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韓国・ソウル中央地方法院の慰安婦訴訟判決を受けて

日本政府・外務省は傲慢ではないか

 共同通信社は、次のように速報しています(2021/01/08 12:34)。

――韓国のソウル中央地裁は8日、故人を含む旧日本軍の元従軍慰安婦の女性12人が日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、請求通り1人当たり1億ウォン(約950万円)の支払いを命じる判決を言い渡した。日本企業が賠償を命じられた元徴用工訴訟に続き、1965年の日韓請求権協定で韓国人の個人請求権問題は解決済みだとの日本側主張を覆す韓国の司法判断が出た。
 日本政府は反発を強めており、外交関係は一層悪化しそうだ。政府は8日、韓国の南官杓駐日大使を東京都内の外務省に呼び抗議した。外務省幹部は「国際法的にも常識的にも、あり得ない判決だ」と話した。――

 日韓請求権協定で個人請求権は解決済みだという論点については、別途論じるとして、この判決は、韓国の裁判所が日本国を被告とする裁判で日本国に損害賠償を命じ得るのかという国際法上の重要な争点について、積極説をとることを明らかにしたもので、国際法上画期的な意味を持つものと言えるでしょう。この論点に関して、以下、若干解説してみたいと思います。

 いうまでもないことですが、現在の国際社会は、各主権国家により構成されています。ですから、ある国の主権は他国には及ばないのが原則だと考えられています。もしある国の主権が他国に及ぶとしたら、その他国は保護国とみなされ、その究極は植民地で、主権国家ではなくなります。
 日本とアメリカとの関係は、法的には条約や政府間合意、それに基づく協議等という形をとっていますが、政治、経済、外交、軍事の各場面でアメリカの主権的意思が貫徹しており、事実上、日本はアメリカの保護国だと見ることも可能かもしれません。

 ところで、国際法において、主権国家は、他国の裁判権に服することはないという国際慣習法があると言われています。これを「主権免除」の法理と言い、ある国の主権は、他国には及ばないという原則の一適用場面であると考えられてきました。

 しかし、たとえばA国の領域内で、B国の軍隊や公務員などがB国の指揮命令の下に任務遂行中に犯した不法行為について、A国の裁判所は、B国の責任を問えないというは不都合ではありませんか。「主権免除」の法理は無制限だと考えるとすれば、国際法の根底にある正義・公平の観念に反することになる場面もあるのではないでしょうか。

 この問題について、わが国の裁判実務では、他国内での活動を「権力行為」と「非権力行為」に分け、「主権免除」の法理の適用範囲を前者についてのみ認め、後者については認めない、というのが裁判例となっています。

 戦後の国際社会で、この問題が大きな論議を呼んだ事件があります。イタリアの「フェリーニ事件」とギリシャの「ディストモ」事件です。いずれも第二次大戦中、ドイツ軍が犯した戦争犯罪に関する事件です。

 「フェリーニ事件」は、イタリア国内からドイツ軍に連行され、ドイツで強制労働をさせられたイタリア人元捕虜が、イタリアの裁判所に、ドイツを被告とし、損害賠償を求めて提訴した事件です。このケースで、イタリアの破毀院(わが国の最高裁に相当する裁判所)は、2004年3月、被告ドイツに対し、原告らに賠償を命じる判決を下しました。
 「ディストモ事件」は、ギリシァのディストモ村のドイツ軍による民間人殺戮の被害者遺族が、ギリシャの裁判所にドイツを被告として損害賠償を求めて提訴した事件です。このケースで、2000年5月、ギリシャ最高裁判所は、被告ドイツに対し、原告らに賠償を命じる判決を下しました。

 ドイツは、「フェリーニ事件」で、国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、イタリア破毀院判決は、「主権免除」の国際慣習法に反すると主張しました(ギリシャも利害関係人として訴訟参加)。ICJは、2012年2月、ドイツの訴えを認め、イタリア破毀院の判決は、「主権免除」の法理に反すると判断しました。

