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PCR検査、広島県の新たな挑戦

PCR検査、広島県の新たな挑戦

 PCR検査を感染抑止のための道具として有効適切に活用しようとすることを頭ごなしに非難する人がいます。そのような人の中には、医療機関・高齢者施設等などに無差別・定期的に社会検査を実施するという世田谷方式をやり玉に挙げている人がいます。世田谷区は、10月からこういう方針により大量検査を実施しているのに、感染拡大はおさまらないどころか新宿区よりひどいではないかと。しかし、世田谷区は、10月から実施を打ち出していましたが、実際には、難航し、ようやく1月13日から実施みとおししとなった段階に過ぎません。

 TOKYO MX放送は1月6日、以下のように報じました。

――東京・世田谷区は新型コロナウイルス検査について、4人の検体を1つにまとめて検査する「プール方式」と呼ばれるPCR検査を1月13日から始めます。プール方式の導入は東京都内で初めてです。
検査対象となるのは、症状のない高齢者や障害者施設の職員ら約1万5400人です。PCR検査はこれまで1人分を1検体として検査していましたが、世田谷区が始めるプール方式では4人の検体をまとめて試験管に入れて検査します。反応がなければ1度にまとめて「陰性」と判断でき、検査時間やコストの削減が期待できます。まだ国の検査方法としては認められていませんが、都内の感染者が急増する中、世田谷区の保坂区長は「1人が感染して、そこを検査して疫学調査するという方式はもう物理的限界に差し掛かっている」と意義を訴えています。
(中略)
 プール方式の実施が遅れてきた理由として、厚生労働省がプール方式の精度を疑問視し「行政検査」として認めてこなかったことが挙げられます。このため、検査費用は全て世田谷区の負担となり、なかなか実現できませんでした。今回、東京都から助成金がもらえることになり、ようやく1月からスタートすることになりました。――

 政府・厚労省は、こういう先駆的な取り組みを支援せず、むしろ妨害していたのです。世田谷方式は感染抑止にはならないなどという主張は、政府・厚労省の妨害と一体となって世田谷区の先駆的取り組みをバッシングするデマ、フェイクの類です。一部にせよリベラルな人がこんなフェイクに加担していることは嘆かわしい限りです。

 新型コロナウイルス感染症対策分科会は、昨年7月16日、無症状ながら感染者との接触や周辺での流行状況などから感染の可能性がある人(=事前確率の高い人)など、医学面や感染対策面から必要と思われる人には、積極的にPCR検査を行うべし、という提言をまとめました。しかし、無差別にPCR検査を実施することは適切ではないとしました。

 尾身茂会長は、そのように限定した理由として以下のように述べています。

① イギリスの医学者らが、昨年6月、医学誌ランセットに発表した研究論文では、発症時に自ら自宅待機するだけで実効再生産数(1人の感染者が平均して感染させる人の数)を約30%低下させることができる一方、人口の5%に毎週検査を行い、陽性者を隔離したとしても、実効再生産数は2%しか低下しないと報告されている。

② 人口10万人:0.1%の人が感染、PCR検査の感度70%(感染者を陽性と判定する確度)、特異度99.9%(非感染者を陰性と判定する確度)と仮定して、無差別にPCR検査を実施した場合、

 感染者のうち、陽性と判定される者は70人、陰性と判定される者は30人(偽陰性)、非感染者のうち陽性と判定される者は100人(偽陽性)、陰性と判定される者は99800人、従って陽性的中率(検査陽性者のうち本当に感染している者の割合)は、約41%(70/170)に過ぎない。陽性的中率は検査前確率が低くなるほど低くなる。

 しかし、①の研究論文は、数学的モデリング研究によるもので、実地にあたり検証されたものではなく、また条件設定如何によって大きく変化する可能性があります。従ってあくまでも一仮説として参考に供するものではあっても、これを現実の検査指針に直ちに反映させるべきものではありません。また②についても、尾身会長は、広く喧伝されている特異度99%を用いず、99.9%で試算していることからもわかるように、特異度なるものは科学的実験によって確証されているものではなく、これまた一仮説に過ぎません。勿論感度についても同様です。従って、こういう数値を実際の検査指針に直ちに反映させるべきものではありません。

 分科会の提言は根本的に見直されるべきだと思います。

 もっともこう言ったからと言って、PCR検査万能主義に陥り、感染対策を全てこれで塗り固めるのも極論過ぎるでしょう。PCR検査の実施(臨床診断の道具としてではなく感染対策の道具としてのPCR検査の実施)は、感染が生じる場面を少なくする一つの方策に過ぎません。また尾身会長が挙げている論拠は、仮説にせよ、これらはフェイクではなく、完全に無視するわけにはゆきません。

 そこで、どこでバランスをとるかですが、私は、以下のような条件のもとに、PCR検査を、感染蔓延が想定される地域に集中的に実施する、また感染リスクが高く、感染者が発生した場合に大きな重大な影響が生じる医療機関、高齢者施設及び障がい者施設などに無差別・定期的検査を実施する、という方針をとるべきだと思います。

①検査に応じるかどうかはあくまでも任意であることをはっきりさせる。
②また陽性判定者に対する対応・措置も本人の同意があることを条件とする。協力した人には休業等の補償をきちんとする。
③今まで行ってきた追跡調査、これは遡り(レトロスペクティブ)と前向き(プロスペクティブ)の両面をきちんと実施する。
④そのために、保健所増設、保健師の必要数確保に直ちに取り組む。これはGOTO予算や軍事費を削れば簡単にできることです。

 広島県は、きのう15日、新型コロナウイルスの感染が拡大している広島市の中心部4区の全住民と就業者を対象に、無料のPCR検査実施を検討していると明らかにした旨報じられています。一部の冷笑家が、早速、批判していますが、私は、そのような冷笑家とは違い、広島県の取り組みが、新たな地平を切り開くことになることを願うものです。(了)
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Re: PCR検査(世田谷方式)

小寺先生 コメントありがとうございました。

ご案内のあった世田谷区長のインタビュー動画、是非拝見いたしたいと思いますのでよろしくお願いします。
プロフィール

深草 徹

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2018年1月、弁護士リタイア。41年間の弁護士生活にピリオドを打ちました。深草憲法問題研究室
‶これからも社会正義の話を続けよう”

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