれば、既に述べた軍機保護法の経験に照らし、にわかに信じるわけにはいかない。

具体例を見てみよう。

自民党のWEB版ニュース「The Jimin NEWS」No167(ニュース167)という。)は、以下のケースをとりあげて、「このような場合A子さんが処罰の対象となることはありません」と断じている。しかし、これは空手形である。

A子さんとB男さんは大学時代の同窓会で再会した。A子さんから「今何しているの」と尋ねられ、B男さんは「防衛産業で・・・」と近況報告を始めた。
「もっと聞かせて」とA子さんに促され、酔ったB男さんは「ミサイルを研究していてね。実はあまり知られていない話だけれど」と続けた。数年前、北朝鮮から発射されたミサイルが途中で失速して海に落ちたが、「もし失速していなかったらこの辺に落ちていたかもしれないよ」と披露。
 翌日、A子さんはブログに「同窓会で再会したB男さんビックリする話をしてくれた」と書き込んだ。ある防衛マニアがブログを見て、「ミサイルの飛ぶコースを推測して描き、ネット上で拡散させた」

B男さんは防衛省からミサイル関連業務を委託された防衛産業の勤務先で、北朝鮮のミサイルの軌道計算もしくは関連の業務に従事し、落下地点の予測情報を知得していたこと(特定秘密取り扱い業務者であること)及び対象となる情報は、法・別表1のロ、ハにより、特定秘密に指定されること(安倍首相が参議院特別委で「ミサイルの軌道計算を民間にやってもらうことはある。そこには守秘義務がかかる。」と答弁している。)ことが前提である。

このケースで、警備公安警察が、牙をむいたとしよう。彼らにとっては、A子さんを犯罪者に仕立て上げるのはいとも簡単なことなのである。

まずB男さんが、本法において、特定秘密漏えい罪に該当し、10年以下の懲役(情状により10年以下の懲役及び千万円以下の罰金)に問われることになるだろう。
一方、A子さんは、酒に酔って調子に乗ったB男さんに「もっと聞かせて」と促し、情報を取得したことが「特定秘密漏えい教唆」(もしくは「特定秘密不正取得」)にあたるかどうかを検討することになる。
上記ニュース167はA子さんに問題の情報が特定秘密であることの認識がないから「故意」がないと安易に断定をしている。しかし、これは捜査過程で「故意」がどのように自白させられているか、或いは刑事裁判において「故意」がどのようにして認定されるのかという捜査、裁判実務を全く無視した子供だましの議論である。

「故意」には確定的故意と未必の故意がある。たとえば人を包丁で刺した場合、「殺害することまでは考えていませんでした」といくら弁明に努めても、使用凶器が刃体の長さ30㎝の刺身包丁で、腹部を刺したとなれば、「腹部を刺せば死ぬかもしれないとは思いましたが、怒りにまかせてどうでもいいやと思って刺しました。」などという自白をとるのは捜査官のお手のものである。

裁判になってから争っても裁判所は、「殺害する」との確定的故意は認めなくても「刺せば死ぬかもしれない」との認識・認容はあったとして、未必の殺意を認定してしまうのである。

突然の逮捕、あるいは逮捕ではなくとも警察署に呼び出され、警察官からの取調べで、A子さんは動揺し、追い詰められている。警察官によって、B男さんが酔っているのを幸いにもっと聞かせてと促し、北朝鮮ミサイルの落下地点の話を聞き出したのだろうと追及される。B男さんは防衛産業に勤務していること、北朝鮮のミサイルの落下地点などということは新聞、テレビでも一切報道されておらず、ミサイル破壊命令が出ているかどうかも防衛省は秘匿していると新聞で報道されていたことなどを捜査官から示唆される。

警察官がA子さんに、「これは我が国の安全保障にかかわる重要な情報であり、ひょっとすれば特定秘密に指定されているかもしれないということはわかりました。それでも抑えきれず、B男さんが酔っているので話を続けさせようと思いました。」というようなことをA子さんに自白させることはいとも簡単なことである。裁判所もその自白を認めてしまうことは十分に考えられる。

そうするとA子さんは、「特定秘密漏えい教唆」に該当し、5年以下の懲役刑に問われることになる。(状況によっては「我が国の安全を害する目的」があったと認めさせられて「特定秘密不正取得罪」にあたるとされるおそれもある。その場合には10年以下の懲役もしくは情状により10年以下の懲役及び千万円以下の罰金))に問われることになる。

仮に、幸運にして、A子さんの犯罪が不成立であっても、A子さんは被疑者として、或いはA男さんの重要な参考人として厳しい取り調べを受けることであろう。

軍機保護法の恐ろしい歴史から学ぶべきことはこういうことなのだ。本法もきっと善良なる一般国民に襲いかかるであろうこと、ゆめゆめ忘れてはならない。
                            (続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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