憲法9条3項加憲改憲案の「闇」

 「非常にびっくりはしましたが、極めて鮮明で明確なご提案でした。本部長としては、総裁の意向をしっかり受け止めて、これを主要なテーマとしてまとめあげていくことが大切だなと思った次第です」

 6月21日午前、5月3日の憲法9条3項加憲改憲という安倍首相提案を受けて最初の自民党憲法改正推進本部の全体会合を終えて、同日午後3時半からの外国特派員協会の会見にかけつけた保岡興治・同本部長は、こう切り出しました。

 保岡氏といえば、元裁判官で、現在も弁護士登録を維持されているお方、その経歴を生かして、過去の自民党の憲法改正案づくりに関与し、リードしてきた自民党憲法族のドン、安倍首相の突然変異のような提案に辛口の批評があることを期待しましたが、存外、従順なお方でした。

 さて、約1時間に及んだこの会見のハイライトは、次のくだりでした。

質問者「実態として自衛隊が変わらないのであれば、なぜ改憲するのか」

保岡「おっしゃる通り、自衛隊の実態は変わらない。政府の合憲という解釈も変わらない。自衛隊の果たす役割も機能も、平和安全法制(安全保障法制)で整えた以上のものではない」

 「緊急性があるか、法的な必要性があっての改正かと言われると、それはありません。しかし、日本国の防衛の実力組織である自衛隊が、憲法にないことこそ異常なことです」

 「自衛隊は単なる実力組織ではなく、平和国家である日本の象徴であり、国民の祈りを背負ってるものだと私は思います。そういう自衛隊の存在意義を含め、国民誰一人、違憲であると言えない状況をつくることは、憲法改正において大いに意義のあることだと考えます」

 要するに、憲法9条1項、2項をそのままにして3項で自衛隊の存在を明記するという9条3項加憲なる憲法「改正」について、保岡氏は、緊急性も法的必要性もないと言い切っているのです。

 私は、当ブログ6月16日蘭の『憲法9条をグロテスクな条文にしてはならない』という記事で、硬性憲法を改正するには、「現行憲法のもとで、国の行政、国民生活の上に著しい支障が生じており、憲法を改正しなければこれを解決することができない事態に立ち至っているという状況が認められなければならない」、「これを憲法改正のための『立法事実』といいます。」と書きましたが、保岡氏は、そのような「立法事実」が存在しないことを自白してしまいました。

 その上で、保岡氏は、「国民誰一人、違憲であると言えない状況をつくる」ことを意義のあることとしています。

 私は、上記の記事で「むしろ異論の存在は、民主主義国家にあっては好ましいことで、それによって、自衛隊合憲論の立場でも、暴走を自重するという良き結果がもたらされるのです。」とも書きましたが、保岡氏は、国民は一枚岩でなければならないと考えているようです。

 どこか近くに、そのような国がありますね。安倍氏にしても保岡氏にしても、本当は、そのような国の方が居心地がいいのかもしれません。
                       (了)

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普通の軍隊に変貌する自衛隊 

 私は、2015年5月20日、当ブログにおいて、『専守防衛が堅持される?それほんまかいな~?』と題する評論を書き、戦争法案が成立すると、自衛隊の海外派兵=海外での武力行使は、必至となり、政府・自民党が、専守防衛は堅持されると言っているのは虚偽であることを論証しました。

 http://tofuka01.blog.fc2.com/blog-entry-237.html

 http://tofuka01.blog.fc2.com/blog-entry-238.html

 その際、私は、海外での「武器使用」の範囲の拡大が、自衛隊の海外派兵=海外での武力行使の扉を押し開く一つの鍵であるとして、次のように論じました。

(海外での武器使用の拡大)

① 政府見解では以下のとおり、武器使用と戦闘行為、武力行使とは異なる概念とされる(政府見解では、武力行使の定義が著しく狭いことに留意されたい。)。

・戦闘行為/国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為
・武力行使/①国家もしくは国家に準ずる組織に対する②組織的・計画的な戦闘行為
・武器使用/国家もしくは国家に準ずる組織が対象とならない武器の使用(自己保存、武器防護、治安活動・警護等任務遂行のための武器の使用)

