安保法制懇報告書を読む (7)

 そろそろ食傷気味になっている方もきっとおられるであろう。書いている本人も、いささかうんざりしてきているのだから。しかし、ここで手抜きをせず、最後まで続けようと思うので、是非お付き合いを。

1 10類型の具体的事例

 報告書は、確立している政府の9条解釈論(繰り返し述べている政府見解二本柱、及びそこから当然派生する専守防衛論と集団的自衛権否定論、海外派兵禁止論、PKO五原則、周辺事態対法やテロ特措法における後方支援にかかる武力行使と一体不可論等。以下同じ。)に、さまざまに揺さぶりをかけようとしているのだが、一向に効き目がないことはこれまで見てきたとおりである。
 そこで、ままよ、とばかりに持ち出してきたのが、前回報告書に盛られた4類型、今回新たに追加された6類型、合計10類型の具体的事例への対応の必要性という切り口である。この10類型、煩をいとわず書き出してみよう。

① 公海における米艦の防護
② 米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃
③ 国際的な平和活動における武器使用
④ 国連PKOなどに参加している他国の活動に対する後方支援
⑤ 近隣国有事の際における船舶検査活動、米艦等への攻撃排除及び支援活動
⑥ 米国が武力攻撃を受けた場合の攻撃国に対する反撃
⑦ わが国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域の機雷封鎖への対処
⑧ 国際秩序に重大な影響を及ぼす武力攻撃発生時の国連決定に基づく活動への参加
⑨ わが国領海を潜没航行する外国潜水艦への強制措置
⑩ 海上保安庁の巡視艇で対処困難な海域や離島等における武装集団への対応

 果たしてこれらの事例により、確立している政府の9条解釈論に揺さぶりをかけられたであろうか。残念ながら、以下に述べるとおり、これまた空振りである。

 まず①、②、⑤、⑥、⑦の事例であるが、これらは素人目で見てもマニアックに走り過ぎてリアリティを欠くことを指摘したい。このような事例を考案する報告書の立場は、米軍と共同して自衛隊の持てる武力を行使したい、するべきだとの決め付け、即ち、集団的自衛権ありき、であることを示している。これはトートロジー、結論をもって結論を導き出そうとする類の議論であり、最も説得力を欠く議論である。
 なお、報告書は、いとも簡単にこのような事例で自衛隊の武力行使を認めるのであるが、それは戦争当事者の一方への加担であり、かつまた他方への敵対行為であるから、その結果、わが国全土が攻撃対象となることをお忘れではなかろうか。

 次に③、④、⑧の事例であるが、そもそもこうした活動に自衛隊を参加させるべきではないという見解が有力に唱えられ、国民の中でも賛否が大きく割れる中で、⑧は不可とされ、③、④は、厳しい制約、歯止めを課して認められることとなったのであった。その制約、歯止めの根拠になったのが従来の9条解釈論である。報告書は、こうした経緯を無視し、一歩だけしか踏み出せなかった足を、ほとぼりがさめたとばかりに二歩も三歩も先に踏み出せと言っているのである。これは空き巣が、家人に見つかり、包丁をつきつける居直り強盗に類する論理ではなかろうか。

最後に⑨、⑩は、近時、マイナー自衛権として議論される問題で、集団的自衛権や海外での武力行使に関わる問題ではなく、一見確立している政府の9条解釈論にコミットしないように見えるが、自衛権行使三要件で定義される自衛権及びその自衛権を行使するために必要最小限度の実力という自衛隊の定義から、自衛隊の使用にはおのずから制限があると言わねばならない。
 これは、すずめを撃つのには空気銃はふさわしいが、決して大砲を使ってはならないというごくごくシンプルな話である。

2 大切なのは集団的自衛権行使の実例
 
 報告書は過去の集団的自衛権行使の実例を一切検討していない。これは敢えて避けたのであろう。しかし、確立している政府の9条解釈論の現実的妥当性を検討するのには、何をおいてもこれらを検討しなければならない。
 具体的事例を次回に検証してみることとするが、冷戦時代も、冷戦終了後も、本当にひどいものばかりである。

                                            (続く)
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プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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