 この裁判では、イタリア、ギリシャは、「主権免除」の法理は、無制限ではないとして、以下のような主張をしました。

 ①法廷地国の領域内における外国の不法行為によって法廷地国の住民が生命・身体・財産の損害を被った場合いには「主権免除」を認めないというのが現在の国際慣習法である(「領域内不法行為例外の慣習法」)
 ②国際人道法や強行法規違反の重大な人権侵害については「主権免除」は適用されない。
 ③「裁判を受ける権利」が実質的に保障されない限り「主権免除」は適用されない。

 ICJ判決は、これらの点について以下のように判断しました。

 ①について・・・「不法行為例外の慣習法」には直接言及せず、「武力紛争の遂行過程」における行為については他国の領域で行ったとしても「主権免除」の対象となるとした。
 ②について・・・国際人道法違反と強行法規違反にわけて、各国の裁判や立法その他の国家実行を分析し、これらを「主権免除」から除外する国家実行は慣習法化していないとした。
 ③について・・・「裁判所は、主権免除の享受は補償を確保するための有効な代替手段の存在にかかっているという慣習国際法を導くことができる国家実行を見出すことができない。」とした。
 もっとも②については、2001年、欧州人権裁判所大法廷判決で、国際人道法又は人権法に対する重大な侵害に関する場合には、国家はもはや「主権免除」を享受できないという主張を9対8の僅差で排斥したことに言及していますし、③については「裁判所は国際法によるドイツの裁判権からの免除が、関係するイタリア国民に対する法的補償を不可能にする可能性があることを認識しなかった訳ではない。」、「しかしながら、・・・イタリア国民の請求は、この問題の解決の見地から行われる今後の2国間交渉の主題となるであろう。」と述べるなど、ICJは、この判断の妥当性に対する疑念、ためらいを抱いていると見ることもできるかもしれません。

 このICJ判決は、そのようなためらい、疑念の表明とあいまって、以下の理由で、破られる可能性があると考えられていました。第一、「不法行為例外の国際慣習法」に関しては「武力紛争の遂行過程」における行為に限定しており、射程範囲が限定されると考えられること。第二、国際人道法違反や強行法規違反など重大な人権侵害行為は主権免除の対象とならないという学説が国際法学において地歩を固めつつあり、この判決が指摘するように欧州人権裁判所の判断も流動的であること。第三、判決も認めるあらゆる法的救済の可能性を否定する結果になることのすわりの悪さ。

 イタリアでは、その後、2013年1月、ICJ判決を受け入れ、同種事件についてイタリアの裁判管轄を否定する法律が制定されましたが、イタリア憲法裁判所は、2014年10月、この法律を違憲とする判決を下しています。

 このよう「主権免除」の法理は流動的であったと言ってよいと思います。今回の韓国のソウル中央地方法院の判決は、この流れを沿ったもので、国際法上、十分射程圏内に入っていたものだと言ってよいでしょう。それにもかかわらず日本政府・外務省は「主権免除」の法理に安住し、何らの応訴行為もしていなかったのです。日韓請求権協定により解決済みと言うなら、やはり応訴行為を通じて、その主張を尽くすべきだったでしょう。傲慢だったというほかありません。(了)

 ※1月9日付の各朝刊の報道によると、ソウル中央地方法院は、上にあげた第一~第三の全ての理由を展開し、ICJ判決に従わず、「主権免除」の法理の適用を制限したようです。「主権免除」を無視した判決だと息まいている人もいるようですが、国際法を少しは勉強して頂きたいと思います。
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*天皇の土下座謝罪行脚促進*

平常時においても人民の人権を平然と侵害している人非人の日本の税金ドロボウ下僕公務員が、日本国憲法前文の「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」主権者人民の意志を、蹂躙しているので、[公務員の人権6分限法]を制定しなければならないのですが;

日本の税金ドロボウ下僕公務員が、過去に侵略した他国で犯した組織的反人道的犯罪行為(慰安婦問題)に対する損害賠償金たかが、1人金950万円による容赦を、経済大国日本が拒否する理由は、日本の象徴・天皇による韓国、北朝鮮、中國への土下座謝罪行脚を促進しているからである。(以下も参照して下さい。<食人職業人>の人権を制限せよ! https://plaza.rakuten.co.jp/shukensha/diary/202009250001/
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深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイア。2018年1月、弁護士登録抹消の請求が承認され、41年間の弁護士生活にピリオドを打ちました。
‶これからも社会正義の話を続けよう”

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