② これまでの海外派兵時の武器使用の基本形は自己防護型と武器防護型であった。
⇒戦争立法ではこれを以下のように著しく拡大
イ 宿営地での共同自己防護
ロ 安全確保活動・駆けつけ警護活動における任務遂行のための武器使用
ハ 在外邦人の警護・救出任務遂行のための武器使用
二 重要影響事態での後方支援活動中に人員・物資・補給等の活動をする合衆国軍隊等の武器防護/その他海外自衛隊と連携してわが国の防衛に資する活動に従事中の合衆国軍隊等の武器等を職務上警護するにあたっての武器使用

③ これらが単なる武器使用にとどまらず、武力行使にあたる場合もある。かりにそうでなくともこうした武器使用の拡大により、敵対勢力の反撃から戦闘行為、武力行使に発展する(武力攻撃事態、存立危機事態を招き入れる)。

 少し言葉足らずだったこの文章の趣旨を補う論文をみつけました。雑誌『世界』に連載された軍事評論家の前田哲男氏の『自衛隊変貌』と題する論文です(第1回・2016年12月号、第2回・2017年1月号、第3回・同3月号、第4回・同4月号)。
 その第2回(サブタイトルは『境界線を失う「武器の使用」と「武力の行使」』)及び第3回(サブタイトルは『「改正」自衛隊法の検証』)の中で、前田氏は、以下のように述べています(可能な限り短く要約しましたので、文意の正確性が損なわれているかもしれません。御容赦下さい。)。

① 海外での武器使用の第一歩はPKO協力法であったが、そこで、部隊隊員は、「自己又は自己と共に現場に所在する他の隊員の生命又は身体を防護するためにやむを得ない」場合に、小火器を使用することが認められた。
これは部隊隊員の自己保存権であり、憲法9条1項の「武力行使」ではないと位置付けられ、なおその趣旨を明瞭にするため、部隊の任務から、部隊の駐留、巡回、武装解除など国連が要請する「本体業務」は凍結された。その後の変化は以下のとおり。

・ 1998年のPKO協力法第一次改正により、部隊隊員の自己保存権としての武器使用は、個々の隊員の判断ではなく、原則として上官の命令によらねばならないこととされた。これにより部隊隊員の自己保存権は、部隊の自衛権という色彩を帯びることになった。

・ 2001年のPKO協力法第二次改正により、「武器使用」の要件は、「自己又は自己と共に現場に所在する他の隊員若しくは自己の管理に入った者の生命又は身体を防護するためにやむを得ない」場合と改め、さらに自衛隊法95条を適用し、「PKO部隊の管理の下にある武器等の防護」まで拡大された。
  この改正により、部隊隊員の自己保存権は、部隊の自衛権に完全に変容した。
  
  同時に、この改正において、部隊の駐留・巡回、武装解除など国連が要請する「本体業務」の凍結が解除された。
  
  これらにより「武力行使」と「武器使用」の境界線はあいまいとなった。

・ 2015年改正(「戦争法制」)により、駆け付け警護、宿営地共同防護のための「武器使用」が認められ、PKO業務として「保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護」が追加された。
  これらにより「武器使用」は、警告・威嚇型から突入・射殺を含むものに質的変化を遂げた。

② PKO協力法による海外における「武器使用」の創設・発展・変容・変質の流れは、周辺事態法、テロ対策特措法、イラク特措法を経て、今般の戦争法制に怒涛の如く流入する。

 周辺事態法、テロ対策特措法、イラク特措法では、派遣部隊の活動エリアは、対象区域は限定され、かつ後方地域、非戦闘地域に限られていた。重要影響事態法、国際平和支援法においては、そのような限定は取り払われた。

 さらに自衛隊法の改正により、平時から有事に至る切れ目のない米軍等の武器防護のめの「武器使用」、在外邦人等の保護措置のための武器使用が認められた。

 かくして、「武器使用」と「武力行使」の境界線は溶解し、「武器使用」なる迂回路を通って、自衛隊の海外派兵=海外における「武力行使」への扉が開かれた。

 勿論、このような事態を確認したからといって、今般の戦争法制で、集団的自衛権を認め、真正面から海外派兵=海外での「武力行使」に打って出ようとする表通りの危険性・重要性を軽視していいというわけではありません。しかし、表通りだけを見ていると、事の本質を見失うこともあります。事態は、ここまで深刻となっていることをご理解下さい。

 軍隊はどんな小さな穴でもこじ開け、自己肥大を遂げようとする衝動に突き動かされるものです。軍隊とは、不羈独立へのはてしない野望を追い求めるものです。そういうことは、既にこの5月、私が、当ブログに連載した『明治維新という時代』の第二話『ニワトリからアヒルの帝国軍隊』で述べたところです。
 自衛隊も、憲法9条があるにもかかわらず、小さな穴をこじ開けて、ここまで来てしまいました。憲法9条を変えてしまえば、どこまで暴走するでしょうか。恐るべきことです。  
                                (了)

憲法9条3項加憲案の「深層」

 安倍首相の憲法9条3項加憲案には、一分の道理もないことはお分かり頂けたと思いますが、彼なりの小賢しさはあったようです。

 5月23日のデジタル版産経ニュース『ニュースの深層』(以下「本記事」という。)は、安倍首相の憲法9条3項加憲案の背景事情を説明しています。

 本記事によると、そのでどころは、評論家・保守系シンクタンク「日本政策研究センター」代表・「日本会議」常任理事(政策委員)の伊藤哲夫氏が、「日本政策研究センター」の情報誌「明日への選択」昨年9月号に書いた論文にあるようです。

 伊藤氏は、その論文で、憲法9条1項、2項をそのままにして、3項として「但し前項の規定は確立された国際法に基づく自衛のための実力の保持を否定するものではない」とする条文案を示しています。

 本記事は、「伊藤氏は首相のブレーンと報じられることもあり、首相はその国家観や政策を信頼しているとされる。伊藤氏の論文発表と、首相が側近議員らを通じて公明党に自衛隊加憲案を打診し始めた時期は一致する」と指摘し、さらに以下のように深掘りしています。
 
  「首相と近い憲法学者の八木秀次麗澤大教授は『戦力不保持と自衛隊の存在の整合性をどう表記するかなどクリアすべき課題はある』としながらも、『現状追認だが、憲法改正を一度経験するという意味でも自衛隊加憲は何歩か前進だ』と述べ、憲法改正の展望が開けたと評価する。」
  「首相がビデオメッセージを寄せた『公開憲法フォーラム』の主催団体の一つである『民間憲法臨調』(櫻井よしこ代表)の関係者は『メッセージの内容を事前に知らされていなかったので、首相が9条2項改正ではなく加憲を言って驚いた』としながらも、『緊迫した東アジア情勢を考えると、建て替えより、まず耐震補強をという考えは支持できる』と賛同する。」
  「民進党幹部も同じことを発言してきた。前原誠司元外相は昨年の党代表選で、9条3項で自衛隊を位置付けるべきだと提案。党の憲法調査会長を務める枝野幸男前幹事長も平成25年に『自衛権に基づく実力行使のための組織』を規定すべきだとした私案を文芸春秋で発表した。」
 「(民進党)代表代行を先月辞任した細野豪志元環境相は4日のブログで『“違憲かも知れないが命張れは無責任”との総理のコメントには、一理ある。9条2項までを維持して自衛隊を明記するというのも、これまでの自民党と総理のアプローチからすると柔軟だ。私も、いつかは憲法に書かなければならないと考えている』と書いた。」


 「維新の会」の名前は出てきませんが、既に、この党が安倍首相の第五列であることは、誰しも認めるところでしょう。

 安倍首相は、極右・超保守勢力の後押しで、自民、公明、維新、民進の一部の大連合による圧倒的多数の賛成を得て、9条に3項を追加するという、如何にも無害そうな憲法「改正」案(教育の無償条項案も抱き合わせにして)を発議し、国民の反対の矛先をかわしつつ、まずお試し改憲をやる、そして今度はそのどうしようもない坐りの悪さをあげつらって、9条2項の書き換えと、3項による国防軍創設へと誘導する、そんな小賢しさが透けて見えます。

 私は、これを称して猫だまし改憲案だと言いたいと思います。

 伊藤論文で示された「但し前項の規定は確立された国際法に基づく自衛のための実力の保持を否定するものではない」との3項例文は、私が示した例文と同様に、あらたな異論が噴出すること必定ですが、なお性質(たち)が悪い代物です。何故なら、「確立された国際法に基づく自衛」とすれば、他国防衛のための集団的自衛権の全面的容認を含意するからです。

 私たちは、安倍首相の下で、かってない民主主義の危機、憲法の危機を迎えています。まさに、今が正念場、それに打ち克つ力を、下から構築していくことが求められていると思います。
                               (了)

在日米軍の概要―これでも独立国か?

 日本に駐留する米軍の現状について調べようと思って、外務省と防衛省のホームページにアクセスしたが、非常にわかりづらい。どうも政府は、国民に周知徹底を図ろうとする姿勢がないようだ。
 辛うじて知り得たことは以下のようなことである。

(米軍基地)

 まず、米軍基地について知り得たこと。

 現在、日米地位協定第2条1(a)に基づき、米軍に使用許可されている施設及び区域(以下単に「基地」という。)は、以下のように分類できる。

A.日米地位協定2-1-(a)に基づいて在日米軍が専用で利用している基地
B.日米地位協定2-4-(a) に基づいて日米で共同使用している基地
C.日米地位協定2-4-(b) に基づいて米軍が一時的に利用可能な基地


 防衛省は、この区分ごとの面積を明らかにせず、A+Bと、A+B+Cに区分した面積を公表している。それは以下のとおりである(いずれも2017年3月31日現在)。

A+B     約 2万6400ha(うち沖縄は約1万8600ha)
           
A+B+C    約 9万8100ha(うち沖縄は1万8800ha)
          
残念ながらAのみの数字は不明である。

注:A+Bについてみると、国土の0.6パーセントを占めるに過ぎない沖縄に、全国にある基地の70.6パーセントもの面積の基地が置かれていることになる。この面積は、東京23区のうち、東側、南側の13区をカバーすることになるという。私たちは、ここに沖縄問題の今日的本質があることを直視しなければならないだろう。

(兵員数)

 次に、兵員数等について知り得たこと。

 防衛ハンドブック平成26年度版(朝雲新聞社)によると、2013年12月31日現在の兵員数は以下のとおりである(括弧内は、沖縄配備の兵員数で、沖縄県公表資料による、2014年3月31日現在のものである。)。

 合計  5万0341人 (2万6883人
 陸軍    2316人  (   1547人)
 海軍  1万9688人 (   3199人)
 空軍  1万2354人 (   6772人)
 海兵隊 1万5983人 ( 1万5365人)

(在日米軍駐留経費負担)
     
 防衛省は、1970年代から在日米軍の駐留を円滑かつ安定的にするための施策として、財政事情など十分配慮しつつ、わが国が駐留経費を自主的に負担してきた説明している。いわゆる「思いやり予算」なる珍名で始められた経緯を説明しているのであるが、実際には、1971年6月の沖縄返還協定に関わる密約の延長線上で、アメリカが、駐留経費の肩代わりを求め、わが国は「強いられて」、1978年度から、負担をするようになったものであった。当初は、文字どおりつかみ金であったが、順次、日米協定などで潤色され、範囲も額もどんどん増えて行った。

 現在、その内訳は、施設整備費、労務費、光熱水料等、訓練移転費、米軍再編関係費などであり、2017年度予算では、総額5875億円となっている。

(日米地位協定)
 
 日米地位協定とは、正式名称は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」であり、具体的にどこを米軍基地として提供するのか、提供手続はどのようにして行うのか、駐留した後の米軍、米兵・軍属、その家族は、わが国において、どのような取扱いを受けるのか、等を定める条約であり、1960年1月19日、国会で、強行可決されて以後、その根幹部分については改定されていない。

 地位協定には、以下のような問題があり、現代の不平等条約であると言っても過言ではない。

 一つめは、米軍基地の提供・返還の手続・内容が米軍の都合のよいものとなっていること。いつでも、どこでも、期限の定めもなく、使用目的・条件を厳しく限定しないまま、基地が提供され、しかも、国会の関与がなく、密室で合意される非民主的な仕組みとなっている。

 二つめは、米軍基地や米軍の活動が、基本的にはわが国の法のコントロール(規制)を受けない仕組みとなっていること。

 三つめは、様々な特権が米軍や米兵・軍属に与えられていること。特に、刑事事件に関わる特権によって、法的正義を害する事態が生じているし、行政上の特権によって市民生活を圧迫し、不公平な事態が生じている。

 こうした在日米軍をどう見るか。何を読み取るか。

 私は、日本は、独立国とは言えないのではないかと考えるのであるが、いかがであろうか。
                        (了)

憲法9条をグロテスクな条文にしてはならない

 安倍首相は、憲法9条1項、2項をそのままにして、3項に自衛隊の存在を明記する条項を置くとの憲法「改正案」を提起しました。彼は、その理由としてこんなことを述べています。

 「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきだ」

 おかしな理屈ですね。確かに、国民の中には、自衛隊が憲法9条に反するとの意見が根強く存在し、また憲法学者の中でも自衛隊違憲説は決して少数とは言えません。しかし、政府は、内閣法制局を通じて、自衛隊の活動に関わる個々の問題ごとに政府の解釈を示し、自衛隊と憲法9条との整合性を、ひとつずつ積み上げてきました。それらの政府解釈は、膨大な数になり、元内閣法制局長官阪田雅浩氏が、一冊の本にして出版されています(『政府の憲法解釈』有斐閣)。
 安倍首相は、これらに基づいて、行政府の長として行政権を行使し、「自衛隊の最高指揮監督権」を行使してきたのではなかったのでしょうか。

 安倍首相がどういうふうに認識しているか知りませんが、従来、政府は、多様な意見の存在にもかかわらず、一貫して憲法9条の下で、自衛隊の存在を認め、その活動を各種法令により根拠づけてきました。

 そもそも憲法は、国の最高法規です。それが軽々に変えられるようなことがあってはなりません。憲法学では、このことをさして硬性憲法と言っていますが、これは憲法の性質上当然のことなのです。

 さて硬性憲法がそうであるためには、まず改正手続が厳格でなければなりません。このことは憲法96条1項に定められていますね。
 でも、もっと重要なことがあります。それは憲法には書かれていませんが、現行憲法のもとで、国の行政、国民生活の上に著しい支障が生じており、憲法を改正しなければこれを解決することができない事態に立ち至っているという状況が認められなければならないということです。これを憲法改正のための「立法事実」といいます。
 国民や学者に異論がある。こんなことは憲法改正のための「立法事実」となりません。むしろ異論の存在は、民主主義国家にあっては好ましいことで、それによって、自衛隊合憲論の立場でも、暴走を自重するという良き結果がもたらされるのです。もし安倍首相が、異論封じのために憲法改正をすると言うのなら、それは憲法をファシズムの露払いにしようとするものと厳しく糾弾しなければなりません。

 さてそんなに危ない橋を渡ってまでして、安倍首相の目論見通り、憲法9条3項で、自衛隊の存在を明記するとしましょう。その3項はどういう規定ぶりになるでしょうか。具体的文言を考えてみましょう。

 まず9条の条文を確認しておきます。

第1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


 それでは第3項はどうなるか。

 第一に考えられるのは、「前2項の規定にかかわらず自衛隊の存在は認められる。」という規定です。しかし、これですと、存在を認められた自衛隊は例外としての戦力なのかそれともやはり「実力」なのか、それはどの程度の規模でどの程度の装備が認められるのか、その活動はどこまで許されるのか、交戦権はやはり認められないのか等々、1項、2項との整合性をめぐって、現在と同じように議論を呼び起こすことになります。そうしてその議論に応えて、現在と同じように膨大な政府解釈によって補わなければなりません。当然、異論は現在と同じように続くでしょう。事態は何も変わらないのです。
 そんな愚かな憲法「改正」に多大な時間と費用を空費し、国民を投票動員することに果たして正当性が認められるでしょうか。答えは明らかですね。

 そこで第二に考えられるのは、異論を予め封じるような書きぶりをすることです。具体的には、自衛隊の存在を認め、その任務として自衛隊法に書き込まれている自衛隊の任務を列記することです。

 一例をあげると、以下のとおりです。

 前2項の規定にかかわらず、自衛隊を存置し、以下の任務を遂行させる。

1 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。
  我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態において、当該武力攻撃を排除するために必要な範囲の武力行使は、この任務に含まれる。
  
2 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であって、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
① 我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
②  国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動


 憲法9条はこんなグロテスクな規定になってしまいそうです。

 しかし、それでも議論は百出するでしょう。存立危機事態の具体的意味、海外で武力行使をすることが許されるのか、敵基地攻撃は許されるのか、先制的攻撃は許されるのか、核兵器保持は許されるのか、交戦権はどうなるのか、自衛隊の規模、装備はどこまで許されるのか等々。結局、安倍首相の目論見は達成できないでしょう。

 安倍首相の、憲法を「改正」したいとの妄執につきあうことは、愚かなことというほかありませんね。

                                     (了)
プロフィール

Author:深草 徹
1977年4月、弁護士登録。2013年4月、セミリタイアして4年。歳を重ねましたが、「これからも、社会正義の話を、青臭く、続けよう」と思います。

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